表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

帰宅

学校が終わった命たちは、

4人で帰り道を歩いていた。


「ねぇ、本当に忍び込むの?」


雛子は恐る恐る朝の会話を振り返した。


「当たり前でしょ。

ね、しずちゃん!」


唯は紫姫に話を振ると、


「うん!」


紫姫は目を輝かせて頷いた。


「何時に学校?」


紫姫は唯に尋ねた。


「んーと…9時に裏門ね!

モチ、親には内緒だからね!」


唯は人差し指を立てて言った。


「わかってるよ♪」


楽しそうに話を進める2人に、


「えー、止めときなよ!」


雛子は目に涙を溜めながら言った。


だが、唯に聞くつもりはなかった。


「雛ちゃんは来ないんだから、関係ないじゃん!

私たちの勝手でしょ?」


「はうぅぅ…命ちゃん〜」


雛子は命に助けを求める視線を送った。


「…唯ちゃん、本当に危ないよ。それでも行くの?」


「命ちゃんにも関係ないじゃん!しず行こう!!」


唯はアッカンベをして走り出した。


「じゃあねー!」


と紫姫は唯の後を走りながら命たちに手を振り、帰ってしまった。


「2人は絶対に行っちゃうよぅ…。どうしよぅ?」


雛子は命を見た。


「…まぁ、仕方ないよ」


命がそう言うと、

雛子は落ち込んだ。


2人を止められなかった事に。


「…雛子はちゃんと止めようとしたよ。友達にいけないことを注意できて凄い事なんだよ」


命はそう言って、雛子の頭を撫でた。


すると雛子は顔を上げて、命の腕に抱きついた。


「雛子?」


「…ありがとぅ」


雛子はとても聞き取れない様な小さな声で囁いた。


「…雛子は甘えん坊だね」


命は雛子の腕を組んだ。



それから雛子と別れ、

命は一人で家に帰宅していた。


「ん?」


角を曲がり家が見えてくると、家の前に黒い車が二台停車していた。


不審に思い、足を止めた。


二台の黒い車の運転席には

黒いスーツにサングラスをかけた、まるでSPの様な格好の男が座っていた。


どちらの男も立ち止まる命を見ていた。


「…」


命は足早に車の横を通り抜け、家の中に入った。


「ただいま…」


命が玄関に入るといつもなら聞こえてくる母の声は無く、換わりに黒い革靴が4人分綺麗に並べられていた。


不思議に思いながらも命は靴を脱ぎリビングに向かった。


リビングの扉を開けようとすると、中から母の低い声が聞こえた。


「…とにかく、うちの子をそんな所には預けられません!」


珍しく怒鳴りにも近い興奮した声に、命は一瞬固まった。


「しかし、奥様!」


「こちらに一千万円用意しております」


命は気になり中を覗いた。


リビングには車に乗っていた男と同じ服装を着ている男が4人いて、テーブルに2人着き、その後ろに2人立っていた。


黒スーツの4人は母と何やら真剣な話をしていた。


そしてテーブルの上には銀のスーツケース5つ置かれていた。


「お持ち帰り下さい。あの子を売るような真似はできません!」


母は目の前に置かれたスーツケースを断固として受け取らなかった。


「…命っ!」


その時母と目が合った。


「…ただいま。

何のお話してるの?」


「二階に行ってなさい」


「でも…」


「いいから、行ってなさい!」


母は鬼の様な形相できつく言い放った。


「…はい」


命は男たちに会釈して、二階に上がった。


二階の自室に戻っても母の声は聞こえてきた。


「もうお帰り下さい!」


命がイスに座って聞いていると、


「あ、お姉タン。おかえり」


有紀が命の部屋に入ってきた。


「有紀、あの人たち誰かわかる?」


「んー?」


有紀は頭を傾げた。


「わからないよね…」


命は3歳児には難しい質問だったと思い、有紀の頭を撫でた。


「…あ!あのねぇ、

"さこくじま"っていってたよ」


「さこくじま?」


「うん!」


有紀は思い出して凄いでしょ?とでも言っている様なキラキラと輝いた目で命を見た。


「ありがと、有紀」


命から礼を言われると、

有紀は満足したのか満面の笑顔で部屋から出ていった。


有紀を見送ると"さこくじま"という言葉について考えた。


「何だろう、"さこくじま"って…?」


考えたものの、結局は解らずじまいに終わった。



それから命は何時間か学校の宿題をしたりゲームをしたりと自室で過ごしていたが、夕食の時間になったので一階に降りた。


スーツの男たちはもう居なくて、真っ暗なリビングに母は一人俯いていた。


「お母さん?」


命が母に近づくと、

母は顔を上げて真顔で尋ねた。


「命、本当に何も見えないのよね?」


「え…」


母は更に詰め寄って命の両腕を掴んだ。


「もぅ…死んだ人、見えないのよね?」


腕を掴む力が強くなり、

痛みに命の顔は歪んだ。


「ねぇ…命…?」


「…うん」


命は戸惑いながらも頷いた。


すると母はすがり付くように命を抱き締めた。


「よかった…よかった…」


母の声は震えていた。


「もぅ…何も…見えないよ…」


命はそっと母の背中に手を回した。


「よかった…」


母のその声に、命は立ち尽くした。



数分後には母はいつもの母に戻り、命を放した。


「さてと、夕御飯を作らないとね!」


母はキッチンへ向かった。


命はそんな母の背中に話し掛けた。


「ねぇ、"さこくじま"って何?」


すると母は固まり、持っていたグラスが手からすり抜けた。


―――ガッシャ―ン!


「お母さん!?」


命は驚いてキッチンへ入った。


床には割れたガラスが散らばっていた。


「来ちゃダメ!」


母は直ぐに我に返って散らばったガラスの処理を始めた。


「…お母さん?」


すると母は床を見つめながら低い声で言った。


「命、その言葉は二度と口にしないで…」


「何で?」


「何でも!わかった!?」


母は怒鳴った。


「…ん。わかった」


命がそう言うと母は大きく息をついて作業を再開した。


その後いつもの明るい声に戻って、


「命、ご飯できるまでテレビでも見ていなさい?」


「はぁい」


やけに優しい声の母に、命は逆らえなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ