結ばれた日と陸がいる日々。
陸が帰ってきた。
ウチの中がとっても居心地イイ。
朝起きて今日も粒コーンスープを作る。
「りくー、朝だよ。起きて。粒コーンスープできてるよ」
「んっー、アキちゃん起こして……」甘えた声を出して手を伸ばす陸。
ドスッ。
「重くて引っ張れないよ」アキはそんな陸のお腹の上に乗り陸の顔を覗き込み頬を引っ張ると「甘えんな。目ー覚めた?」と起き上がる。
「はい……覚めました」
「よろしいっ」バァーと布団をめくりあげる。
「きゃー、寒い。やめて」相変わらず上半身裸で眠る陸。
もう見慣れた。
「うー、ひかるネェといいアキちゃんといいなんでこんなに凶暴なんだ」ブツブツ言いお腹をポリポリ
掻きながら陸は温かいこたつに入る。
「ほらっ、早くしないとっ」
トースト、粒コーンスープ、プレーンヨーグルト。アキはテキパキと朝食を机の上に置いていく。
そんなアキの姿を見て陸はそっと微笑んだ。
「アキちゃんなんか嬉しそう」
「は?」
「そんなに俺が帰ってきてくれて嬉しい?」
な、何言ってんのこいつ。図星……図星だけど……そういうコト、顔色変えず言っちゃう?
「は、はぁ……何言ってんの」アキが照れた顔を引きつらせチラッと横目で陸を見ると、陸が優しい表情で自分を見つめてた。
ドキッ。
ヤダ……どうしたんだ私。心臓がバクンバクンしだしてきた。
アキはパッと振り返り、陸に気づかれないように小さく深呼吸するとまた横目で陸を見た。
ドキッ。
うっ、まだ見てる。な、なんだろう。このドキドキは。なんだろう、この久しぶりのトキメキみたいなものは……。
「……」
ニッコリ微笑む陸の顔……。陸の顔、まじまじと見るのははじめてかも……。
こんな顔、してたんだ……。
淡々とした口調とは違ってとっても優しそうな顔。
そんなに見つめられると動けなくなるよ。
「アキちゃんって、男っぽさがなければ満点なんだけどね」
「えっ?」
「よく見ると綺麗なのに勿体無い」
は?陸の言葉で我に返る。
男っぽさ……よく見ると。
ガクッ。
そんなコト思って、今私を見つめてたんだ。う〜、この男、乙女に向かってそういうコト言うかぁ〜?
さっきの言葉、撤回。
あ〜、トキメイた私がバカだった〜。
陸はいつものように自分が言った言葉を気にするコトもせずに、スプーンを手に取ると粒コーンスープ
を飲み始める。
ほんと、今からでも粗大ゴミに出してやろうか?この男……。
「ほら、早く飲まないと冷めちゃうよ」
う〜。
最近は、仕事に行くのがほんと憂鬱だった。
あのいつも上機嫌のタケル先生を見てるのが辛かった。
世の中は上手くいかないもんだ。
恋愛に関しては人一倍そう思う。
やっぱ男っぽい……のかな?今朝、陸に言われた何気ない言葉に傷ついちゃったりもする。
こんな所は乙女なんだけどな。
きっとあいつらのせいだ……あのバカ4人衆(兄弟)
自分の生まれ持った性格のせいだけど、勝手に人のせいにもしてみる。
「おはようございます」
「おはよ〜」毎日高テンションのタケルを見て、テンションが下がるアキ。
(うっ、朝からキツイ)
奥さんとものすごく愛し合ってるんだ。奥さん可愛いもんな。
いけないいけない、暗い洞穴に自分を入れ込んでる。
今日の陸の手料理はなんだろうな?今日は久しぶりの陸の手料理を楽しみにがんばろう!
陸のコトを考えると少しは気分がマシになるから、陸のコトを考え、よっしゃ〜とテンション低い自分
にムチを入れる。
なんとか、今日も1日自分に入れた気合のムチも良く効き仕事が終了する。
「お疲れ様。あっ、アキちゃん残ってくれる?」
(げっ……)勘弁、勘弁、勘弁の2文字がアキの頭をグルグル回る。
「あ、はい」
「片付けが終わったら、来て」
「はい」
あー、どうしよう。先生と二人きりなんて……イヤだなぁ。こんな気持ちの時だから感情が先走ってし
まいそう。
「あのぉ、先生終わりました」
「あー、アキちゃんごめんね」タケルはいつものように仕事の話をし始める。
アキは頷き聞いてるが話の内容が全く頭に入っていなかった。
タケルの一生懸命話す横顔をアキはずーっと見つめていた。
聞いてるフリをして見つめる先生の横顔。
ダメだ……私。
先生の目、唇。キス……したい……。
先生の声が耳の奥を木霊している。
近くにいてもものすごい遠い先生。
カラダから込み上げてくる……熱い感情(想い)もう、我慢できない……。
「せん……せい……」
「ん?」アキの呼ぶ声にタケルは話を止めてニッコリ微笑み返事をする。
アキはタケルの目を真っ直ぐに見つめ、ゆっくりとまた口を開いた。
「好き……です」
「アキちゃん?」タケルは驚いた表情でアキの目を見た。
そりゃびっくりするよね?私、なんてコト言ったんだろう?私……もうおしまいだ……。
ひっそりと静まりかえる院長室。
クーラーの音だけが聞こえる。
診察室にはもう誰もいない。
どうしよう……後悔がどっと押し寄せる。
涙がアキの頬をつたった。
私……。今、穴があったら入りたい。
唇に手をあて泣くアキの手をタケルはそっとどかすと、アキの唇にそっと自分の唇をあてた。
(えっ?)
アキはタケルのとった予期せぬ行動に目を丸くし驚いた。
「アキちゃんって、可愛いよね」タケルはアキにニッコリと微笑みかけ、アキの涙を手で拭う。
「先生?」
「いつもふたりで話したかったんだ」タケルはそっとアキのおでこにキスをし鼻から唇へと移してゆく。
ふたりの息遣いが徐々に荒くなる。
アキとタケルは見詰め合った。
今度はアキからタケルにキスをする。
激しいキスの音と荒い息遣いが交互に聞こえてくる。
タケルの唇はアキの首筋をすっと優しく滑ったと同時にアキの口から声がこぼれた。
「あ……」熱いものが込み上げ身体が痺れていく感じがする……久しぶりのこの感じ……。私、もう我
慢できない。アキはタケルの白衣のボタンを1つずつ外すと、タケルはアキのスカートにそっと手をか
けた。
「いい?」
「はい」アキは頬を赤らめタケルの目を見つめコクンと頷く。
アキとタケルはその夜、院長室で結ばれた。
* * *
タケル先生との熱ーいコトの後、ウチに帰ると陸がいつものように晩御飯を作って待っていた。
「お帰り。今日は遅いじゃん」
「あ、うん……残業」アキは真っ直ぐ陸の顔が見れなかった。
さすがにシテキマシタ後だからなんか陸の顔が直視できない。
「ふーん」
「……」アキは俯き加減で寝室へと向かう。
そんな、いつもとは様子が少し違うアキの後姿を陸は不思議そうに見た。
……なんか変な感じ。
アキは寝室の襖を閉めると、コートも脱がずベットに倒れこんだ。
ふひょ、なんか変な感じ。陸は彼氏でもないし、別に悪いコト(あ、不倫はいけないコトか……)して
いるわけではないのに、なぜか待ってる陸に対して妙な気持ちが沸いてくるのと、自分の顔は、今シテ
キマシタ顔ではないんだろうか?という気持ちでいっぱいになる。ずっと部屋にこもってては余計怪し
まれる。
いけないよアキ。よしっ。
「あー疲れた〜。お腹すいた〜ご飯食べようか?」アキは思い切って寝室の襖を開けた。
「うん、温めなおしたから早く食べよ」
「う、う、うん……」ヤバイ、やっぱ陸の顔が見れない……。
* * *
次の土曜日の朝は、目覚ましより早く目が覚めた。というより、よく眠れなかった……。
お風呂に入っても、陸とTVを見てても、院長室でのコトが頭から離れなかった。
布団に入るとそれはよけいヒートアップして……眠くなってきたかと思えば、夢にでてきて目が覚める。そんなコトの繰り返しだった。
今日は月に1度の土曜日休日。
アキはどうせ布団に入ってても寝れないんだからと、いつものようにベットから出ると、パジャマ(ジャージ)のまま台所で粒コーンスープを作りはじめた。
スープを作り終えた頃、いつもは起こさないと起きない陸がめずらしく起きてきた。
「おはよう、アキちゃん」
あれ?めずらしい。
「ごめん。起こした?」
「うんん」陸はまだ少し眠そうな顔でこたつに潜り込んだ。
「まだ、7時だよ。もう少し寝てれば?」
「ん、いいや。そういえばさ、今日アキちゃん休みだろ?」
「ふへぇ、そうだけど?」
陸は、どうしたんだろう?という顔をするアキの顔を見ると「どっか行かねぇ?」と誘った。
「へ?」
「なんか仕事で嫌なコトでもあったんじゃねぇの?」
昨夜、いつもと様子が違っていたアキを心配して陸はアキを気遣った。
(陸、あんた……まさか私を心配して……)
「ん?別に何にもないよ」
(嫌なコトじゃなくて、嬉しいコトがあったんだけどね。まぁ、そんなコトどうでもいいや)
アキは陸が自分のコトを心配してくれたのがすごく嬉しかった。
「たまには2人で出かけない?」
「うん、いいよ」アキは陸の誘いにニッコリと頷いた。
今日はいつもより少し寒いけど、空は雲ひとつないいい天気。
アキと陸は、1月のこのさぶいの中公園に行くコトに決めた。
2人でどこかへ出かける(外出)のはこれがはじめて。
「さみー、でも、なんで公園なの?アキちゃん。っていうか誰もいないんじゃないの?」陸は寒そうに
背中を丸め歩く。
「空が青いから公園に行きたいんだよ」
「何それ?」
「陸が、“アキちゃんの行きたい所でいいよ”って言ったんでしょ?」
「だってまさかね……」
まさか、こんなにさぶいのに“公園に行きたい”なんて言うと思うかよ。陸は身震いしながらブツブツ
教の信者のようにブツブツ小声で言う。
そんな陸の横顔を笑いながらアキは睨んだ。
「何言ってんの?」
「いえ、別に……オネエサマに従います」
「それでよろしい」アキは満足げに頭をうんうんと上下にする。
「なんだ、元気じゃんかよ。心配して損したぁ」いつも通りアキを見て陸は安心する。
(陸……)
そんな陸の何気ない優しさがアキにはすごく嬉しかった。
独り暮らしを始めてからというか、高校卒業してからあまり周りで自分のコトを心配してくれる人はい
なかった。
(嬉しいよ、陸)
アキは陸の横顔を見てニッコリ微笑む。
そんなアキの視線に気づき陸は不思議そうな顔をする。
「何、アキちゃん?」
「陸、背が高いね」
「そう言うアキちゃんだって、せー高いよ」
「そう言われりゃそうだ」
陸は身長183センチで、アキは170センチ。
傍から見れば、長身バカデカカップル。
「私、やっぱ年上に見れるかなぁ?」
「さぁ、どうだろう?」
「陸はほんと、顔と口調がミスマッチだよね?」
「よく言われるよ」
2人の会話はいつもこんな感じで淡々してる。
……ほんと、あっさりしてるんだよな陸。まぁ、こんな感じがいいんだろう
けど……。
その後も、2人は淡々と会話をしながら公園までの道のりを寒そうに歩いた。
2人が公園に着くと、案の定、公園にはひとっこ1人もいなかった。
びゅるる〜。風が吹きっさらしの公園がより一層寒さを引き立てる。
「ふぇ、さびー」
「ほんとだ。寒い」
「だから……まぁ、いいや」
陸は途中で言葉を止め、池の辺にあるベンチに座り、アキも陸の隣に腰を下ろす。
「そういえばさ……」
「ん、何?」
「陸あんたさ、私とこんなトコにいるの彼女に見られたらおかしく思われるんじゃない?」
「あー、シスコンだって?大丈夫だよ。あいつ、今、大阪行ってんから……」
ふーん、そうなんだ。余計な心配だったか?
「そういえばさ……」今度は陸がアキに訊く。
「ん?」
「アキちゃん。この間のって、もしかしたら嫉妬?」
「は?」アキは首を傾げ口を開けたまま動きを止める。
ヤキモチ?私が、誰にヤキモチ?はて?
「アキちゃんちに百あげた時、すごい剣幕で怒ってたでしょ?」陸はニヤリと笑い言う。
すごい剣幕?私は、至って冷静沈着だったような……。
「っか、バカ言えっ。そんなコトがあるわけないわっ」
「そうかなぁ?」陸は平然とした表情で空を見上げながら考える。
「ちょっと、それは自惚れという病気ではないんですか?陸くん?」
「んー」
頼むから変なコト言うなよ。
ヤキモチなんか妬いたつもりはないのに……どんどんそんな気になってゆく……。
この同居だってそうだ……。こいつ……ちょっとヤバイぞ。
「……」
アキは陸が見上げる空を見上げた。
ほーんと雲ひとつないキレイな空。私の心はこんなにもキレイなのに……。
どうして、こんな私をみんなはいじめるんだ。
とくにコイツ。
アキは、ずーっと空を眺めている陸を横目で見ていた。
そんな陸はアキのガンにも気づきもせず、背伸びをしながら立ち上がり一言
「あー、腹減った」とのん気。
ほんとコイツ、恐るべきマイペース。
「よしっ、ラーメンおごっちゃる」アキも背伸びをしながら立ち上がった。
「やったー」
「その代わり、もう変なコト言うなよ」
「えっ、なんのコト?」あっさりと訊き返す陸。
ズルッ。……もう、忘れてる。
「……もう……いい……」
ガクッゥ。あー、ほんと、従姉のひかるとそっくりだ……。あんたたち……従姉弟じゃなくて、本当
の姉弟なんじゃないの?あの従姉にこの従弟あり……?昔の人はよく言ってもんだ……。
違うって……(涙)
嗚呼、神様。
これからの私の人生、本当に平淡、平凡でありますように……。
お願いっ!!(二回目)