知りたい気持ち
あー……嫌われちゃったかな。
机に頬杖をついて、小さく息を吐く。目の前のノートの罫線が波を打って見えるのは、きっと心のせいだ。
「どうした、美姫?」
顔を上げると、由奈が心配そうにこちらを見ていた。
「振られちゃった?」
その言葉に、胸がきゅっと締め付けられる。否定したいのに、言い切れない。もしかしたら、そうなのかもしれない――そんな逃げ場のない考えが、すっと心を占める。
「……告白はしてないよ」
「え、じゃあ大丈夫じゃない?」
「でも、なんか冷たいんだよね」
自分で言っていて、苦しくなる。朔夜のことを思えば思うほど、言葉は重くなる。
「朔夜ってそういう感じでしょ?」
由奈は、どこか他人事のように首を傾げる。
「なんか、私にだけ異様に冷たいの」
その言葉を口にした瞬間、現実になってしまったような気がして、胸の奥がもっとざわつく。
「あー……」
由奈は納得した顔で頷く。
「好きな子には意地悪したくなるって言うしね」
その一言に、私は心のどこかで期待してしまう自分がいることに気づく。
「そんなこと、あればいいな」
本音が、ぽろりと出てしまう。
由奈は呆れたように笑って言う。
「そうだよ。あれだけわかりやすいのに、わからないの?」
「そんな子供じゃないんだから、あるわけないでしょ……」
自分の言葉に、また傷つく。期待しなければいいのに、期待してしまう自分を叱れない。
「全く、鈍感なんだから」
「え?」
「そんなに気になるなら、蓮に聞けばいいじゃん。朔夜と仲良さそうでしょ?」
蓮――そう呼ばれた瞬間、胸の中で何かが弾けるような気がした。確かに、蓮は朔夜のことを一番よく知っているはずだ。
「……そうだね。そうしてみるよ」
言うのは簡単だった。だけど、知るのが怖い。彼がどう思っているのか。避けられているのか、ただ素っ気ないだけなのか。それを確かめるのは、想像以上に勇気がいる。
「ねぇ、蓮」
知らずにはいられなくて、つい口を出す。
「ん? どうした?」
蓮は振り返って、いつもの調子で答える。
「あのさ、ちょっと相談があるんだけど」
「朔夜のことか?」
「えっ……なんでわかるの?」
思わず声が裏返る。蓮はふふ、と笑って呆れたように肩を竦める。
「逆に、二人がばればれってことに気づいてないのがおかしいだろ」
「二人?」
その言葉に少し戸惑いながらも、私は意を決して言った。
「それでね…私さ……実は、朔夜のこと、好きなんだよね」
「うん、知ってる」
蓮の返事はあっさりしていた。驚きより先に、どこか救われる気持ちが胸に広がる。
「でも、なんか朔夜に避けられてるっていうか……嫌われてるかもしれないって思って」
言葉にすると、また胸が重くなる。蓮は一瞬黙った後、小さく笑って誤魔化した。
「あの馬鹿……だから言ったのに」
「えっ? なんて?」
「あ? いや、別に」
蓮はすぐに話題を逸らそうとするが、私は核心を突く。
「で、俺にどうしてほしいわけ?」
「その……」
言葉が喉に引っかかって、うまく出てこない。緊張で指先が冷たくなった。
「朔夜に、私をどう思ってるか確認してほしいんだ」
素直に、本心を伝える。蓮は一瞬だけ顔を曇らせたが、すぐに口元に意地の悪い笑みを浮かべる。
「嫌だね」
「なんでよ!」
即答だった。私は肩を落とす。
「そんな大事なことは、自分で聞けよ」
「それができないから頼んでるんじゃん……」
蓮は少しだけ困ったように頭を掻き、提案する。
「しょうがないな。アドバイスだけはしてやるよ。あいつと二人のときにさ、俺と美姫が付き合ったって言ってみ?」
「えっ……?」
唐突な案に、私は一瞬固まる。
「たぶん、朔夜すごい動揺するから」
「……そうなのかな」
胸が、少しだけ早鐘を打つ。蓮の言葉はからかい半分だが、実行すれば確かに反応は取れるだろう。私は半信半疑で頷く。
「わかった。やってみるよ」
「よし。で、また何かあったら言え。お前ら見てて面白いし」
「ちょっと、馬鹿にしてない?」
「頑張れよ」
蓮は言い捨てるようにして、笑いながら去っていく。足音がだんだん遠ざかる。
一人になったとき、私は小さく笑ってから囁いた。
――私と蓮が付き合ってるって、今日の帰りに言ってみようかな。
少しの期待を胸にして、放課後を知らせるチャイムがなった。




