一言も告げず。
「何処に行ったんだろう?。」
陸は、ひかるの家の中を捜し、庭へと出る。
「はぁー、さっ、お手伝いでもしてこよ。」
アキは部屋の中に入る。
「おはようございます。」
いい匂いがする。
お母さんの作る朝ご飯のいい匂い。
懐かしい匂い。
「おはよう。アキちゃん陸ちゃんと会った?。」
「えっ?。」
「りっくん捜してたよ。」
「あ、そうなんだ。」
髪の毛を束ね手を洗う。
「手伝います。これ、よそえばいいですか?。」
「そんな、いいのに…ゆっくりしてて。」
「おはようございます。」
幸子が起きてくる。
「おはよう。みんな早起きねぇ。」
「あれ?、アキいるじゃん。陸が捜してたよ。」
「みたいだね。」
「りっくんってよっぽどアキちゃんの事が好きなんだね。」
ひかるの妹の京が言う。
「え〜、そんな事ないよ。」
「陸ちゃん、捜さなくていいの?。」
「いいんです。」
元気のないアキの顔にみんなは気づいた。
「アキ?。」
「ん?。」
「け…うんん、なんでもない。」
心配そうな顔でアキを見るみんな。
そんなみんなにアキは気づいた。
あ、しまった、私…。
「私、トイレ行って来る。」
「あ、うん。」
アキがトイレに行き、入れ替わるようにして陸がお勝手に顔を出す。
「叔母さん、俺ちょっと行かない所があるから帰るね。」
「あれ、アキちゃんは?。」
「あ、何処にもいなくて…。」
ため息をつく陸。
「今、トイレに行って…。」
「いるんだね?、じゃぁ、いいや。帰る時携帯に連絡してって伝えといて。」
「うん。あ、ご飯は?。」
「家で食べるからいい、さっちゃん、京またね。」
慌てて帰っていく陸。
「ふふっ、おじさん気持ち良さそうに寝てる。」
陸が帰った後、アキはニコニコしながら戻ってきた。
「あ、アキ、陸が帰る前に連絡してだって。」
「ん。」
陸の名前を聞くと暗い顔になるアキ。
みんな気づくけど、どうしたのか?と聞けなかった。
昼過ぎになり、帰る時間になったアキ達はひかるの家族に挨拶をし、タクシーに乗り込んだ。
「そう言えばアキ、陸に連絡した?。」
「あ、忘れてた。まぁ、いいや。」
あっけらかんと言う。
「なんかあった?。」
「ん?、なんにも…。」
「そう、ならいいけど。」
夕方になってもアキからの携帯の着信はならない。
陸は気になり、ひかるの家に走った。
ガラガラッ…。
「はぁはぁ…叔母さんっ、アキちゃん達は?。」
「あれ?、もう帰ったわよ。」
「えっ?。」
もう、帰った…?。
アキは陸に一言も告げずウチに帰って行ってしまった。
「陸ちゃん。」
「何、叔母さん?。」
ひかるのお母さんは真剣な顔で、
「なのかちゃんとは本当に結婚するの?。」
「あ、あれは親父が勝手に…。」
「アキちゃんとは結婚前提に一緒に暮らしてるんだよね?。」
「俺はそのつもりだけど。」
「そう、なら早くなのかちゃんとの結婚話止めないと…あなたのいない所でどんどん話しが進んでくよ。」
「うん、分かってる。」
「アキちゃん、その事感じてるんじゃないのかな?。」
「…。」
「うちは普通の家と違うから…。」
「う…ん。」
「叔母さんは、あなた達の事、応援してるから。」
「ありがとう、叔母さん。」
遠い親戚のみんなは、俺となのかが結婚すると思っている。
たぶんこの町のみんながそう思っていると思う。
『うちは普通の家と違うから…。』
叔母さんの言葉が胸に残る。
なのかの家がどっちに転んでもそれは変わらないだろう。
でも、榊原酒造がなんとか少しでも前みたいになってくれれば…。
信ちゃんがんばってくれ。
勝手だけどそう思う。
ウチに着き、ずーっとバックの奥に入れておいた携帯電話を見る。
何件もの電話が入っている。
それはもちろん陸からの電話。
「しつこくかけてんな。」
この何件もの電話が陸の私への愛情に感じる。
ごめんね、陸。
私…。
「ごめんね。」