運命が変わる日
待ち合わせ場所で、俺は美姫を待っていた。
もし今日、美姫が来てくれたなら――
俺は、この思いを伝えよう。
タイムカプセルの時まで隠すつもりだった。
でも、もう隠しきれない。
今伝えなければ、
このままどこか遠くへ行ってしまう気がした。
スマホで時間を確認する。
――待ち合わせの、1時間前。
「……はりきりすぎだろ、俺」
思わず苦笑が漏れる。
その時、通知に気づいた。
蓮からのメッセージだった。
胸の奥に、嫌な予感と――
ほんの少しの期待が浮かぶ。
『ごめん朔夜。俺今日体調崩しちゃってさ。悪いけど、3人で行ってきてくれねぇか』
やっぱり、来られないという連絡だった。
「……期待してたのかよ、俺」
最低だな、と心の中で自嘲する。
けれど――
今はそれよりも。
これから始まる“決戦”に向けて、
心を整えなければならなかった。
俺はスマホをしまい、
静かに美姫を待ち続けた。
⸻
その頃――
「なぁ由奈」
隣にいる蓮が、小声で話しかけてきた。
「ん? なあに?」
「あいつさ、はりきりすぎじゃね?」
私は小さく笑った。
「まぁ、確かにそうかもね」
私たちは今、
少し離れた場所から朔夜を見ていた。
今日――
2人を“2人きり”にするために。
私と蓮は、仮病を使ったのだ。
「だってまだ1時間前だぜ?どんだけ楽しみにしてんだよ」
「朔夜にも、いろいろ覚悟があるんでしょ」
そう言いながら、胸の奥で願う。
――今日こそ。
「もしかしたら今日で、新しい関係になるかもしれないしね」
蓮の目が輝いた。
「おっ、まじか。とうとうあいつらの糸が解けるのか」
「やっと見れるかもね」
「よっしゃ、楽しみに待ってるか」
「うん」
その時だった。
「あ……蓮、見て」
美姫が現れた。
浴衣姿だった。
「……気合い入りすぎだろ」
蓮が呟く。
「戦場にでも行くのかよ」
私は小さく笑った。
「まぁ、ある意味戦場かもね」
その時。
「あっ――」
朔夜が美姫に気づいた。
けれど。
「……顔、逸らした?」
「おいおい何やってんだよ……」
蓮が呆れる。
「初っ端からそれはねぇだろ」
私は心の中で祈る。
――朔夜。
今日だけは。
素直になって。
⸻
美姫が、俺の前に立った。
思わず、目を逸らしてしまう。
(……かわいすぎるだろ)
まともに見られるわけがなかった。
「朔夜、ごめん。待った?」
不安そうな声。
「いや……別に」
なんとか答える。
「まだ集合時間前だし。俺が勝手に早く来ただけだ」
それが、精一杯だった。
「……そう。でも、ごめんね」
「気にするな」
沈黙が流れる。
俺は一歩踏み出した。
「……行くぞ」
「うん」
そして俺たちは――
運命が待つ場所へと、
歩き始めた。
「そういえば蓮はどうしたの?」
周りを見渡しても、姿が見えない。
朔夜は少し間を置いて答えた。
「ああ、蓮か。あいつ体調崩したんだってよ」
「え……そうなんだ」
少しだけ、胸がざわつく。
「それで由奈は?」
「由奈も体調崩したみたいでさ」
「そう……なんだ」
――え。
待って。
じゃあ。
「今日……2人なの?」
思わず声が裏返った。
「……そうなるな」
朔夜はどこか落ち着かない様子で答えた。
(どうしよう)
心臓がうるさい。
準備なんて、できてない。
でも――
これは。
チャンスなのかもしれない。
神様が言っている気がした。
――今日、伝えるんだって。
そう考えていた、その時。
「きゃっ」
前から来た人に、ぶつかってしまった。
バランスを崩す。
「あぶねえだろ」
次の瞬間。
朔夜の腕が、私を支えていた。
「ぼーっとしてんじゃねぇよ」
「……うん、ごめん」
近い。
こんなに近くにいる。
(やっぱり優しい)
知れば知るほど。
好きになる。
朔夜は少し呆れたように言った。
「お前またぶつかるだろ」
そして――
手を差し出した。
「ほら」
「……え?」
「人多いし。逸れないようにするぞ」
一瞬、思考が止まる。
(これって……)
「なにやってんだよ」
朔夜が顔を逸らしたまま言った。
「早く手、繋げよ」
その横顔は――
真っ赤だった。
胸が、締め付けられる。
「……うん」
私は、そっと手を重ねた。
温かい。
大きい。
優しい手。
そして――
私たちは歩き出した。
周りは騒がしいのに。
不思議なくらい。
朔夜の体温しか、感じられなかった。
(幸せだ)
お祭りよりも。
花火よりも。
今、この瞬間が。
世界で一番――
幸せだった。
(お願い)
(この時間が)
(ずっと続いて)
そう願いながら、
私はこの手の温もりを、強く握った。
⸻
その頃――
「おい由奈、見ろよ」
蓮が指差す。
「えっ?」
視線の先。
「あ……」
2人が、
手を繋いでいた。
「朔夜からだったよな」
「……うん」
思わず、笑みがこぼれる。
「朔夜、成長したね」
蓮も笑った。
「ほんとだな」
少し誇らしそうに。
「今日、変わるかもな」
「うん」
きっと。
変わる。
「なぁ」
蓮が言う。
「あいつらが付き合ったらさ」
「うん?」
「どうする?」
私は笑った。
「決まってるでしょ」
「私たちも、お祭り楽しむの」
「2人で打ち上げしよ?」
蓮が笑った。
「いいな、それ」
「そうしようぜ」
私たちは歩き出した。
願いながら。
――朔夜。
――美姫。
がんばって。
あなたたちの恋が、
今、
動き出そうとしているんだから。




