君の心を教えて
学校が終わり、私は玄関で朔夜を待っていた。
本当の気持ちを知るのは、やっぱり怖い。
もし、動揺しなかったら。
もし、本当に嫌われていたら。
そんなことを考えていると、一人の姿が目に入る。
――見つけた。
やっぱりどこにいても、朔夜だけはすぐに見つけられる。
そんなことを思っていると、朔夜が私の横に並んだ。
「もー、遅いんだけど」
少しだけ拗ねたように言う。
「文句言うなら先帰ればよかっただろ」
やっぱり、冷たい。
――嫌われてる……?
そう思った瞬間、
「何やってんだ、早く行くぞ」
「あっ、うん」
私は慌てて歩き出した。
隣を歩きながら考える。
私は、朔夜の本当の気持ちを知りたい。
でも、そのためとはいえ――騙してもいいのかな。
そのとき。
「えっ」
突然、体が引き寄せられた。
朔夜の腕の中にいた。
心臓が跳ねる。
何が起きたのか分からず横を見ると、
「車来てたんだよ。気づけ、馬鹿」
ぶっきらぼうにそう言った。
――今のって。
もしかして、私のために?
由奈の言っていた言葉が頭をよぎる。
「好きな子には意地悪したくなるって言うしね」
やっぱり――
「お前、車道側だと運転手に迷惑だわ。俺と場所変われ」
……違った。
さっきまで膨らんでいた期待が、一瞬で潰れた。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
それでも私は、信じたい。朔夜が、私をどう思っているのか。
このままじゃ、何も変わらない。
私は覚悟を決めた。
「ねぇ、朔夜」
「なんだ?」
「実はね、私――蓮と付き合うことになったんだ」
朔夜の反応を見るのが怖くて、顔を見れない。
でも――
「あっそ。だから?」
……え?
思わず顔を上げる。
動揺も、驚きもない。
ただの、いつもの朔夜だった。
本当に――嫌われてるの?
「……っで、なんで俺に言ったんだ?」
「いや……幼馴染だし、報告はしておこうかなって」
「あー、そういうことか。まぁ、おめでとう。いいんじゃないか」
おめでとう――その言葉が、胸に刺さる。
「……そっか」
その後、何を話したのか覚えていない。周りの景色も、匂いも、音も――何もかも遠くなっていた。
ただ一つだけ――胸の奥が、どうしようもなく痛かった。
朔夜――。
私は、あなたと一緒になれる未来はないの?
あなたは今、何を考えているの?
ねぇ――君の心を、教えて。
⸻
えっ? 今、なんて言った?
蓮と付き合った?
なんでだよ。
一瞬、意味がわからなかった。
理解したくなかったのかもしれない。
やっぱり、冷たい態度をとったから嫌われたのか。
胸の奥が、嫌な音を立てる。
ああ――そうだよな。
自業自得だ。
素直になれなかったのは俺だ。
避けられて当然だ。
だから俺に、こいつを引き止める資格なんてない。
だから――なにもないように。
気にしていないように。
いつも通りに。
「あっそ。だから?」
声が、少しだけ震えた気がした。
ちゃんと言えたのか、自分でもわからない。
音も、景色も、遠い。
美姫がなにか言っている。
でも、頭に入ってこない。
――なんだ。
幼馴染だから報告しただけか。
そうだよな。
あいつにとって、俺たちは幼馴染で終わりなんだよな。
それ以上でも、それ以下でもない。
もう、なにも入ってこない。
胸の奥が空っぽになったみたいだった。
でも――祝福しないと。
惚れた人には、幸せになってもらうべきだから。
自分を選ばなかったからって妬むなんて、お門違いだ。
「あーそういうことか。まぁ、おめでとう。いいんじゃないか」
ちゃんと笑えていたのかはわからない。
でも、これでいい。
これで終わりだ。
おめでとう、美姫。
そして――さよなら、俺の恋心。
どうか、蓮と幸せになってくれ。
あいつなら、美姫を幸せにしてくれるかな。
雰囲気は明るいし、根は優しい。
美姫を悲しませることはないだろうし、落ち込んでるときには笑顔にしてくれるだろう。
――そう考えたら。
俺より、あいつのほうがよかったのかもな。
隣を歩く美姫を見る。
もう、この距離も意味が違う。
すぐそこにいるのに。
もう、届かない。
……しつこいのは、やめよう。
困らせたくない。
嫌われたくない。
だから俺は。
この恋を、終わらせる。
俺は――
心から祝福できるよう、がんばるよ。




