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傷ついた心。

 陸の胸で泣いた。

周りも気にせずに…。

陸も嫌な顔ひとつせず、私を抱きしめてくれた。

それは、恋愛とかではなく…。


 あれから、陸と産婦人科へ行った。

さっきと一緒で、嫌な顔ひとつせず、ずっとそばにいてくれた。

父親の間違われるかもしれないのに…。

 

 診察結果は、妊娠検査薬と同じで、『妊娠しています…。』

モノトーンに写る豆粒の大きさ、1枚の薄っぺらい写真を見つめ、

その後の事は…

人工中絶の手術の日を決めて、…よく覚えてない。

ただ、覚えてるのは、温かかった陸の手…。


 夜、陸に言われたように、診療が終わる時間に私はタケル先生に会いに行く…。


 「ここで、待っててやるから。」

待合室で陸に背中を押され、まだ電気がついている診察室に入る。

「あのぉ…先生?。」

「あれぇ〜、アキちゃん?。」

タケルはアキを見てニッコリ笑う。

「こんばんは。」

「身体大丈夫?。」

「はい…。」

 

 別に、妊娠したって先生に言わず中絶してもいいと思う。

中絶費用も欲しいなんて思わない。

家庭を捨ててなんても言うつもりもない…。

産みたい…?。

よくわかんない…。

けど、陸はそんな悲しい事を言う私に、

『好きなんなら、お互い気持ちがあってしたコトなら、諦める前に1%の可能性でも賭けてみろ。』

と言ってくれた。

1%の可能性?。

タケル先生が私を選んでくれる。可能性…?。

思考回路が混線しててよく分かってない私、陸はなんの可能性を言ってるんだろ?。

言われるがまま来た私は何を言えばいいのか?。

自分が理解していない…。

この状況をまったく、どうしてここにいるのかを理解できない。


 

 アキはタケルを見つめ、立っている。

「どうしたの?。」

「…。」

「あー。」

タケルは分かったかの様な顔をし、立ちあがり診察室の電気のリモコンのボタンを押し、電気を消す。

タケルはアキを抱きしめキスをした。

「あっ…。」

違うのに…。

こんな事しに来たんじゃない…。

(イヤだ…。)


 急に診察室の電気が消え、不思議に思った陸はなんとなく診察室を覗いた、

「…。」

微かな明かりに動くアキとタケルの影。

陸は診察室のドアを開けた。

「上手くまとまったの、アキちゃん…?。」

「うわぁ。」

「…。」

タケルは慌てて電気をつける。

「上手くまとまったの、姉ちゃん?。」

陸はアキとタケルを睨み立っている。

「なんだっ!、君はっ?。」

「あっ…。」

アキは唇を手で押さえる。

「きちんと言ったの?。」

首を振る。

「なんだっ…君はっ。」

焦るタケルの言葉に耳をむけない陸。

「アキちゃん、何しに来たの?。」

「…。」

「…アキちゃん、君…どうかし?。」

タケルはアキに何があるのか聞こうとした時、アキは口を開いた。

「タケル先生…。」

「ん、何?。」

アキが陸の顔を見ると陸はそっとうなずく。

何が起こっているのか分からないタケル。

「先生、私、先生の赤ちゃんができちゃったんです…。」

「は…。」

タケルはびっくりして開いた口がふさがらない…。

「どうしたらいいですか?。」

「どうしたらって、あははっ、面白い冗談だねぇ。」

「冗談じゃありません。」

アキはバックから超音波の写真を出し見せた。

「あはは…それ、ほんとに俺の子ぉ?。」

「せっ…、ひどい…あんなに毎日…。」

「ちょっ、待ってね…。」

タケルはそう言うと、奥に入って行った。

溢れ出す涙。

ほんとに俺の子…。

タケルの言葉がアキを傷つける。

「アキちゃ…。」

陸はアキを見つめる…。

「これ、これあげるから勘弁してよ。」

奥から戻ってきたタケルは、アキに封筒を渡す。

「…。」

アキはそっと中身を見た。

「そのぐらいあればいいでしょ?。」

「先生っ!、私、こんなもの…。」

「参ったなぁ〜。モノ欲しそうにしてたから、しただけなのに…。」

モノほしそ…う?。

私…モノ欲しそう…だったの?。

何?、この男。

タケルの言葉に深く傷ついたアキはタケルをひっぱたこうと手を挙げた、

その時、


ガッシャァ〜ン。

アキの前を陸が通り過ぎた。


「バカヤロォ…ッ!!。」

「いってぇ〜。」

床に倒れるタケル。

「あっ、先生っ!。」

「おまえっ、サイテーだなっ!!。ほんとっ、サイテーだっ!!。行こうっ、アキちゃんっ。」

「あっ、これ。」

陸はアキの手から封筒を奪うとタケルに投げつけた。

「いてっ!。」

「こんなもんいらねぇ。」

陸はアキの手を引っ張り診察室を出た。

 

 「サイテー。」

アキは泣きながら一言呟いた。

ほんとサイテー、そんな男を好きになった私、もっとサイテー…。

「…。」

陸、自分の事の様に怒ってくれてる。

「私って、男、見る目ないね。」

「ほんとだなっ!!。」

「…。」

陸はアキを引っ張っていた手をおもいっきり離した。

陸、私にも怒ってる。

当たり前だよね?。

呆れちゃうよね?。

陸の背中怒ってる…。

アキは陸の背中を見つめ、そしてうつむいた。

「ふうぇ…。」

何度も鼻をすする…。

ポタポタと涙が、アスファルトを濡らす。

「ぐすんっ、ひくぅ…。」


 陸はそんなアキのすすり泣きを背中で聞いている。

ボロボロに傷ついたアキ。

そんなアキにもイラつく…。

けど、陸はそっと振り返りアキを抱きしめた。

「アキちゃんは、サイテーなんかじゃないよ。」

「ふぇ…、ぐすんっ。」

「アキちゃん…ごめん。」

「…。」

「キツイ事言って、ごめん。」

「ひくっ、り…くぅ…。」

陸は、泣いてぐちゃぐちゃなアキの顔を見て優しく微笑んだ。

「お前に泣き顔は似合わないよ。」

アキはコクンとうなずきそっと微笑む。

そんなアキを陸は愛しいと感じる…。

アキはそんな陸を、弟の様に感じてた陸を男に感じる。

陸はアキの腰に手を回し、アキは背伸びをし背の高い陸の首に手を回す。

二人は見つめ合い微笑んだ。

泣きはらした顔のアキと優しい陸の顔。


 そして二人は唇を重ね合った。


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