第5話 先客
投稿順序ミスの影響で、第5話が11日の夕方に投稿せざるを得なくなりました。変なタイミングでの投稿、申し訳ありません。
出発が遅れたウイリアムたち一行は、日暮れまでにカリストの街へ入ろうと馬を飛ばしていた。
「ああ、もう空がオレンジ色じゃないか……。クソッ、今頃セラスたちはリールの街で暖かい食事でもしているのだろうな」
遅れを取り戻そうと頑張った甲斐があって、あと一山越えたらカリスト村という所まで来ていた。だがその代わり、騎士や従者、馬に至るまでかなりの疲労が蓄積していて、その足取りは重かった。
副団長のアスターがウイリアムのもとへ馬を寄せてきて大声で言った。
「ガムラン卿……そろそろ休憩しませんか」
「なんだ、もう限界か?」
「限界も何も……これまでろくに休憩も取らずに走ってきたではありませんか。これでは乗っている人間も馬も長くは持ちません……せめて水くらい飲ませないと」
「うーん、確かにそうだが、どこか良さそうな休憩場所はあるかな」
「もう少しで水場があるはずです」
ウイリアムは空の色を見ながら少し思案すると大きく頷いた。
「よし、じゃあそこで休憩することにしよう」
「はっ、ありがとうございます!」
アスターは嬉しそうに笑顔で一礼すると、後続の部下へ指示を出していた。
部下に言われて初めて気付いたが、大人数になるとそれなりにペースが落ちてしまう。結局、遅い者に合わせて走らなければならないからだ。休憩も増えるし荷物も増える。やはり、セラスのように、足の速い者たちだけ選抜して、五、六名で行くべきだったのだろうか。
「だが、だが敵に襲われたらどうする? さすがに五、六名では心もとない」
ウイリアムはそう思う。
「いや、万が一の襲撃に備えると、今の一二名でも少ないくらいだ……まあ、一長一短か」
そんなことを考えているうちに、ウイリアムたち一行は水場へと到着した。皆の目が生き生きと輝き、歓喜のどよめきが湧き起こった。
「おい、みんな休憩だぞ、ゆっくり休め」
騎士たちは冷たい水を飲んで顔を洗い、頭から水を被って身体の熱気を発散させていた。
「ああ、疲れた」
ウイリアムは馬から降りて、岩場に腰を下ろした。そして部下が汲んでくれた水をごくごくと飲むと、生き返ったような心地を感じた。
「ああ、冷たくて最高だな」
ウイリアムは大きく息を吐いた。そしてポケットから地図を取り出すと、水場の位置を探した。
「おお、ようやくここまで来たか。あと2時間も走ればカリストだ。もうちょっと頑張れば、宿もあるし酒も飲めるぞ」
ウイリアムはコップの水を喉に流しこんだ。それから立ち上がって馬のそばへ行って、身支度をはじめた。
その時、ウイリアムは広場の奥に、見知らぬ男が二人いるのが目に入った。
「おや?」
ウイリアムは、その二人をじっと見つめた。ただ何もせず、じっとしているだけだが、妙に気になる男たちだ。
一人は身長が175センチくらいの男で髭もきれいに剃り上げて、青々とした肌をした男だ。その男は旅人のような装いだったが、革製の小手や胸当てなどを装着しているところを見ると、どこかで用心棒でもしているのかもしれない。
だがもう一人の男は見るからに怪しかった。黒い軽鎧を着ていて、頭に黒い兜、そして鼻を隠す程度の黒い仮面を付けている。体格も大きくて、身長も190センチはあるように見えた。
それにしても妙な組み合わせだ。2人の装いが全く違う。仲間というより、異質なものを二つ合わせたような違和感を感じる。
「おい、あそこにいる奴らは、俺たちが来る前からずっといたか?」
ウイリアムはアスター副団長に声をかけた。アスターは首を傾げながら、うーんと唸っている。
「さあ……覚えがありませんな……なにせ喉が渇いていたもので……馬にも水をやらにゃいかんとか考えてましたら、先客のことなど目にも入りませんでしたわ」
「ううむ、やっぱりそうか……」
ウイリアムは、メンバーが思った以上に疲労が蓄積していると気付いたので、彼らの素性について自ら調べることにした。
「おい、お前たち、そこで何をしている」
すると、用心棒風の男が顔をあげてニヤリと笑った。黒い兜の男は全くしゃべる気配はない。
「どうしたんですかい? 旦那……俺たちはただここで休んでいただけですぜ。後から、旦那たちが休憩に入ってきて、そこで何をしていると言われてもねぇ……。へへへ。まぁ、俺たちはここでジッと休憩しているだけなんで、どうぞあちらへお戻りになってくだせえ」
男はそう言ってニヤリと笑った。
ウイリアムは名家の貴族であるし、剣術大会で優勝経験もある偉丈夫である。そのウイリアムを前にしても、何ら臆することなく堂々としているこの二人に、ウイリアムは少し違和感を感じていた。
「お前、名前をなんというのだ」
「あっしですかい? ベリーってもんです。こっちはジョーでさ」
「これからどこへ行くんだ」
するとベリーは面倒くさそうに態度を崩して、へへへッとせせら笑った。
「何がおかしいんだ、お前。失敬だろ!」
ベリーはもう一度せせら笑った。
「すいませんね、下賤な身なもんで、礼儀ってもんをどこか忘れてきましてね。それにこれから死のうかって人間に、礼を尽くすのもバカらしくてさあ」
それを聞いてウイリアムは青ざめてしまった。
「な、今なんて言ったお前! 冗談ではすまさんぞ! 貴様! 俺たちは王都で最も勇敢な第二騎士団の一行だぞ! バカにするとタダじゃすまないからな!」
「ほほう、じゃあ、その第二騎士団の連中に、少しでも骨のある奴がいるんですかい?」
第二騎士団をバカにされたウイリアムは、思わずカッとなった。
「貴様! その口が災いを呼ぶぞ!」
するとベリーはハハハと大きく高笑いをした後、急に真面目な顔になってウイリアムを見た。
「お前さんこそなんだね。人の所へ急にやってきては、言いたい放題じゃないか。それにさぁ、剣も持たずにノコノコと……バカなんじゃねえの? ほれ、俺もこいつも得物が手の届く所にあるんだぜ?」
そういうとベリーはマントをまくって剣を見せた。そしてウイリアムに視線を戻すとギラリと殺気を発した。
「相手がどんな奴なのかわからないのに、丸腰で近寄って来るとは……頭足りないんじゃねえの」
そう凄まれて、ウイリアムの心臓は跳ね上がった。ウイリアムは振り返って大声で叫んだ。
「おい、おい、誰かこっちへ来い! 怪しい奴がいるぞ!」
すると、黒い戦士ジョーがパッと動いた。ウイリアムが振り返ると、そこにはジョーの拳が迫っていた。
「ぐうっ!」
顎を綺麗に打ち抜かれ、ウイリアムは消えゆく意識の中で、ベリーのニヤついた顔が目に入った。
「へへへ、やっぱりお坊ちゃまだ。一撃でお陀仏だとは呆気ないね」
◆
……それからしばらくして、ウイリアムは目を覚ました。
ジョーという男に殴られて、意識を失っていたのだろうか。
彼は水場からこぼれ出ている水たまりの中で、泥まみれになりながら横たわっていた。
殴られて脳震盪を起こしているのか、頭がボーっとして、体も自由に動かない。だが、周囲から聞こえてくる悲鳴や叫び声を聞くと、ウイリアムは現実に帰らざるを得なかった。
ウイリアムは横になったまま首をひねって目をギョロリとさせ、水場の様子を見た。するとどうだろう。団員たちの半数以上は斬り殺され、広場に血の池を作っていたのである。
ベリーと名乗った男は、騎士団の猛者数人を相手に軽々と斬り合いをしていて、しばらくすると一人倒れ……二人倒れ……というように、驚くべき剣技を披露していた。また、黒い鎧を着たジョーも、二本の大きな斧を振り回して次々と団員を葬っている。
(俺は夢でも見ているのか)
ウイリアムは薄目でその光景を見ながら、ブルブル震えて動くことが出来なかった。
「おおおお……こんな恐ろしい戦士がこの世にいるのか」
ウイリアムは涙を流しながら、死体のようにじっとしていた。だが、死体はブルブル震えたりはしない。ウイリアムは、震えているのがバレたら、あの二人に殺されるのではないかと思った。
「いけない……と、とまれ……とまれよ……」
ウイリアムは震える足を両手で押さえたが、止まれと思えば思うほど、身体はガタガタ、ブルブルと震えた。ウイリアムは目に涙をためながら、涙と涎で顔をぐしゃぐしゃにした。
広場に目をやると、騎士のダグラスとブレッドが槍をしごいてジョーへと向かっていくのが見えた。数的には騎士団の方が多い……慎重にやれば勝てるはずだとウイリアムは願った。
ダグラスは槍の達人で、その腕前は王都でも名高かった。その槍の名人が連撃に次ぐ連撃でジョーを追い詰めていった。もう一人の騎士ブレッドも、ダグラスに次ぐ名人である。そんな二人が連携して同時攻撃するのだ。いくら黒い戦士が強かろうとタダでは済まないだろう。
「えええい!!」
「おおおっ!」
だが、黒い戦士ジョーは一言も声を発しない。まるで、機械人形のように物静かで、両手に持った二本の大きな戦斧を淡々と振り回して二人の攻撃をしのいでいた。
「いいぞ! ブレッド! 頑張ってくれ!」
ウイリアムは心の中で声援を贈る。二人は連携して槍を突き入れ、多彩な攻撃でジョーを攻撃していく。
ところが、10分経っても……彼らの槍は、一度としてジョーの黒い鎧を掠めることがなかったのである。
「一体、何なのだ、この男は!」
ウイリアムは唾をゴクリと飲んだ。
時間が経つにつれ、ブレッドとダグラスには、疲れと焦りが出ていた。そのせいか、いつの間にか二人の攻撃は。ジョーの身体へ近づくことさえ出来なくなっていた。
それからさらに数分経つと、攻撃はだんだんと外へ、外へと弾かれて……弾かれた槍に体を持って行かれるようになっていた。ウイリアムは手に汗を握りながら、必死の形相で歯を食いしばった。
「なんて力だっ!」
こっちの攻撃の手が緩んでくると、今度は斧の斬撃が降ってくるようになった。
「ああっ! くそ! 危ないダグラス!」
気が付けば、ブレッドとダグラスは防戦一方となっていた。
二人の攻撃が緩むと、ジョーの攻撃は勢いを増す。ダグラスは、もう限界だと思った。
「おおお……これほどとは!」
ダグラスは必死で槍を振り回してなんとか防御し続けていた。斧の勢いは刃を重ねるごとに増し、その重い斧の斬撃に翻弄されるがままとなっていた。そして、ついにダグラスが絶叫する。
「あああ!」
ダグラスの胸に、ジョーの大きな斧が肋骨を割って突き刺さったのだ。
「ダグラス!」
だがダグラスからの返事はなく、血を吐きながら地面へと落ちた。
ダグラスの死に顔を見てゾッとしたブラッドは、思わずジョーの顔を見た。するとジョーは、黒い仮面の向こうから、ギロリと白い目を覗かせていたのだ。
「ああっ、待って、ああっ、ちょっと待って!」
ブラッドはジョーに背中を向けて逃げ出した。そして馬の鐙に片足だけ載せて飛び乗ると、ジョーは逃げるブラッドの背中に向けて斧を一本投げ飛ばした。ジャラララっと持ち手についている鎖が音を鳴らして、馬の尻を突き刺さる。
「ぎゃああっ!」
馬は激しく嘶いて、ブラッドを振り落とした。
彼は地面に激しく背中を打ちつけたが、すぐに飛び起きて槍を構える。
そこへ、黒い戦士ジョーが斧を打ちおろしてくる。
死角へ、死角へ……逃げる方へ……躱す方へと、ブラッドの嫌がる所へ、次々と攻撃が飛んだ。もはやブラッドは、目だけがグルグルと動き回るだけとなって、ジョーの動きを、完全に見失っていた。
「た、助けてっ! お願いだ!」
そしてとうとう、ブラッドの右胸にジョーの斧が突き刺さった。血が噴水のように吹き出して、ブラッドはそのまま地面へと倒れた。ジョーはブン! と斧を振って血を飛ばすと、振り返ってベリーを見た。するとベリーはニヤリと笑った。
「終わったか、ジョー」
ベリーはそう言うと、自分が倒した騎士たちを親指でクイッと指さした。
「剣技で俺に勝とうなんざ、10年早いぜ」
ベリーはそういうとヒヒヒッと笑い声をあげた。そしてあたりをグルリと見渡すと、満足気に頷いた。
「さあ、帰って酒でも飲もうぜ。これだけやりゃ、もういいだろ」
ベリーはジョーを手招きしながら、水場の外へ歩いていく。そして、草むらの向こうから馬の嘶きが聞こえたかと思うと、二つの馬が遠くへ駆けていく音が聞こえた。
ウイリアムは呆然としながら、自分の両手を見た。
「助かったのか……俺は……」
ウイリアムは身体を起こして周囲を見渡した。
だが、呼吸をしているものは一人もいない。ウイリアムは、泥だらけの身体を凝視した。そこには助かったという安心感と、死んだふりをした罪悪感とが入り混じって、恐ろしいくらいの闇がぽっかりとウイリアムを包んでいた。ウイリアムは、その場に突っ伏して大声で泣いた。
「おおお……おおおおっ……ううう……」
仲間の死に……潰えた使命に……そして、己の不甲斐なさに泣いていた。
「あああッ! 俺はなんて情けないんだっ!」
ウイリアムは拳で地面を叩いた。いくら泣いても、彼の心に出来た黒い隙間は埋まることはない。彼には仲間の死体であふれるこの水場を、直視することは出来なかった。
すると、号泣する彼をあざ笑うかのように、フフフという笑い声が聞こえてきた。
ウイリアムは顔をあげて怒鳴った。
「誰だっ!」
ウイリアムは泥だらけのまま立ち上がった。すると、水場の入り口で一人の男がこちらを見ている。
「泣いて死者が蘇るのかね?」
ウイリアムの耳に……キザったらしい男の声が飛び込んで来た。
「誰だよ!お前!」
「招かれざる客……とでも言っておこうか」
男はゆっくりとウイリアムの方へと歩いてきて、フフフフと笑った。その男は長身の痩せ型で、仕立ての良い服に身を包んでいた。口にはぺンシル髭を生やしていて、見下すような態度でウイリアムを見ている。
「俺のことなんかほっといてくれ!」
「ははは、随分ずいぶんと荒れているじゃないか。まさか俺を殺してくれって懇願するんじゃないだろうね」
「そんなこと言うかよ! なんなんだお前は」
「さっきの黒い鎧の男の仲間さ……。あいつらはべらぼうに強いんだが後始末が良くない。ほら、現にこうして一匹取り逃している」
男はそう言ってウイリアムに人差し指を向けた。
「お前ら、一体何のために俺の仲間をこんな目に……」
ウイリアムはゼイゼイと荒い息を吐きながら身を起こして、膝立ちになった。
「仲間? こいつらはお前の仲間だったのか?」
男がバカにしたように笑顔を作ると、ウイリアムが叫んだ。
「そうだ。大切な騎士団の仲間だ! お前らが殺したんだろ!」
すると男が腹を抱えて笑いだした。
「その大切な仲間を見殺しにして、死んだふりとはとんでもないクズだな。お前はそうやって泥の中でジッとしながら、仲間が死んで行くのをその耳で聞いていたのか」
ウイリアムは思わず胸を押さえながら、涙をあふれさせた。
「う、うるさい黙れ。お前に何がわかる! 全部お前たちのせいじゃないか!」
「おいおい、私に責任転嫁するのはお角違いだろう。全部お前のせいじゃないか」
「こ、殺してやる!」
ウイリアムは立ち上がって拳を構えると、男は満足そうな顔をした。
「ハッハァ! 私を殺すって? 出来るのか?」
男はそう言うと、地面に転がっていた剣を一振り拾いあげて、ウイリアムに向かって投げた。剣は泥をとばしながら彼の足元に落ちる。
「一流の剣士相手に、丸腰で戦うつもりかね?」
男は鼻をフンと鳴らすと、口ひげを歪めながらウイリアムを見た。
「使ってもいいんだぞ……お前も元は……剣士の端くれだったのだろう」
その時、水場に流れていた風が止んだ。ムワッとした、血の匂いが立ち込める。
「くそう!」
ウイリアムは剣を掴むと、すぐさま立ち上がった。そしてギラリと剣を抜いて鞘を投げた。ウイリアムの目に力が戻ってきた。仮にも彼は、剣術大会の優勝者。剣にはいささか自信がある。それを見た男は嬉しそうだ。
「ほう、剣を握ると雰囲気が変わるんだな?」
「あまり俺をみくびらない方がいい」
「どうやら自信があるのか。ちょっとは剣を振れるのか」
「お前も剣を抜け! その目で確かめてみたらいい」
それを聞いた男は、愉快そうに、大仰な、小馬鹿にしたように両手を広げてニヤリとした。
「ハハハハ、それではご自慢の剣術とやらを披露してくれ」
ウイリアムは怒鳴った。
「お前の名前を聞かせろ!」
男はバカにしたようにニヤけながら、眉を上げて大きく目を見開いた。そして恭しく頭を下げる。
「これはこれはガルシア卿。申し遅れました。私はメラーズ男爵家の執事、ジェームズと申します。以後お見知りおきを……以後があればだけどね」
「お前、エミリーのところの?」
ウイリアムは驚いたように眉間に皺を寄せて睨んだ。それを見てジェームズは大笑いした。
「やっと気づいたのか、このマヌケ! お前たちがなぜこの街道を通ることを知っていたのか、ちょっとはその足りない頭で考えてみたまえ。ご丁寧にセラスのルートまで教えてくれた上に出発時刻まで話してくれるとは……全く、お前はバクスターに、誰にも言うなと言われなかったのか」
ウイリアムは顔をくしゃくしゃにしながら叫んだ。
「あああ……そんな……まさかあのエミリーが!」
ウイリアムは剣先で何度も地面を叩いた。それを見たジェームズはハハハハと大笑いした。
「あの部屋には私もいたのだ。もちろん、隠れてはいたがね。だからお前がクサイ台詞を言いながら、エミリーの頬へキスをしたのも、ちゃーんと知ってるんだ。だが、驚き給え。彼女はお前が出て行くと、嫌そうにハンカチで頬をぬぐっていたぞ」
「う、嘘だ!」
「嘘なもんか……はあ、恋は盲目というが、ここまで重傷だと死ななければ治るまい……まあ、もうすぐ死ぬか?」
「おのれっ!」
ついにウイリアムが剣を振り上げて、ジェームズに斬りかかった。その斬撃は、剣術に自信があるだけに鋭い斬り込みだったが、ジェームズはそれをわずか半歩、身体を動かしただけで躱した。そして、がら空きとなった首筋から背中にかけて、袈裟懸けにスパリと斬った。
一太刀! ……たった一太刀である。ウイリアムは、信じられないように目を剥いてジェームズを見た。
「おぼっちゃまの、ママごと剣術とは違うだろ?」
「ううう……」
ウイリアムの顔面は青白くなり、口から鮮血をほとばしらせた。
「早く仲間のもとへ逝け。そこで、仲間から恨み言をいっぱい聞くといい」
ウイリアムは大きく目を見開きながらジェームズを睨むと、そのまま血を吐きながら倒れた。