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2人の運命の証明  作者: たかたか
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第7章


                   世界で一番贅沢な勉強会



「……ねえ、湊。そこ、公式の使い方が美しくない」放課後の図書室。窓から差し込む西日が、美月の黒髪を琥珀色に染めている。彼女は僕のノートを覗き込み、細い指先でシャープペンシルを奪い取ると、サラサラと鮮やかな解法を書き加えた。「美しくないって……答えは合ってるだろ?」「数学は答えを出すだけの作業じゃないの。真理にたどり着くまでの最短距離を走るのが、数字に対する礼儀よ」そう言って不敵に微笑む彼女の表情には、かつての刺々しさは微塵もなかった。和解してからの美月は、相変わらず僕に対しては毒舌だったが、その裏には確かな信頼と、隠しきれない甘えが見え隠れしていた。「はいはい、参りましたよ、学年一位様」「わかればよろしい。……ほら、ご褒美にこれあげる」彼女が鞄から取り出したのは、可愛らしいラッピングが施された手作りのクッキーだった。「え、これ……美月が作ったの?」「……勘違いしないで。昨日、お母さんが作りすぎたから持たされただけ。捨てるのも勿体ないでしょ?」顔を赤らめて視線を逸らす彼女。その嘘のつき方は、五歳の頃と全く変わっていなかった。僕は一枚つまんで口に放り込む。バターの香りと、ほんのりとした甘さが広がった。「美味しい。お母さん、料理上手だね」「……私の味付けも、ちょっとは入ってるんだけど」「えっ?」「……なんでもない! 早く次の問題解きなさいよ!」そんな僕たちの様子を、数メートル離れた席から蓮と陽葵が生暖かい目で見守っていた。「なあ陽葵。あの二人、もう結婚しちゃえばいいと思わないか?」「本当ね。数日前まであんなにシリアスだったのが嘘みたい。見てなさいよ、湊のあの締まりのない顔」「一位の座を奪われて、胃袋まで掴まれて……湊も形無しだな」二人がわざとらしく大きなため息をつくと、美月がペンを置いて振り返った。「……そこ、うるさい。勉強しないなら出て行って」「ひえっ、美月様の逆鱗に触れた! 退散退散!」蓮が陽葵の背中を押して逃げていく。静かになった図書室で、僕はふと、美月の手元を見た。彼女の手は、時折、小さく震えているように見えた。「美月? どうしたの、手が……」「……え? ああ、これ。さっきの小テストで書きすぎたかな」彼女は慌てて手を隠し、明るく笑った。「それより湊、週末の予定、空いてる? 陽葵たちが『親睦会』って称して、遊園地に行こうって言ってるんだけど」「遊園地か。いいよ、たまには息抜きも必要だね」「……ふふ、楽しみ。私、湊と観覧車に乗るの、ずっと夢だったんだ」その時の彼女の笑顔が、あまりにも眩しくて。僕は、彼女が抱えている「重荷」に、まだ一ミリも気づいていなかった。

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