変化
翌日命はいつも通り学校へ登校すると、いつも通り雛子と挨拶を交わし席に着いた。
特に変わった様子はなかった。
唯が教室に入って来るまでは…。
ガラガラガラ…
唯が教室に入った途端、
明るい朝の空気が暗く重たい夜の空気へと一変した。
「!?」
その急激な変化に
命は思わず立ち上がっていた。
「命ちゃん?」
命の様子を雛子は不思議そうに見上げた。
どうやら空気の変化に気付いたのは命だけの様だった。
雛子は命の視線の先を辿ると唯がいることに気付いた。
「あ、唯ちゃん来てたんだね」
と雛子は微笑んだ。
教室に入った唯は自分の席に向かった。
「オッス、唯!」
その途中、唯にクラスの男子,隆平が近付き声を掛けた。
「…」
唯は挨拶をされたにも関わらず無視して、他に目もくれずにズカズカと自分の席に一直線に向かった。
「なんだよ!」
隆平は後を追って
唯が座っている席の前に立った。
「おい、唯!オッスって言ったじゃんか。無視すんなよ!!」
「だから、何?」
すると唯は悪びれもせず、頬杖を着きながら足を組んだ、大きな態度で隆平を見た。
「はぁ?だから挨拶しろよって言ってんじゃん!」
隆平は怒鳴った。
「挨拶する気にならなかったの。何か悪い?」
唯の態度に隆平は苛立ちがつのる。
「お前、変だぞ!」
「はいはい」
唯は適当に隆平の話を受け流した。
「もういい!!」
とうとう隆平はキレて
唯の席から離れていった。
「唯ちゃん、どうしたの?」
紫姫が心配して唯の元へやって来た。
「どうもしない…」
「なんかイライラしてない?」
「関係ないでしょ。
アッチに行って!」
唯は紫姫を軽くあしらった。
紫姫は仕方なく命と雛子の元へ行った。
「おはよ。雛ちゃん、命ちゃん」
「おはよう、しずちゃん。
唯ちゃんの様子がおかしいね、どうしたんだろう?」
雛子は尋ねた。
「…昨日の夜の待ち合わせに遅れたから怒ってるのかも」
紫姫は相当落ち込んでいる様子だった。
「昨日の夜に学校に行ったの?」
命が尋ねると紫姫は首を縦に振った。
「でもね、家から中々出れなくて走って行ったんだけど、学校に着いた時にはもう15分遅れてて。
待ち合わせ場所に唯ちゃんの姿がなかったから、学校には入らずに帰ったよ」
「そうだったんだ…」
命は唯を見た。
唯の周囲から邪気が発生している。
―きっと一人で中に入ったんだ…
命はそう思った。
唯の邪気に反応して、
朝は大人しい霊たちが集まってきている。
唯は"何か"に取り憑かれているのだ。
命は雛子と紫姫をその場に残して唯の元へと行った。
「おはよう、唯ちゃん!」
「あぁ、次は命ちゃんか…」
唯は溜め息を着いた。
「そんな事、言わないで?」
命はそっと自然に唯の肩に手を乗せた。
唯に取り憑いた霊を祓おうとしたのだ。
だが、
パシンッ!
命の手は唯によって弾かれた。
「!?」
命は思わず唯を見た。
「触らないで!」
唯は興奮したのか大きな声で発した。
中の霊が命の力に気付いたのだ。
いつもなら気付かれる前に祓っているのに今回は気付かれた。
気付かれたどころか思いっきり抵抗された。
今までにないことだ。
おかしい…。
「…ごめんね」
命は祓えなかった事に動揺したが、いつまでも突っ立っているわけにもいかないので席に戻った。
周囲は「何今の…偉そうに…」と何やら唯の態度に口々に陰口を言っているが、唯は全く気にしている様子はない。
命はというと、そんな事を聞く余裕はなかった。
「命ちゃん?」
雛子は不安気な表情をして
命を見つめた。
「…」
しかし命は雛子の不安を他所に、なぜ霊が祓えなかったのかを考えていた。
それを落ち込んでいると捉えられても仕方がなかった。
「元気出して、命ちゃん!」
雛子は席に無言で座る命に声を掛けた。
命はふと顔を上げた。
そして唯を見た。
―ただの霊ではないのかもしれない。
―霊の集合体か、大きな霊か…
霊の力が命の力より強いとき、命は祓う事ができない。
恐らく、唯の中に憑いてるのは命以上の強い力を持っているのだろう。
―さて、どうするか…
命は対処について更に考え始めた。
丁度その時、命の元に隆平が友人を引き連れてやって来た。
忍と哲司だ。
「なぁ。唯、変じゃね?」
「そうだね…」
雛子は唯の様子を伺いながら言った。
「まるで、別人だ!」
ビクン!
隆平の言葉に命は反応した。
「…澤田は何か知ってんの?」
「え……し、知らない」
命は動揺していた。
「怪しいなぁ…」
隆平が命を睨む。
「…;」
命はさっと顔を反らした。
「余計に怪しいぞ、澤田!」
哲司が口を挟む。
「観念して吐いちゃえよ。楽になるぞ!」と忍まで。
「だから何も知らないよ!」
命は苦し紛れにそう言った。
「だからさぁ…」
突如隆平は言うのを止めた。
そこに唯が来たのだ。
「ねぇ、今日の放課後ヒマ?
…コックリさん、やらない?」
さっきまでとは一変し
穏やかな唯だったが、
それでもいつもと違う。
「お前、よく普通に話しかけれるな…」
隆平は唯に対しては怒った態度を取った。
「…さっきはイライラしてただけ。ごめん」
ぶっきらぼうにそう言う唯。
態度が変わりすぎだ。
「コックリさん、やらないよ。そんな事したら危ないんだから!」
命は反対した。
「じゃあ命ちゃんはしなくていいよ。強制はしないよ。先に帰りなよ」
唯は命に対して冷たい態度を取る。
そして隆平たちを見た。
「やる?」
「…面白そうじゃん!」
隆平は謝られた事で、
さっきまでの事は水に流していた。
「決まりね。しずちゃんたちは?」
次に唯は紫姫と雛子を見た。
「私、怖いことは…」
「へーきへーき。
何も怖くないよ!
私がいるし大丈夫!!」
怖がる雛子に唯がつけこんでいった。
しかしコルンは反抗しようとしなかった。
尻尾を足の間に挟み、
完全に怯えていた。
「ねぇ、やろうよ!」
「えー…」
「ちょっとでいいからっ!」
「…ちょっとだけだよ?」
「うん」
唯の強引な誘いに雛子は折れた。
「しずちゃんは?」
狙いを紫姫に変える。
「や、私は…」
「面白そうじゃん、
やってみようよ!ね!」
「…わかった」
唯のあまりにも強い願いで、さすがのマイペースな紫姫も折れた。
「忍君たちは?」
「俺らも!?いいのか?」
こういった話には興味がわく年頃なのだ。
忍も哲司も喜んで参加する事が決まった。
隆平・忍・哲司を除いては、命に強制しないと言っていたのにほぼ強制で参加させる事になった。
命は唯を見た。
―何を企んでるの?
すると唯は命に気付き、
ニイッと口角を上げた。
ゾワッ!
命に寒気が襲う。
嫌な邪気だ。
―さて、どうするか…
命は溜め息を着いた。
この時の命は後に起こる事なんて考えもしなかった―…