第6章
雨の屋上
剥き出しの心屋上へと続く階段を駆け上がる。雨が降り始めていた。冷たい滴が首筋を伝うが、構っていられなかった。重い扉を押し開けると、そこにはフェンス際で雨に打たれている美月の姿があった。「美月!」「……来ないでって言ったでしょ」背中を向けたまま、彼女の声が雨音に混ざる。「謝らせてくれ。……ごめん。本当に、僕はバカだった。君がどんな思いでこの学校に来たのか、少しも考えずに……」「……あんたに何がわかるの」美月がゆっくりと振り返る。雨に濡れた髪が頬に張り付いている。「私が、どれだけ怖かったか。あんたに忘れられてるって確信した時……自分の十年間に、何の意味もなかったんだって思い知らされて……」「意味はあった! 君がいたから、僕は今ここにいるんだ。……君が僕より頭が良くて、僕を怒ってくれたから、僕は自分がどれだけ『空っぽ』だったか気づけた」僕は一歩、彼女に近づく。「五歳の時の約束……『大人になったら、結婚しよう』。あれ、僕は本気だったんだ。子供の遊びなんかじゃなかった」「……嘘。だったら、なんで忘れてたのよ」「それは……」僕は言葉に詰まる。「……怖かったんだと思う。君がいなくなった後、あまりにも寂しくて。……だから、君の記憶を心の奥底に封印して、勉強に逃げたんだ。君にふさわしい男になろうって、形だけが先行して……中身を置き去りにしちゃったんだ」美月の瞳から、雨ではない熱い雫がこぼれた。「……バカ。……本当に、バカなんだから」彼女はふらふらと歩き出し、僕の胸に顔を埋めた。冷え切った彼女の体温が、僕の制服越しに伝わってくる。「……信じていいの? また、私を一人にしない?」「誓うよ。二度と忘れない。君がどこにいても、僕が必ず見つける。……たとえ、テストの順位で君に勝てなくても、君の隣にいる権利だけは、誰にも譲らない」雨の中で、僕たちは互いの鼓動を感じていた。それが、あまりにも弱々しく、けれど必死にリズムを刻んでいることに、僕はまだ気づいていなかった。




