固まる決心。
大学が春休みになった陸は毎日レポート用紙と部厚い本とにらめっこしている。
私にはよく分からない難しそうな本が何冊もコタツの上に置いてある。
「じゃぁ、私行って来るからね。昼、ご飯作りに帰ってこようか?」
「うんん、大丈夫だよ」
「そう……」
ちぇっ、少しでも一緒にいたいのに……陸の馬鹿。
「仕事がんばってな」
「おぅ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
やっぱり私は言えなかった。でも、心の片隅にはまだあの気持ちは残っている。
いつ、その時が来ても大丈夫のように……。こんな事を考えて恋愛する人はいない
よな。
相変わらず私と陸には肉体カンケイという関係はない。
最近、キスもしていない。
男なのによく我慢できるなぁ……陸。
空気みたいな存在に変化してきてるのかな?。そんなコト思い仕事に向かう。
* * *
アキちゃんを幸せにすると決めた。
もう家には帰らない……。
小さい頃から、酒造り以外には、サッカーと料理ぐらいしか興味がまったくなかっ
た。
サラリーマン?……自分の将来を真剣に考えるようになる。
勉強の手を止め、しばらく天井を見つめる。
アキちゃんがいない部屋は静かでたるくて嫌だ。
「やっぱり、昼帰ってきて、って言うんだったぁ〜はぁ……」
天井を見ながらアキのコトを考え、陸はいつの間にか深い眠りに入っていった。
ピッポーン。
遠い意識の中で玄関チャイムが鳴るのを聞く。
「んんん……」
あれ?アキちゃんが帰って来る時間にしちゃ、早い。
目を覚ました陸は時計を見た。
しまった……もう15:00だ……。
ピッポーン。
「はい。誰?」
ボーっとした顔でドアを開けた陸は外で立っている人を見て驚いた。
「あっ」
「りっくん」
ニコニコし微笑みながらなのかが立っている。
「あ、なの、こんな所まで来てどうした?」
「はい、これおじさんから」
なのかは酒の一升瓶を差し出す。
「まさかこれをわざわざ?」
「昨日ね、こっちにいる友達の所に遊びに来て、そのついで」
「あっ、そうなんだ、なんかこんな重いもの持たせてごめんな。ったく、親父の奴」
ぶつぶつ怒っている陸。
「じゃぁ、帰るね」
「えっ?、じゃぁ、送るよ」
「え、あ、ありがとう」
陸が玄関ドアの鍵を閉め「さ、行こう」ジーンズのポケットに鍵を入れなのかと歩き
はじめた時、カツカツカツとアキが階段を登りウチに昼ご飯を作りに帰ってきた。
「あ」
「あ」
アキは陸の顔を見上げ、後ろにいるなのかを見た。
「……」
アキの目に薄っすら浮かぶ涙。
「アキ……」
「……」
アキは何も見なかったかのように二人から目をそらし慌てて振り向き走り出した。
「あっ、アキちゃんっ!」
アキが誤解したと感じ急いで階段を降りる陸。
「あっ、りっくん」
「ごめんっ、なのっ、やっぱ送れない」
アキを追いかけ走り出す陸を見てなのかは泣き出した。
「ひっくっ…うっ、う…」
小さい頃からずっと好きだった陸。
陸に彼女ができてもいつかは私を見てくれると信じてた。
幼少の頃の約束。
アキを追いかける陸を見て、信じてた陸への想いがガラス瓶を割ったようにパァーッと粉々に砕け散る。
「りっくん…。」
「アキちゃんっ、誤解だってばっ…アキっ!!。」
追いかける陸。
分かってる…分かってるけど…私…。
私…もう…。
アキは突然走るのを止め、陸の方を見た。
「はぁ…はぁ…。」
「はぁ、はぁ、アキちゃん。」
陸はアキのコートを掴み、息を飲み込みアキの顔を見る。。
アキの目から溢れ出す涙。
止まる事を知らないかのようにアキの頬を流れる。
「ひっ、く…。」
「言い訳みたいで嫌なんだけど…あいつ、親父に頼まれて酒持って来ただけなんだ。」
アスファルトをボーっと見つめるアキ。
親父…陸のお父さん…。
陸のお父さん…胸が苦しくなる。
「…。」
「ねぇ、アキちゃんなんか言ってよ。」
アキの顔を覗き込むがアキは陸の顔を見ようとはしない。
アキの身体を揺する陸。
「なんか言えよぉ…。」
なんか…なんか言わなくちゃ…。
陸に…なにか言わなくちゃ…。
「陸…。」
「ん、何?。」
アキは視線をゆっくりとアスファルトから陸に移し、涙いっぱいの顔で陸の顔を見ると、
「陸…私達…終わりにしよう…。」
「…。」
アキの口から出た言葉に陸は驚き、掴んでいたアキのコートをそっと離した。
「私達…もう、終わりにしよう。」
「本気で言ってんの?。」
コクンと頷くアキ。
「ほんとはね、ひかるの結婚式から帰った時に言おうって決めてたの。」
陸の目にも浮かぶ涙。
「なんだよ…それ…。」
冷めた目でアキを見つめる目。
「ごめん。」
アキは深々く頭を下げる。
「はぁ?。」
「ほんとにごめん。」
「…。」
陸は自分に頭を下げる謝るアキを見て愕然とし、歩き出した。
「陸?。」
「…。」
力ない後姿の陸…。
今なら間に合う?…でも、陸にはこれが一番いいんだよ、アキ。
陸は、私なんかと一緒にいないであの子と安西酒造を背負っていかなきゃ…。
ね、アキ。
「これで、いいんだよ。」