激しく想うほど、すれ違う心。
食事を終え、携帯電話を見るとPM8:00.になっていた。
陸からの連絡はない。
「はぁー。」
おもわず出たため息。
「どうしたの?。」
「あっ、すみません。」
「もしかして、駅で誰か待ってたの?。」
アキは駅の方を見ると、
「いいえ。」
「そう言えば、弟さん元気?。」
「えっ?。」
「あの時の…。」
タケルは煙草に火をつけ、そっと微笑んだ。
「あ…。」
「弟さん、すごく君の事が好きなんだね?。」
弟…かぁ…二人いるけど。
「…。」
「アキちゃん…。」
タケルはアキの顔を見つめる。
「はい?。」
アキも見つめ返す。
今は、ドキドキすらしない。
「俺、離婚…したんだ。」
「離婚…ですか?。」
「そう。」
離婚…。
聞いた二文字に驚きも何にも感じない。
私は、タケル先生から…。
「そうなんですか?。」
タケルは灰皿に煙草を置き、コーヒーを一口飲むと、
「アキちゃん、俺とより戻さない?。」
より戻す?、あんなの付き合いに入らない…。
「私…。」
「ん?。」
私はタケル先生を…。
「無理です。ごめんなさい。」
もう、なんとも想っていない…。
アパートの鍵をイライラしながら開ける陸。
真っ暗の部屋。
電気もつけず、荷物とお土産の袋を投げ捨て襖をおもいっきり開け、アキのベットに倒れ込む。
アキちゃんのシャンプーの匂いがする。
ファミレスの二人。
思い出すとなんとも言えない感情が沸いてくる。
嫉妬。
アキに初めて嫉妬する?。
いいや、この感じ…確か診察室で揺れる二人の影を見た時感じたのと一緒。
アキちゃんとあいつが抱き合う姿が目に浮かぶ。
アキちゃんの真っ白い身体の曲線。
自分はまだ触れないと決めているアキの身体。
その身体をあいつはきっと何回も抱いたんだ…。
タケルとファミレスで別れ,アキはとぼとぼと家路を歩く。
あんなに好きだったタケル先生、あんなにタケル先生を好きだった私。
私の心の中にはもうあの時の私は少しも存在していなかった。
陸が大好きな私…。
でも…。
この恋も終わってしまうの?。
どうして私はこんな恋愛ばかりなんだろう…?。
ほんとイヤになる。
お前には恋なんて似合わないぞ!って言ってんのか?。
陸とあの子が目に浮かぶ…あの子がきっと陸のお父さんが言ってた陸のお嫁さんになる人。
私と違って女らしくて品がある可愛い子。
自分が年上だからかな?男っぽいからかな?、自分に自信が持てない。
陸を信じたい。
信じたいと願うほど…怖い。
また独りの部屋。
玄関口のスイッチを探し、電気をつける。
「あ。」
陸の靴…脱ぎ捨ててある。
「陸、帰ってるの?。」
返事がない…。
「陸?。」
洗面所を覗いてみたけどいない…。
あれ、いないのかな?。
アキがベットが置いてある部屋の襖を開けるとベットに埋れ眠っている陸。
なんだ、寝てんじゃん。
「陸、起きて、布団かぶらないと風邪引くぞ!。」
「…。」
「陸ぅ。」
陸を揺する。
「ねぇ、どこ…行ってたの?。」
小声で聞く陸。
「もぉ、起きてるなら返事しな。友達とご飯食べてたんだよ。」
「ふーん。」
起き上がり冷めた目でアキを睨むように見る陸、こんな陸初めて見る。
今日は様子が少し変。
「何、機嫌が悪いの?。」
アキはコートを脱ぎ髪の毛をしばる。
「あいつと…より戻したの?。」
「えっ?。」
「あの、不倫相手とまた寝た?。」
何言って…。
「何言ってるの、どうして?。」
「一緒にいる所見た。」
あ、ファミレスで…。
「違うよ偶然会って、食事しただけ。」
「あいつの事、まだ好きなの?。」
「えー?何言って…。」
グイッ…。
「きゃっ!!。」
陸はアキの手を強く引っ張りベットに押し倒しアキにキスをした。
「陸?。」
「あの男と何回寝たの?。」
「えっ?。」
グサリと突き刺す冷めた目で自分を見る陸の顔…。
「あいつに何回感じた?。」
分かっているのに出てしまう言葉。
えっ、イヤだ…どうしたの陸?まるで別人みたい。
「どうしたの陸?、変だよ。」
「いいから、答えろよっ!!。」
陸はアキの両手を押さえつけ、アキの首筋を荒くむしゃぶりつく。
「どうしたの陸?。」
震えるアキの身体。
まだ、中絶の恐怖から抜け出せていない。
アキの身体から唇を離し陸は切なそうにアキの顔を見る。
震えてるアキ。
(あっ…。)
陸は震えてるアキに気づく。
震えてる…。
「どうしたの?。」
「…。」
「どうしたの?、抱きたければ抱けばいいじゃない…。」
「…。」
「どうして我慢するの?。」
もう大切になんかしてくれなくていい。
だって…。
「…。」
「陸のお嫁さんになる子、可愛い子だね。」
ニッコリ微笑むアキ。
「どうしてそれを…?。」
アキから離れベットに座る。
「今、一線越えたら申し訳ないかぁ。」
「何それ?。」
こんな時こそ抱いて欲しいのに…身体と身体を重ね合えばきっと…少しでもこの不安から逃れられると思うのに…。
大切にされ、大切にされ、捨てられるのはなんか淋しい。
そばにいる陸が遠く感じるのは私の気のせい?。
「ねぇ、抱いてよっ。」
「…。」
今度はアキが陸を押し倒し、キスをする。
「陸、男でしょ?。」
少し震えるアキに陸は気づいている。
「…。」
俺にでさえ震えてるのに…そんなアキちゃんを今抱くことはとてもできない。
「ねぇ、ねぇってばっ。」
自分の責任とかもあるけど、それ以上にアキちゃんの心の奥にある傷が少しでも癒えない限り俺は抱けない。
震えてるアキの身体…。
ほんとうに大切にしたいって決めた女。
お互いが激しくお互いを想うほど…。
…アキは諦めたかのように身体を起こすと、
「大嫌いっ!!。」
一言言い放ち部屋を飛び出した。
「バカ野郎…どうして分かんねーんだよ。」
二人のキモチがすれ違い、相手の些細な事でも理解できなくなる。
「俺だって、抱きたいよ…。」
二人同じ気持ちなのに…。
「あんなに震えてたら抱けねぇじゃないか。」