緑の子
今、目の前にいる赤子には、猿のように体毛が生えていた。
取り上げた助産婦は、この初めての経験に困惑する事しかできなかった。
しばらくの沈黙のあと、周りの看護師達の視線が自分に注がれていることに気づき、ようやく赤子に手を伸ばすことができた。
「どうしたの?」
母になったばかりの彼女は声を出した。出産直後の心身が疲労している状態でも、周りの空気が変な事に気づいたからだ。
その時、赤子が産声をあげた。
助産師は新生児を抱いたものの、母親に対面させる事ができず。
「元気な子ですよ」
とだけ告げた。
この事は、NGOに即座に報告された。
財団の連中はメールで上がってきた報告を読み、互いの顔を見た。
「またか…」
毛の生えた赤子の事例は、これが初の報告ではなかった。今年に入ってから二桁を超える類似の報告が、あらゆる国や地域から上がっていたのだ。
事が人間相手なだけに、この症状が毛が生えているという肉体的なことにとどまるのか、それだけでなく知的障害を伴うのか、時間が経過しないことにはわからなかった。
もちろん遺伝子などの検証は行っていたが、これまでの人との違いは0.001%にとどまり、その違いがどのような変化をもたらすのかは、先に述べた通り時間が経つのを待つしかなかった。
彼らには計画があった。それは人類の幸福な繁栄。
経済を回して世界が豊かになる為に、新たな商品開発や販路拡大、貧困国の経済発展や教育の充実などなど、あらゆる事に貢献してきた。
もちろん医療もそうだ。近年ではコロナのワクチンを作り出す為に、かなりの貢献をしている。
そして、自然保護も忘れてはいない。
昨今のCO2の増加に伴い、より光合成を効果的に行う植物の発見や品種改良。そしてより豊かな実りをつけるように、ゲノム編集も行った。
成果は上がっている。
CO2も減り、食料問題も解決しつつある。
その矢先、人がこんな変化をするとは…。
ある植物プラントで風が吹いている。
その風に揺られ、葉が鳴っていた。
屋内ではコストがかかりすぎる為に、屋外でも育つように、暑さや寒さ、渇水や長雨、強風等に強い植物を作っている、ここはプラントというよりファームに近い実験所。
そこで働いているひとりの研究者は、植物達の葉鳴りを聞いて、どこか会話のようにも聞こえるなと思った。
もともと植物は化学物質を放出して、植物同士でコミュニケーションをとっているから、そう見えても不思議はない。
人間は彼らが作った酸素を吸い、彼らを食べて生きている。
もし、彼らがもっと明確な意思を持ったとしたらどうなるのだろう。
自らの考えに自嘲した。
「さて、もっと優秀な植物を作るぞ」




