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最後の花火

私と蓮が歩いていると、蓮がふいに立ち止まった。


「なぁ、あの走っていくの美姫じゃねえか?」


指差した先。


桜の並木道を、無我夢中で走っていく背中。


「ほんとだ……どうしたんだろ」


胸がざわつく。


「よくないことにならないといいけど」


「俺らも追いかけるぞ」


「うん」


私たちは、美姫の後を追って走り出した。



私と朔夜の最後の思い出。


あの声も、あの顔も、不器用な優しさも。


もうない。


でも――


あそこには、私たちの記憶が残されている。


息が苦しい。


それでも走る。


桜の木が見えた。


ここだ。


私は迷いなく地面に膝をつく。


手で土を掘る。


爪が割れても、指が痛くなっても構わない。


ただ、すがるように。


しばらくして、固い感触に触れた。


「あった……」


震える手で箱を取り出す。


蓋を開ける。


色あせた紙。


私の文字。


朔夜の文字。


私の書いた、届かなかった「好き」の二文字。


どうして。


どうしてもっと早く伝えなかったんだろう。


後悔が胸を締めつける。


朔夜の紙を見る。


まだ幼くて、少し汚い字。


将来の夢。


やりたいこと。


もう叶わない。


――私がいたから。


「ごめんね」


それだけが零れた。


箱を閉じようとしたとき。


一枚、綺麗な紙が目に入る。


こんな紙、入れた覚えはない。


恐る恐る開く。


そこには――


「なぁ美姫、元気か?」


朔夜の文字。


息が止まる。


「会ってる時は素直になれねえから、手紙で言うわ」


鼓動がうるさい。


「美姫、俺はお前のことが好きだ」


涙が溢れる。


今も、これからも、ずっと。


その下に、不格好な句。


滅べども

消えることなき この思い

永遠に願いし 君に幸あれ


「俺はお前の笑ってるところが見てえ。だから何があっても笑っててくれ。それが俺にとっての一番の幸せなんだ」


ずるい。


最後まで、私の幸せを願ってるなんて。


「朔夜……」


声にならない。


会いたい。


伝えたい。


でも、もう叶わない。


気づけば辺りはオレンジ色に染まっていた。


どれくらい泣いていたのだろう。


「笑ってくれ、って……笑えるわけないじゃん、馬鹿」


でも。


君のためなら、がんばるよ。


そう思えた。


「なぁ美姫、大丈夫なのか?」


振り向くと、蓮と由奈が立っていた。


心配そうな顔。


私はゆっくり立ち上がる。


「大丈夫じゃないよ」


正直に言う。


「今も辛いし、私がちゃんとしていれば朔夜は生きていたかもって思う」


二人は黙って聞いてくれる。


「でも考えたの。大切な人を思うなら、自分らしく精一杯生きるだけだって」


蓮が小さく笑う。


「そうか……俺たちもがんばろうぜ」


由奈も頷いた。


温かい風が吹く。


「これでいいんだよね」


そのとき。


――俺はなにも言ってねえ。


――お前が考えたんだろ。


どこからか、そんな声が聞こえた気がした。


私は空を見上げる。


もう、あの日の花火に怯える私じゃない。


君は花火みたいな人だった。


明るくて、綺麗で、周りを照らして。


でも、最後は儚く散っていく。


今年も花火大会の季節がやってくる。


夜空に光が咲く。


一瞬で消える、あの日と同じ光。


ねぇ、朔夜。


君もどこかでこの景色を見ていますか…

2作目の最後の花火これにて完結となります。

ご愛読ありがとうございました。これからも15歳の作家としていろいろなものを書いていきたいと思います。

なにか読んでみたいテーマなどがあればお教えいただけると嬉しいです。

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