最後の花火
私と蓮が歩いていると、蓮がふいに立ち止まった。
「なぁ、あの走っていくの美姫じゃねえか?」
指差した先。
桜の並木道を、無我夢中で走っていく背中。
「ほんとだ……どうしたんだろ」
胸がざわつく。
「よくないことにならないといいけど」
「俺らも追いかけるぞ」
「うん」
私たちは、美姫の後を追って走り出した。
*
私と朔夜の最後の思い出。
あの声も、あの顔も、不器用な優しさも。
もうない。
でも――
あそこには、私たちの記憶が残されている。
息が苦しい。
それでも走る。
桜の木が見えた。
ここだ。
私は迷いなく地面に膝をつく。
手で土を掘る。
爪が割れても、指が痛くなっても構わない。
ただ、すがるように。
しばらくして、固い感触に触れた。
「あった……」
震える手で箱を取り出す。
蓋を開ける。
色あせた紙。
私の文字。
朔夜の文字。
私の書いた、届かなかった「好き」の二文字。
どうして。
どうしてもっと早く伝えなかったんだろう。
後悔が胸を締めつける。
朔夜の紙を見る。
まだ幼くて、少し汚い字。
将来の夢。
やりたいこと。
もう叶わない。
――私がいたから。
「ごめんね」
それだけが零れた。
箱を閉じようとしたとき。
一枚、綺麗な紙が目に入る。
こんな紙、入れた覚えはない。
恐る恐る開く。
そこには――
「なぁ美姫、元気か?」
朔夜の文字。
息が止まる。
「会ってる時は素直になれねえから、手紙で言うわ」
鼓動がうるさい。
「美姫、俺はお前のことが好きだ」
涙が溢れる。
今も、これからも、ずっと。
その下に、不格好な句。
滅べども
消えることなき この思い
永遠に願いし 君に幸あれ
「俺はお前の笑ってるところが見てえ。だから何があっても笑っててくれ。それが俺にとっての一番の幸せなんだ」
ずるい。
最後まで、私の幸せを願ってるなんて。
「朔夜……」
声にならない。
会いたい。
伝えたい。
でも、もう叶わない。
気づけば辺りはオレンジ色に染まっていた。
どれくらい泣いていたのだろう。
「笑ってくれ、って……笑えるわけないじゃん、馬鹿」
でも。
君のためなら、がんばるよ。
そう思えた。
「なぁ美姫、大丈夫なのか?」
振り向くと、蓮と由奈が立っていた。
心配そうな顔。
私はゆっくり立ち上がる。
「大丈夫じゃないよ」
正直に言う。
「今も辛いし、私がちゃんとしていれば朔夜は生きていたかもって思う」
二人は黙って聞いてくれる。
「でも考えたの。大切な人を思うなら、自分らしく精一杯生きるだけだって」
蓮が小さく笑う。
「そうか……俺たちもがんばろうぜ」
由奈も頷いた。
温かい風が吹く。
「これでいいんだよね」
そのとき。
――俺はなにも言ってねえ。
――お前が考えたんだろ。
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
私は空を見上げる。
もう、あの日の花火に怯える私じゃない。
君は花火みたいな人だった。
明るくて、綺麗で、周りを照らして。
でも、最後は儚く散っていく。
今年も花火大会の季節がやってくる。
夜空に光が咲く。
一瞬で消える、あの日と同じ光。
ねぇ、朔夜。
君もどこかでこの景色を見ていますか…
2作目の最後の花火これにて完結となります。
ご愛読ありがとうございました。これからも15歳の作家としていろいろなものを書いていきたいと思います。
なにか読んでみたいテーマなどがあればお教えいただけると嬉しいです。




