おまけ
読んでいただいてありがとうございます。ちょっとしたおまけ話です。
「何を編んでいるんだ?」
いつも通り庭師の小屋に入ったフィリクスは、新しく入れ替えられたばかりのソファーに座ったレジーヌが、編み物しているところに出くわした。
夏の一番暑い時期は超えたとはいえ、まだそんな温かい物が必要な時期ではない。
「あ、フィリクス様。お帰りなさいませ」
「ただいま。それで、それは何?」
正体が判明した後、この家の次男だけどここに住んでいるわけではないフィリクスに、レジーヌは何と挨拶をしていいのか迷った。相談した執事長から、家に帰って来た感じで接してほしいと言われたので、フィリクスにはお帰りなさいと挨拶をしている。
「これは、敷物です」
「敷物?」
「はい。今はいいですけど、寒くなってきたらあそこの木の椅子の座面が冷たくなるので、敷こうと思いまして」
「あぁ、なるほど」
二脚のイスは木で出来ているので、寒い時に座ると最初は冷たい。
食事も摂らずに来ることがあるフィリクスのために、執事長が食事用の机とイスを入れたのだ。
最近では、料理長が簡単に食べられる物を作ってレジーヌに持たせてくれるので、フィリクスもここで食事を摂ることを前提に行動している。
その分、今までのようにこそっと来るのではなくて、食事が要るかどうかの連絡を入れるようになった。
「そろそろ夏の暑さも落ち着いて来ましたし、休憩時間を使って作るので、二つ分だと今から作らないと間に合わないと思うんですよねー」
にっこり笑ってレジーヌが言ったので、手間なら買ってこようか、と言いかけたのを止めた。
レジーヌが嫌々作っているのならともかく、楽しそうにしているのを止めるのは、野暮というものだ。
それに、出来ればフィリクスだって、レジーヌのお手製の物を使いたい。
というか、編み物が出来るのならば、フィリクス用のマフラーか何かほしい。
「レジーヌ、その……」
「はい?」
「……いや、何でもない」
休憩時間を使って、わざわざイス用の敷物を編んでいるのだ。
レジーヌに、これ以上の負担をかけるわけにはいかない。
ただでさえ、フィリクスの世話もしてくれているのだから。
「寒くなる頃に使えるように、がんばりますね」
「あぁ、頼むよ。ちょっと座るのがもったいない気もするけれど」
「せっかく作るのですから、ぜひ使ってください」
「そうしよう」
よく考えれば、その敷物を使うということは、寒くなってもレジーヌはこの関係を続けてくれるということでもある。
だって、作るのは二人分だ。
自分だけの物じゃない。
そう思ってフィリクスはにこりと笑ったのだった。
本格的な冬が訪れたある日、照れながらレジーヌからフィリクスにそっと差し出されたのは、青色のマフラーだった。
もらった翌日、嬉しそうにマフラーをして出勤するフィリクスの姿があったのだった。




