玉の緒よ
私はどうしたらいいんだろう。
もう――
朔夜と恋人になる運命は、ないのかな。
こんなことになるなら、タイムカプセルより前に気持ちを伝えればよかった。
後悔ばかりが胸の中で渦を巻く。
ふと顔を上げると、こっちに走ってくる蓮の姿が見えた。
「遅くなってごめん」
息を切らしながら、それでもいつもの調子で笑う。
「あのさ、ちょっと公園にでも行って気分転換しね?」
「あ……うん、いいよ」
体が宙に浮いたみたいに、実感がなかった。
何も考えられないまま――
私たちは公園に向かった。
⸻
やっぱり美姫には蓮がいる。
俺にはもう、あいつらの幸せを願うしかない。
なのに――
なんで俺は、まだ諦めきれてないんだよ。
もうタイムカプセルの約束は終わったんだよ。
どうしようもなく空を見上げていると、由奈が戻ってきた。
「朔夜、お待たせ」
「別に待ってないよ」
これは本当だ。
何も考えられず、ぼーっとしてたから時間なんてあっという間だった。
「ねぇ朔夜、公園にでも行かない?」
「……うん、いいけど」
「じゃあ行こうか」
そうして俺たちも、公園に向かった。
⸻
公園に着いた瞬間――
俺の心臓が止まりかけた。
そこには、美姫と蓮がいた。
「……なんでまた、俺の前にいるんだよ」
まだ受け入れられてないんだよ。
頭ではわかってるのに。
感情が、追いつかない。
⸻
「ねぇ蓮」
由奈が口を開いた。
「ん?なんだ?」
「なんか美姫と蓮、ほんとに付き合ってるみたいだね?」
付き合ってる“みたい”?ほんとに付き合ってるんだろ
俺は何を言ってるのか理解できなかった。
すると蓮が笑った。
「だろ?うまく隠し通せただろ」
「えっ、ちょっと蓮……」
美姫が焦った声を出す。
「どうしたんだ?朔夜」
わからない。
今、何が起きてる?
「いや、お前ら実際付き合ってんだろ」
蓮は、あっさりと言った。
「大丈夫、俺たち付き合ってねぇよ」
「……は?」
「ちょっとしたドッキリだって」
ドッキリ?
なんだよそれ。
俺は――
本気で――
「お前……ドッキリってな……」
気づけば声を荒げていた。
「ついていい嘘と悪い嘘があるだろ!」
⸻
「ねぇ朔夜、なんでそんなに怒ってんの?」
由奈がニヤニヤしながら聞いてくる。
お前はわかってるだろうがーー
そして――
口から、本音がこぼれた。
「なんでって別にいいだろ」
「美姫がどっか行くのが嫌だったんだよ」
「文句あんのか」
言った瞬間、空気が止まった。
⸻
蓮が、美姫を見る。
「なぁ美姫、お前もなんでそんな嘘ついたんだよ」
美姫は顔を真っ赤にして答えた。
「だって……朔夜が私のこと嫌いかもって……」
胸が締め付けられる。
「……馬鹿かお前」
気づけば言っていた。
「俺がお前を嫌うわけねえだろ」
「好きだもんねー」
由奈が茶化す。
「黙ってろ!」
顔が熱い。
絶対真っ赤だ。
「なに2人とも顔真っ赤じゃん。トマト祭り?」
「うるさい!」
空気が――変わった。
さっきまでの重さが、消えていた。
⸻
この空気のままじゃダメだ。
俺は無理やり話題を変えた。
「あーそういえばさ」
「花火大会近いんだったな」
蓮を見る。
「蓮、一緒に行くか?」
蓮は黙る。
なにかおかしいこと言ったか?
すると美姫が言った。
「あーそうだったね」
「由奈、一緒に行こうよ」
由奈も黙る。
そして――
蓮が口を開いた。
「お前らさ」
「この空気で俺ら誘うって頭おかしいんじゃねえの?」
由奈も続く。
「ほんと普通、この状況で美姫のこと誘わないとかおかしいよね?」
俺が――
美姫を誘う?
そんなこと言ったら――
俺の気持ちが全部――
「……そうだな」
逃げるように言った。
「せっかくだし、4人で行くか」
これが、今の俺の限界だった。
⸻
「えー結局誘わないんだ」
「さすがだなシャイボーイ」
「うるせぇ」
「わかったかお前ら、絶対来いよ」
「はいはい」
蓮と由奈は顔を見合わせてニヤニヤしている。
ほんとなんなんだよこいつら。
俺は美姫を見る。
「おい美姫、お前もだからな」
「ちゃんと来いよ」
頼む。
来てくれ。
「う、うん……わかった」
恥ずかしそうに――
でも、嬉しそうに笑った。
⸻
「じゃあ今日は解散だ」
「もうしょうもないことするなよ」
「はーい」
俺はそのまま背を向けた。
これ以上ここにいたら――
期待してしまうから。
⸻
でも――
もしかしたら。
本当に、もしかしたら。
俺の想いはまだ――
届くのかもしれない。




