ふられたキモチ。
朝、10:45の新幹線に乗り、陸の実家に向かう。
不安、信じてる。
信じる、でも不安。
そんな言葉が頭をグルグル回る。
新幹線に乗り2時間…電車で45分。
陸の住む町は、門前町としての古い歴史、宿場町としても栄え、今でも江戸時代創業の老舗旅館や店が当時の面影をとどめている。
「すごい…なんかタイムスリップしたみたい。」
こんなところで陸は産まれ、育ったんだ。
ゆっくり歩いて陸が育ったこの町を感じてみる。
この町の空気…陸の優しさ、強さが分かる気がする。
あっ!、浸ってられない。
「安西酒造…っと。」
辺りを見まわす。
安西酒造、安西酒造と…。
うう…っ、ない…どこにもない…ひかるに聞いてくるんだったぁ。
タクシーのおじさんを捕まえ、安西酒造の場所を聞く。
ここからまだ車で10分ぐらい行ったところにあるらしい…。
アキはタクシーに乗り、緊張した顔で陸の家へと向かう。
陸はなんて言うかな…びっくりするだろうな?
ひょっとしたら迷惑がるかも、会えないかも…。
色んな事を考えてるうちにタクシーは安西酒造の前で止まった。
「おねーちゃんここだよ。」
「あっ、はい。」
車の中から覗くと、わーすごい馬鹿でかい門と家。
「おねーちゃん、ここの酒はお勧めだぜっ。」
「あ、はい、ありがとう。」
来てしまった。
来ちゃったよぉ〜。
そっーと、門の中を覗く。
(あっ、誰かが来るっ。)
とっさに電柱の影に隠れるアキ。
「私…何やってるんだろう。」
誰だろう?。
アキは電柱の影から歩いてくる人を見た。
「やだぁ〜、りっくん。」
「えー、だってさぁ。」
「4人なんて多すぎない?。」
「子供は多いほうのがいいよ。」
歩いてきたのは、楽しそうに話す陸と可愛い女の子。
二人はアキに気づかず歩いていく…。
4人…子供は多いほうのがいい?。
「…。」
陸、あの子…。
仲良さそうに歩いていく二人の後ろ姿を見つめる。
「なぁんだ…だから連絡来ないんだ…。」
なーんだ、こっちでよろしくやってんじゃん。
私、ばっかみたいじゃん…。
もういいや…。
新幹線が通りすぎる音がやけに響く。
どうせ、終わる恋だから…もういいや…。
陸を…信じると誓った。
でも、もう信じられない…。
でも、信じたい?。
心の中で、諦めと信じたいと思う気持ち…信じたいと思うほどその心は諦めよりも苦しくなる。
もう…分からない…。
瞳を閉じる。
私…。
新幹線を降りると、辺りは真っ暗。
あのまま寝ちゃったから気づかなかった。
「5時45分かぁ…。なんかお腹空いた。」
ご飯…食べてこ。
こんな時でもお腹空くなんて。
「アキちゃんっ。」
(えっ?。)
声がする方を見たアキの前には、タケルが立っていた。
「あ…。」
スーツにロングコートを羽織ってる。
「アキちゃん、久しぶり。」
ほんと久しぶり。
できれば会いたくなかった…ヒト。
「はい。」
暗い顔のアキとは違って、なぜか嬉しそうなタケルの顔。
「今、1人?。」
「はい。」
「一緒に食事でもどう?。」
会いたくなかったけど…話す事なんかないけど…。
「はい。」
今ならきっと普通に話せると思うし…。
独りで食べる夕食よりはマシ。
「じゃぁ、駅前のファミレスに行こうか。」
「はい。」
「あー、遅くなっちゃった。アキちゃん心配してるだろうな?。」
陸はアキが乗った新幹線の1本後の新幹線に乗った。
もちろんアキが実家に来たことは知らない。
階段を降り、携帯電話を見る。
あちゃ〜、バッテリー切れてる。
連絡もしなかったから怒ってるだろうな?。
急いで帰ろう。
足早に横断歩道を渡り、ファミレスの前、ふと店の中を覗く。
「…。」
店内には、アキとアキの元不倫相手が一緒にご飯を食べている。
どういうこと?。
より…戻した…?。
そんな事ないよな…あんな酷い目に合ったもんな…。
アキの顔をみる陸。
アキちゃんの顔…久しぶりに見るアキ。
なんかすごくキレイになってる。
『溢れすぎるほどの…愛が…あったよ。』
あいつを想っていたアキちゃん。
俺と一緒にいる時より、キレイな感じがする…。