第12章
箱庭の結婚生活
それからの展開は早かった。僕の両親と、美月の母親。大人たちは最初、あまりにも無謀な提案に絶句した。高校生の二人が「結婚生活」を送るなど、常識では考えられないことだった。けれど、美月の余命が半年であること、そして僕が彼女の命を支えるために、これからの人生のすべてを賭ける覚悟があることを伝えると、彼らは涙ながらに頷いてくれた。「……わかりました。残された時間を、二人の好きなように過ごしなさい」僕らは、病院の近くに小さなマンションを借りた。戸籍上の婚姻届は出せなくても、そこは僕と美月の、世界で一番小さな「家」になった。湊は学校を休学し、家事のすべてをこなし、美月の体調を管理しながら、二人だけの生活を始めた。「おかえり、湊。……ふふ、やっぱり恥ずかしいね」僕が買い出しから戻ると、ソファに座った美月が少しだけ顔を赤くして迎えてくれる。それは、偽物の夫婦ごっこかもしれない。けれど、そこには間違いなく、愛と幸福が満ちていた。
半年間の世界旅行美月の体調が一時的に安定した時期を狙って、僕たちは旅に出た。「行きたいところ、全部行こう。地球の果てまで付き合うよ」冬の海へ行き、誰もいない砂浜で寄り添いながら波音を聞いた。「湊、見て。海が、あの日見たひまわり畑みたいにキラキラしてる」彼女の細くなった肩を、僕は自分のコートで包んだ。その後、僕たちは海外へ飛んだ。パリの街並みを歩き、イタリアで本場のパスタを(彼女は一口しか食べられなかったけれど)楽しみ、北欧でオーロラを見上げた。「世界って、こんなに広かったんだね……。湊がいてくれなかったら、私は病室の天井しか知らずに死ぬところだった」美月は、旅先で撮った何千枚もの写真を見返しながら、いつも僕に「ありがとう」と言った。そのたびに僕は、彼女を失う恐怖を心の奥底に押し込み、ただ微笑み返した。




