けんか。
別に帰ってこなくていいんだけど…。
いいんだけど、気になる。
いつものように起きる。
朝、粒コーンスープだけは必ず手作り、それを飲んでアラームが鳴ると仕事に向かう。
いつもと変わらぬ行動。
いつもと変わらぬ朝…。
「おはよう」
「おはよう」
荷物をロッカーに入れ、白衣に着替える。
「どうしたのアキちゃん。なんか暗い」
「えっ、そう?」
「うん。顔が死んでる」
(えっ?顔が…)
「おはよう。今日もがんばりましょう!!」
朝から、テンションが高いたける先生。
「先生、なんかテンション高くない?」
「あれ?アキちゃん知らなかった?」
「えっ、何を?」
歯科助手の成美ちゃんがアキの耳元で「先生の奥さんおめでたなんだって」と言う。
「えっ?」アキは目の前が真っ暗になった。
先生の二人目の子供…。
そっか、夫婦だもんね。
奥さんいたんだもんね。
知ってるけど、分かってるけど…なんかショック。
今日はなんか最悪な日かも…
1日ブルーな気分で仕事が終わり、アキは久し振りにスーパーに寄って行った。
たまには私だって!!。女らしいとこ見せてやる。
合挽き、玉葱…次々カゴに放り込む……。
重い荷物を抱えながらアキはアパートの階段を一段ずつ上る。
「ただい……」
今日、さらなる……追い討ちをかけるような……目の前。
「あっ!お姉さん。お邪魔してます」
おっ、お姉さん?。
私?
ああ〜ぁ?
まっ茶っ茶に染めたクルルンカールの髪につけまつげのクルルンばっちしメイク。
そんなイマドキの女の子はアキを見てニッコリと笑う。
「あっ」
昨日の晩の陸とけんかしてた……女の子。
(どうして?)
「あれ?。アキちゃん帰ってたんだ……」なにくわない顔で陸はトイレから出たきた。
ムッとする気持ちを押さえ、スマイルスマイルと自分に言い聞かせ「この子は?」と、アキは陸に訊く。
「あ、俺の彼女?」
(はぁ?彼女だとぉ……イケシャーシャーと)
「綾瀬百花です。よろしくお願いします」
ふーん。一応礼儀はいいんだ。
「はぁい。り・くの義姉の、アキですよろしくね」アキは飛びっきりのスマイルで百花に挨拶する。
ムッとしているアキに陸は気づきもせず「何?アキちゃん、晩御飯の材料買ってきたの?。めずらしい」
ピクッ!。
(めずらし…い?)
「あぁ?うん」
「すごーい、お姉さん何作るんですか?」
「ハンバーグ」
「百花、食べてきな」何も気づかない陸の一言一言がアキの腹を煮えくりかえらす。
アキは材料をドサッっと流し台に置き、エプロンをつけご飯を作り出した。
もうココロの中は煮えくりかえりそう…。
キラーン。
キラリと包丁が光る。
(陸のヤツ、覚えとけ〜)
この玉葱のように〜…。
アキは黙々と作っている。
なんでこうなるんだろう…?。
オコタで、陸、百花は仲良く、アキは黙々と晩御飯を食べた。
ほんとに今日は最悪な日…。
一人で浸れるコトも出来ない…。
ほんと、サイアク…な日。
晩御飯を食べ、陸は百花を送り、アキは静かな部屋で一人になった。
なぜか涙が頬をつたう。
私、何してるんだろう…?
涙が溢れ出して、私…もう止められない。
こんな私、陸に見られたくない。
陸が帰って来るといけないからお風呂に入っちゃおう。
洗いかけの食器をそのままにアキは洗面所にむかう……。
「ついてない」鏡の中の自分…にため息をつく。
「ただいま〜。アキちゃん怒ってる?。」陸は百花を駅に送り、急いで帰ってきた。
一応、気づいてたらしい……。
いきなり開けた部屋に女がいたらそれは誰でもビックリし怒る。
そんなコトぐらいは分かる。
「……あれ?」
部屋はシーンとしていた。
ピチョン…。
水道の蛇口から水滴が落ちる。
「アキちゃん?」
洗いかけの食器が物語る……。
陸は残りの食器を洗った。
カチャッ。
洗面所からアキはタオルを被ったまま俯き何も言わず出たきた。
「アキちゃん……」
「あ、帰ってたの……」陸の顔を見ようともせずアキはドレッサーに座りドライヤーをかける。
「アキちゃん。ごめん」小さな声で謝る陸。
「悪いって感じたんだ」アキはドライヤーを止め陸の顔を見た。
「……」アキのただならない雰囲気を陸は感じる。
「ひどいよ陸。ここ私のウチだよ」
「知ってる。百花がどうしても来たいって言うから」陸は俯き申し訳なさそうに言う。
百花。
彼女が来たいって言えば、私のコトなんかいいんだ……。
「私、陸のお姉さんなの?」
声が震える。
「……」
陸は首を振る。
「どうしてウソつくの?。お姉さんってウソつくぐらいならここに居なきゃいいでしょ?」
「だからごめんて」
「だいたい、陸が賭け事して仕送り止められたんでしょ?なんでウチなの?私覚えてないのに……なんで私が嫌な思いしなきゃいけないの?」
何言ってんだろ?
なんか…違う方向にいってる。
ウチにあげたコト怒ってるんでしょ?アキ。
お姉さん…ってぐらいいいじゃない?
自分の中で自問自答してる。
「そんなん決まって納得したコト、今頃グチグチ言うなよっ!!」初めて聞いた陸の大きな声。
「なんで陸にそんな口の聞き方されなきゃいけないの?こんなコトすんなら出ってってよ!!」
えっ、私何を……。
自分の発した言葉に自分でビックリする。
陸はアキを見て「分かった出てくよ」と売り言葉に買い言葉で、押入れからバックを取り出し、
収納BOXから洋服を取り出すとグチャグチャにつめ込む。
「……」
「2週間だけだったけどありがとうございましたっ」
陸はイライラしながらブーツを履くと、バァンッと勢いよくドアを開けて、部屋を出ていった。
「あ……」
私、陸にあたったのかも……。
サイアク。
アキは泣きながらドライヤーで自分の髪を乾かした。
「ちきしょう!!」陸はアキの部屋を見つめ電柱を蹴っ飛ばした。