真実を掴むために
―朔夜―
気づけば走り出していた。
もう全部嫌だった。
あの空気も。
蓮と一緒にいる美姫も。
あいつを祝福してやれない俺のことも。
逃げるみたいに、人混みを抜ける。
最低だな、俺。
好きなやつの幸せを願えないなんて。
立ち止まる。
息が苦しい。
……違う。
苦しいのは、走ったからじゃない。
胸だ。
「ああ……くそ……」
顔を覆う。
なんで、こんなことになったんだよ。
守りたかっただけなのに。
ただ、隣にいたかっただけなのに。
空を見上げる。
滲んで見えた。
⸻
―美姫―
そうか。
やっぱり朔夜は、私を好きじゃなかったんだね。
胸の奥が、静かに壊れていく。
あんな顔、初めて見た。
苦しそうで。
でも――
私を見てじゃなかった。
由奈を見てた。
「……そっか」
由奈がよかったんだ。
ずっと一緒にいたのは由奈だもんね。
私じゃなくて。
当然だよね。
「……じゃあ」
これでいいのかもね。
私は、小さく笑った。
これで、諦められる。
諦めなきゃいけない理由ができたから。
なのに。
なんでこんなに――
苦しいの。
⸻
―由奈―
「ちょっと蓮、あれどういうこと?」
私は蓮を呼び出して問いただした。
蓮は面倒くさそうに頭を掻く。
「どういうことって、それはこっちのセリフだ。なに、お前ら付き合い出したの?」
「は? 蓮たちが先に付き合い出したんでしょ? そのせいで朔夜が抜け殻みたいになったんだからね」
すると蓮は、
「なんだ、じゃあ成功してたんじゃねえか」
平然と言った。
「成功って、なんのこと言ってんのよ」
「あれは俺と美姫の作戦だ」
「……は?」
「馬鹿。美姫は朔夜しか見てねぇのに、俺と付き合うわけねえだろ」
言われて、理解する。
……確かに。
「じゃあなんでそんな嘘ついたのよ!」
「美姫がな、朔夜が自分のこと嫌いなんじゃないかって心配してたんだよ」
――ああ。
言ってた。
「だから俺と付き合ったって言ったら、あいつ焦るんじゃないかって」
「ちょっと強引すぎない?」
「そうでもしなけりゃあいつデレねえだろ。多少やり過ぎぐらいがちょうどいいんだよ」
蓮は笑う。
でも私は笑えなかった。
「やりすぎだって。朔夜もう限界だよ」
蓮の顔から笑みが消える。
「……美姫だってやばいぞ」
低い声。
「ただでさえ自信なかったのに、さっきお前と朔夜が一緒にいるの見ちまったんだからな」
「……!」
「これ以上すれ違ったら、マジで終わる」
沈黙。
そして蓮が言った。
「これからどうする?」
私は答えた。
「……会わせるしかない」
蓮がニヤッと笑う。
「ああ。今からあいつら鉢合わせるぞ」
蓮は前を見る。
「行くぞ由奈」
強い目で言った。
「あいつらの間にできた壁――ぶち壊しに行くぞ」
私は頷いた。
もう逃げない。
逃げさせない。
⸻
蓮は走り出した。
私は、その背中を追った。
同じ頃――
朔夜は、一人立ち止まっていた。
空を見上げながら、
行き場のない想いを抱えたまま。
美姫もまた、
胸を押さえながら立ち尽くしていた。
それぞれが、
同じ人を想いながら。
そして――
止まっていたはずの時間が、
今、動き出そうとしていた。




