第4章
昼休み、嵐の前の静寂
それからの一週間、美月は徹底して僕を無視した。プリントを後ろに回す時も、僕の手を避けるようにして机の端に置く。昼休みに廊下ですれ違っても、まるでそこに誰もいないかのように通り過ぎる。そんなギスギスした空気の中で、二学期の中間テストが刻一刻と近づいていた。「なあ、湊。今回のテスト、相当気合入ってるな」学食のカレーを頬張りながら、蓮が僕のノートを見て言った。「……負けられないんだ。水瀬さんに、あんなふうに言われたからね」「『空っぽなプライドごと奪う』だっけ? かっこいいよなあ、お前ら苗字が同じなのもあって、なんかライバルってよりは夫婦喧嘩に見えるぜ」「バカ言え。……でも、彼女の勉強の仕方は、ちょっと普通じゃない」僕は、教室での美月の様子を思い出していた。休み時間は一分も無駄にせず参考書に向かい、授業中の集中力は鬼気迫るものがある。まるで、何かから逃げるように、あるいは何かに間に合わせるように、彼女は自分を追い込んでいた。「湊、あんたも大概だけど、あの子はちょっと……危ういわよね」陽葵がパンを齧りながら、窓の外を見つめる美月の後ろ姿(彼女はいつも一人で中庭のベンチにいた)を目で追った。「勉強できるのは良いことだけど、あんなに必死になって、何を目指してるのかしら」「一位を取って、僕を……黙らせることだろうね」僕は自嘲気味に答えた。「でも、僕は僕で譲るわけにはいかない。それが彼女に対する、今の僕にできる唯一の誠実さだと思ってる」「理屈っぽいなあ、相変わらず」蓮が笑ったが、その直後、学食の入り口がざわついた。美月が入ってきたのだ。彼女は食券も買わず、まっすぐに僕たちのテーブルへと歩いてきた。「……湊」冷たい、けれどどこか震えているような声。「何かな、水瀬さん」「明日の数学の小テスト……あんた、満点取るつもり?」「……もちろん。そのつもりだよ」美月は僕を射抜くような視線を向けると、机を指先でトントンと叩いた。「もし私が満点で、あんたが一点でも落としたら。……二度と、私の前で『幼馴染』みたいな顔をしないで。思い出そうともしないで。一生、ただの赤の他人として過ごして」「……わかった。勝負だ」彼女が去った後、蓮が小声で呟いた。「おい……今の、プロポーズの逆バージョンか? 縁切り宣言じゃねえか」僕は答えなかった。ただ、シャーペンを握る手に力がこもった。なぜだろう。彼女に拒絶されることが、テストで順位を落とすことよりも、ずっとずっと恐ろしいことに思えてならなかった。




