【第4話:見えない魔女と、心眼の修行】
目が覚めると、森の中の小屋にいた。
助けてくれたのは、やはり「目の見えない」女性だった。
「あんたは一体?」
「この森の管理人さ。……お前、いい眼を持ってるのに、使い方が全くなってないね」
彼女は包帯をしたまま、迷いなくスープを作り、俺の横に置いた。
俺は床に頭を擦り付けた。
「頼む。俺に修行をつけてくれ! 俺はもっと世界を見たいんだ。あんたのその『見ないで見える』技術を教えてくれ!」
「……誰がババアだい」
「えっ、言ってないぞ!?」
「顔に書いてあるよ。ま、いいさ。……地獄を見るよ、ガキ」
修行は理不尽だった。
「視覚を捨てな」と渡されたのは、分厚い黒布の目隠し。
視界が完全に閉ざされた瞬間、俺の胸を去来したのは奇妙な「懐かしさ」だった。
色がわからず、輪郭も常にぼやけていた前世の記憶。あの心細い世界。
(……嫌だ。こんな真っ暗な世界で生きてたまるか)
俺は焦った。だが、師匠は容赦なかった。
「気配だよ。音、風、殺気……世界は光以外でも『形』を成している」
来る日も来る日も、木の実を投げつけられ、棒で殴られた。
だが、一ヶ月も過ぎると、俺の中に「音と気配による立体的な空間把握」が芽生え始めた。
そして、ある日の組手。
俺は勝ちたい一心で、禁じられていた目隠しを自ら引き千切り、右目をカッと見開いた。
今の感知能力に、あの「最強の眼」を足せば勝てると思ったのだ。
――キャパシティ・オーバー。
「ぐ、ああああッ!!?」
右目が焼けるように熱い。視界が真っ赤に染まり、空間そのものがねじ切れるように発火した。
制御不能の魔力が逆流し、俺の脳を焼き尽くそうとする。
「馬鹿野郎ッ!!」
師匠が燃え盛る暴走魔力の中に飛び込み、俺を抱きしめた。
彼女の手から冷却魔法が流し込まれる。
目が覚めると、右目には重たい眼帯が巻かれていた。
師匠の包帯の一部が焦げているのが見えた。俺を助けた時の傷だ。
「お前のその右目は『災厄』だ。強力すぎるがゆえに、身を滅ぼす。……心が眼に追いつくまでは封印しておきな」
「……ごめんなさい」
俺の謝罪に、師匠は乱暴に俺の頭を撫でた。
その手は、ゴツゴツしていたが、温かかった。




