story1:鍋とお酒に消えた約束。
story1 友達以上同居人未満。
チチチ……。
チチチ……。
「んん」
チチチ……。
チチチチチ……目覚ましがいつものように鳴る。
目覚まし時計がいつも私を小鳥のさえずりバージョンで起こしてくれる。
いつもと変わらない。
ある月曜日の朝。
寒いけど、きっと、とってもいい天気。
「んー、もう朝かぁ……」
目覚ましの音と一緒にスイッチがはいるファンヒーター。
部屋が暖まるまでもう少し……。
いつもと変わらない朝なのに……。
いつもと変わらない朝のはずなのに、なんでだろう?
どうしてだろう?珍しく少し腰が痛い……。
生理でもくるのかな?
アキは背伸びをしようとベットの中で、うーと手を伸ばした。
「!?」
ん?何だろう?手に何かがあたる……。
もう一度、手を伸ばしてみる。
えっ、人肌?
「ええっー?」 驚いて一気に目が覚めアキは起き上がった。
ぎょっ。
「えええええー?」
シングルベットの中の隣に上半身裸の見知らぬ覚えの無い茶髪男が寝ている……。
ま、まさかっ。しまった。とうとう酔っ払って……。
「……」
隣のこいつは誰?というコトよりも先に布団の中の自分の。。。を見る。
「はぁ……」 良かった。キチンとはいてる……(ジャージのズボン)
ホッと安心したのも束の間。
ん、見知らぬ?
んんっ?
(ええっ〜!!)
違うっ。見知っている(なんだ?その言葉……)
昨日、みんなで鍋パーティーをした時、一緒に一番盛り上がった男だ。
んーと。
昨日の光景が目に浮かぶ。
え、でも、でも、なんで?どうして?
どうして、一緒に寝てるの?頭の中はすでにパニック状態。
そうこう考えているうちに男は目が覚めた様子で、アキに背を向けて寝ていた身体を半回転させると
「ふわぁー、おはよう。アキちゃん」と眠そうに微笑んだ。
「えっ?あっ、おはよう。アア、アキちゃん?」
「どうしたの?何驚いてんの?お前、アキちゃん。だろ?」
こいつ私の名前知ってんだ。
「う……ん、そうだけど」
戸惑っているアキの気も知らないで、男は背伸びしながらベットから降りて洗面所へ入っていった。
ベットの中でポツリとするアキ。
「ええーっ。どうして泊まってるんだろう……?」
しかも同じベットで寝てるし……上半身裸だし……。
昨日のコトをもう一度思い出してみる。
6人で鍋して、ビール10本?くらい飲んで……確か、あの男が持ってきた美味い酒二升くらい空けて……。幸子が“帰る”って、言って……。昨日の記憶を呼び起こしても、初めから中間?までの記
憶しか思い出せない……。
「名前は……?」
名前は何だっけ?
ジロー?
サブロー?
「違う……」
たま。
ミケ?それは猫につける名前。
ん、あれ?
男は風呂場でのんきに鼻歌なんか歌ってシャワーを浴びているのにアキは頭を抱え必死に自問自答する。
やー。確か〇〇2文字だったような……。お、思い出せないぃ。
「アキちゃ〜ん」人の気も知らないでバスルームから私を呼ぶのんきな声。
「なにぃ〜?」
「バスタオルがなーい」
「洗面台の下だよぉ」
バスタオルなんて私にはどうでもいいのにぃ〜。
「あったぁ。あんがとー」
んー。あん……。
「思い出したっ!!陸だっ!安西陸だぁ!」
思い出したと同時にバンッと洗面所のドアが開く。
「何、人の名前大声で呼んでんの?」バスタオルで髪の毛をゴシゴシ拭きながら陸はベットの中で嬉し
そうに手を合わせているアキを見る。
「あ……」アキは陸の顔から下半身を見る。
わっ……トランクス1枚。
「ひょっとして、お姉さん、僕の名前忘れてたの?」
ギクッ。
「……うん。ごめん、忘れてた……」なぜか申し訳なさそうに謝るアキ。
「もしかして、ひょっとすると昨日のコトも忘れてる?」
昨日のコト……。
「えっ?」
ま、まさか?
アキは布団の上から自分の下半身を見て目の前が真っ暗になる。
うそ、キチンとはいてるし……そんな感覚ないし、まさか……ね?
私が、何かした?
まったくもって思い出せやしない。
「やっぱ、忘れてるや……」陸はタオルをターバンのように頭に巻き呆れたような表情をすると、
アキはニヤリと作り笑いを浮かべた。
「あはははは。何があったのかな?君と私……」
お酒にはめっぽー強いんだけど、昨日のコトはさっぱり思い出せない。
どれだけお酒を飲んでも男と寝た失敗はしたコトなんか今までいちどもナイ。
引きつる笑みでアキは陸に訊く。
「ここに一緒に住んでいいって言ったコトだよ」
「あ〜あ〜。なんだそんなコト……」
よかった〜寝てなかったぁ。
ホッと一安心。
「良かった。覚えてたんだ」
お互いに安堵の笑みのアキと陸。
なんだ、そんなコトか……。
んっ?
えっ、一緒に住んでいい?
「えーっ何それ〜。ちょっと待って、ちょっよ……」
それって、もっと問題じゃーん。
シドロモドロしはじめるアキ。
そんなアキを尻目に「もう、約束したからね」陸は冷めた口調でアキに一言。
「……」
<♪時間だよ。時間だよ>
アキの携帯電話の時刻アラームが通勤時刻を知らせる。
「やー、もう、こんな時間。遅刻する」
AM8:00.
アキは慌てて洗面所に飛び込み、顔を洗い「とおあえずぅ……時間はいから一緒にへてよ」歯を磨き
ながら言い洗面所から顔をだす。
「あー、俺、大学冬休みだから……」陸は人んちのテレビを勝手に見ながらのんきにコーヒーを飲み
始める。
あー、のんきな大学生かよ……。
「ほえ、あー、わーた。分かった。じゃぁ、私が帰るまで、いていいから部屋いじくんないでよ」
「ほーい」
「とりあえず、私は仕事に行くから」アキは朝食も摂らず部屋の鍵を握り締める。
「うん」
「もし、出かけるんだったらそこの引き出しにくまのキーホルダーがついた鍵があるからそれ使って」
「うん、分かった」
「いーい?本当に部屋のさばくらないでよ。もし、さばくったら不法侵入で警察に電話するから」
「分かった、分かったって。仕事遅刻しちゃうよ」
「あ、いけない」
「いってらっしゃい。アキちゃん」
んー。なんかしっくりこない……本当にあんな約束をしてるんだろうか?
こんな時に限って泥酔してしまうなんて……。
仕事もほとんどうわの空状態。
思い出そうとしても、いっこうに思い出せやしない。
まんまとハメられたのかな?
どうしても納得がいかない。
アキは駅に向かう足を止めた。
そうだ、ひかるに電話をしてみよう。
陸はひかるが連れて来た従弟だ。
ツルルルル……ツルルルル。
『はい』
「ひかる。あんたに訊きたいコトあんだけどさ……」
『なに?どうしたの?』
ひかるに陸との約束のコトを話した。
『ぎゃははははっ!』
電話の向こうで大笑いのひかる。
「ちょっぉ……」
『そんな約束したのぉ?あたし知らないぃ……あんた、ばかぁ……』
「ばかって、ひかるが連れて来た従弟でしょう?あんた引き取ってよ」
『やぁよ。今、ウチに彼いるもん。陸、よっぽどあんたのコト気に入ったんだぁ。まぁ、可愛くてい
いヤツだからさ、料理も上手いし、従姉のあたしからもヨロシク頼むよ』
そんなーん、頼まれても。
「……」
『あんた今、彼氏いないからちょーどいいじゃん』
「だ、だからってさぁ」
そういう問題じゃないよー。
『まぁ、ヨロシク』
ブチッ!
「ちょっぉ、ひか……」
一方的にきられた電話。
ガクッ。
「は……ハメられた……」やっぱり、この従姉弟二人にハメられたんだ。
落胆……。
今晩の寒風はいっそう肌に凍みる。
「はぁ……」
ウチに帰ったら、陸を問い詰めてやる……。
アキは急ぎ足で、アパートに帰った。
バンッ!
アキは息を荒げドアを開けた。
「こらっ、陸っ!」
「あ、お帰り、アキちゃん。ご飯作っておいたから食べよ」
「へっ?」
「ほら、早く」
拍子抜け。テーブルの上には湯気のたった料理が並んでる。
わ、ほんとに料理得意なんだ。あら、案外いい子だったりして。
いけない、いけない。ここで流されてはいけないよ、アキ。言うべきコト、訊くべきコトはキチンと
しなきゃ。
「あのね……ひかるに聞いてみたんだけどね」
「ん?」のんきに箸を進めようとする陸。
なんで遠慮気味に訊いてんの、私?
「ひかるネェが何?」モグモグと口に食べ物を入れて訊く陸。
「その……言ってないらしいんだ。私……一緒に住んでいいって……言ったコトなんだけど」
「あーその話、知らないよひかるネェ……すげー酔っ払ってたし……」
「あ……」(バレた)
「何言ってももうダメだよ。約束したから……。それとも何?アキちゃん、俺のコト意識してんの?」
ニヤリと笑いアキを横目で見る陸。
なっ。
「っバカ言えぇ。私、男4人兄弟の中の女なんだぞ」
「ふーん。それで男っぽいんだ」
ガクッ。
ふんっ、どうせね。どうせ、男っぽいよ。そんなコト納得すんなよ。あー、なんだか上手くまるめ込ま
れていくような……。しかもかなり手怖いかもこいつ。こんなに早く観念するしかないのぉ〜。
「観念した?」
完璧にココロの中読まれてる……。太刀打ちできそうもない。
さすが、ひかるの従弟。
アキは愕然と肩を落とし渋々頷いた。
「さ、ブーツ脱いであがんなよ」
「……うん」
「キチンと手を洗ってよ」
なんかお母さんみたい?
アキは、ブーツを脱ぎ洗面所で手を洗いベットの上にバックを置くと、パタッとクッションの上に腰を
下す。
「いただきます」アキは箸を口に銜え自分で作った夕食を美味しそうに食べている陸の顔をじーっと見
つめる。
「手は……出さないから安心していいよ」
「……」
「それと、何もなかったから安心して」淡々と話をする陸。
「うん……」アキは箸を口に銜えながら蚊が鳴くような小さな声で返事をする。
「俺、酔ってる女に手を出すほど軽い男じゃないから」
でも、ベットの中には入ってくるくせに……。
「うん」
「早く食べなよ。冷めちゃうよ」
「うん。食べる」アキは口から箸を離すと陸が作った夕食に箸を伸ばす。
「いつまでいるかは未定だけどよろしくね。アキちゃん」
いつまでいるか分かんないんだ。
「う、分かったよ」
「アパート代も半分キチンと入れるから心配しないで」
「……ん」
なにがなんだかよく分からず流されるままOK出したものの、同棲、いや、共同生活という生活を強
いられるコトになった、私、一応嫁入り前の花の22才安藤アキと19才大学生、親友ひかるの従弟と
しか素性が分からない安西陸とのそれはとんでもないけどとんでもなくない二人の生活の始まりだった。
わぁーん、誰か助けて〜。
*登場人物の安西陸は19才未成年です。未成年者の飲酒は禁止です(設定上すみません)*