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元盲目の少年、異世界で『観測者』になる。 ~灰色だった世界が美しすぎるので、最強の眼で観光してたら伝説になっていた~  作者: ベキー
第1章 紅蓮の瞳と見えない師匠

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【第2話:忌み子の決断と、月下の別れ】

翌朝、世界の色が変わっていた。

 空は青いのに、街の空気が重く、澱んでいる。


「……あいつだろ? 昨日の」

「目が光ったって……関わるなよ、呪われるぞ」


 視線。視線。視線。

 かつては見えなかった「他人の敵意」という色が、今の俺には痛いほど鮮明に見えてしまう。

 教会に戻っても、壁には泥で『悪魔の子を出せ』と落書きがされていた。シスターが慌てて消していたが、俺はそれを見てしまった。


(俺がいるだけで、みんなに迷惑がかかる)


 その夜、俺は教会の図書室にいた。

 開いた古びた本には、大陸の遥か西にあるという『七色の虹瀑レインボー・フォール』の挿絵が描かれていた。

 巨大な滝に常に虹がかかり、夜には発光する苔で七色に輝くという奇跡の絶景。


「……綺麗だ」


 俺は、この眼で見たい。

 人の悪意に怯えて暮らすのは、前世だけで十分だ。俺はもっと、この素晴らしい世界の色を網膜に焼き付けたい。

 俺は決めた。


 深夜。

 俺は書き置きを残し、最低限の荷物を持って教会を抜け出した。

 誰にも言わず、影のように去るつもりだった。


「――行くのね」


 門の横、古びた柱の陰から声がした。

 ミナだった。


「……気づいてたのか」

「わかるよ。セツナ、昔から嘘つく時だけ早口になるし……今日はずっと、遠くを見てたから」


 ミナが柱の影から姿を現す。月明かりに照らされた彼女の表情は、泣き出しそうになるのを必死に堪えていた。

 彼女は一歩近づき、俺の手に温かい布の包みを押し付けた。


「これ、持っていって。干し肉とパン。あと、私のリボン」

「リボン?」

「お守り。……ちゃんと帰ってくるための目印だよ」


 包みの中に、彼女がいつも髪に結んでいた青いリボンが入っていた。

 俺はそれを強く握りしめた。化け物と恐れられたこの眼を、彼女だけは真っ直ぐに見つめてくれている。


「……ありがとう。必ず、返しに来る」

「うん。絶対だよ。……どんな景色を見てきたか、一番に私に教えてよね」


 俺は背を向け、歩き出した。

 背中で、ミナが小さく鼻をすする音が聞こえた気がした。だが、俺は振り返らなかった。

 振り返れば、きっと泣いてしまう。


 俺は月に向かって駆け出した。

 その慢心が、すぐに打ち砕かれることになるとも知らずに。

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