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【完結】剛腕のエルザ  作者: 平ミノル
4/30

第4話 待ち伏せ

すみません、順序を間違えて投稿してしまいました。

もし、3話を読ます4話を読まれた方は、申し訳ありませんが、一話戻って読んでください。

お願いします。

 


 

 大急ぎで王都を出発したセラス一行は、2時間ほど走った郊外で、20人ほどの賊に襲われていた。


 セラスは、ブライス医師とヴァルハラ行きの打ち合わせをしてから、わずか一時間で王都を出たのである。それなのにこの待ち伏せは一体何なのか……。セラスは怒り狂っていた。


「一体どこから我々の出立がもれたのだっ!」


 王宮のどこかに内通者がいる! セラスは歯ぎしりした。苛立ちと怒りで顔を真っ赤に染めて、迫りくる賊どもを睨みつけた。


「全員、戦闘配置につけ! この程度の賊ごとき、一気に片付けるぞ!」


 セラスはそう言うと、馬上でグレイブを構えた。


 騎士団では、馬上で戦うことを想定して槍を使う隊が多いのだが、セラスの隊では槍の穂先が剣になっているグレイブを使用している。もちろん、槍よりも扱いが難しい武器だが、乱戦となった時に多様な戦い方の出来る、グレイブを選択したのだった。


 しばらく戦ってみて、襲撃者たちが連携のとれた戦いが出来ない素人だと見抜いたセラスは、武力によるゴリ押しをすることに決めた。


「いいかみんな! 一気に蹴散らして先を急ぐぞ! アデルとリースは弓で先制攻撃! その後、拡散して群れから離れた賊を射抜いていけ! メイス、バートン、エルザは私に続け! 突っ込むぞ!」


 セラスはそう言うと、馬上でグレイブを構えた。現場は見通しの良い杉並木……。真っすぐに伸びた道は幅15メートルほどと狭く、賊はそこを完全に塞いでセラスたちを待ち受けていたのだ。


 まず弓隊が矢で狙い撃ちしながら賊をかく乱した後、グレイブを持った4名が突撃していく。混乱した敵は大して戦うこともせずただ逃げ惑い、悲鳴と怒号だけが響き渡った。


「ぐわっ! おおっ! やられたっ!……」


「こんなに強いなんて聞いてないッ!」


 セラスは白かった顔を、怒りで真っ赤に染めて刃を振るった。賊から見れば、その姿は赤鬼のように感じたことだろう。セラスが通りすぎたその道は、血で真っ赤に染まった。


「ずらかるぞ! 退け! 退け!」


「いくら金が良くたって、生きてこその金だ! 死んでたまるか!」


 賊は背中を見せて逃げ出している。エルザはその逃げる盗賊の背中を馬上から狩っていたが、ふと、道の先に、黒いローブを身に纏った怪し気な三人の男を見つけた。


「進行方向に変な男がいる! みんな気をつけて!」


 エルザは叫んだが、メンバーは敵を追って草むらへ分け入っていて、誰も聞いていない。

「みんなバラバラじゃない!」

 エルザがそう焦った時、前方の不審者は大きな火の玉を飛ばしてきたのである。そしてその火の玉は、エルザの脇にある木に衝突すると、その幹を叩き折って焼いた。


 それを見たエルザは驚いてしまった。


「なによあれは!」


 エルザは子供の頃に見た妖術使いを思い出していた。忘れもしない、その女の名はベルネージュ。村を妖術の炎で焼いて、父さんを短剣で刺した、あの妖術使いである。


「エルザ! 何をボーッとしている! また火の玉が飛んでくるぞ!」


 エルザがハッとして顔を上げると、セラスが脇を駆け抜けて、妖術使い目掛けて駆け抜けて行くのが見えた。


「あっ、セラス様、どちらへ!」


「私はあいつを斬ってくる!」


「セラス様っ! お一人では危ないっ!」


「大丈夫だ。あいつらの攻撃にはタイムラグがある」


 するとセラスは馬を走らせながら振り返って、ニコリと笑った。


 セラスが馬を飛ばして男たちに迫った時、あわてて新しい火の玉を作り出していたが、それを発射する間もなくセラスのグレイブに切り裂かれていた。


「ぐあああ!」


 三人の妖術使いは大慌てで逃げ出そうとしたが、セラスはグレイブを振り回して、三人の背中をバッサリと斬り裂いた。


「なめるなっ、この妖術師め!」


 男たちが地面に倒れたので、セラスは馬から降りてトドメを刺す。そして、彼女が馬の元へ戻ろうとした時、背後から猛烈な勢いで棒の一突きが飛んで来た。


 それはガアンという大きな音を立てて、セラスの鎧に突き入れ、彼女を数メートルも吹き飛ばしたのである。


「がはあ!」


 セラスは鎧越しとはいえ強い衝撃を受けて、グレイブも手離してしまう。セラスは苦痛に顔を歪めながらも、すぐに姿勢を正して腰の剣を抜いた。


 セラスが棒の飛んで来た茂みを睨み付けると、中から二人の大男が姿を出現した。


「うまく引っかかったな、タッカー」


「ああ、うまく引っかかったぞ、フォルト」


 驚いたことに、二人は全く同じ顔、同じ大きな体、そして同じ声で喋っていたのだ。話ぶりからすると、前歯の欠けた棒使いがタッカーのようである。


「お前ら双子か……!」


すると双子はゲラゲラと笑い出した。


「知らないのか! 双子が看板の盗賊だから“双頭の竜”って呼ばれてんだぜ。セラス・バクスター、お前の首には大金がかっている……観念してその首差し出しな」


 セラスは眉尻をキッと吊り上げて、剣先を男たちに向けた。


「双頭の竜か、聞いたことがある。お前らの首にも賞金がかけられているだろう。お前らこそ観念して、その汚い首を2個セットで差し出してみろ」


 それを聞いたフォルトとタッカーは顔を真っ赤にした。


「女のくせに、俺たちに勝つ気でいやがる。さて、いつまでそんな涼しい顔していられるかいの!」


 そういうとフォルトは素早く進み出て、セラスへ剣を振り下ろした。セラスが剣を振り上げると、フォルトの剣とぶつかって白い火花がバチッと飛んだ。


「死ねぇ! このアマっ!」


 フォルトとタッカーの攻撃は、一言でいうと見事だった。


 杖を躱せば剣が来て、剣を受ければ杖が来る……。そんな双子ならではの、息の合った攻撃に、セラスはあっという間に追い詰められてしまった。


「おお、おおっ! こいつら戦い慣れしている!」


連携が巧すぎる――


 セラスはたちまち顔を青ざめさせた。


「高い賞金首だけあって、なかなかしぶといぞタッカー」


「値段だけのことはあるな、フォルト」


 思ったよりセラスが戦うので、タッカーは杖をしごいて遠くまで突き入れる攻撃に変えてきた。そして、セラスを外に逃がさない……そういう巧みな攻撃で、セラスの逃げ道を徐々に塞いでいく。


その双子の戦略が効いてきたのか、セラスの攻撃がほとんど届かず、一方的に攻撃を受ける側になっていた。セラスは冷や汗を流している。

 

「一体、どうなっているんだ!」


 セラスは唸った。今はかろうじて双子の攻撃をしのいでいるが、少しでも気を緩めれば命はない。


 逆に生き生きとしてきたのはフォルトだ。タッカーの加勢を得て、剣を振るう動作にも躍動感がある。フォルトはニヤリと笑った。


「よし、ボックスに入ったぞ!」


「後、五手で詰みだ!」


 "ボックス"とは、彼の造語で、外へ逃げることが出来ないよう攻撃で誘導し、敵を狭いエリアに押しとどめることを、彼らは"ボックスに入れる"と呼んでいた。つまり、セラスは彼らの作り上げた死地へと足を踏み入れたのである。


 相手の攻撃は、常にセラスの命を脅かしていた。ひとつ選択を間違うと致命的な攻撃を受けかねない。


 いくらセラスといえども、いつまでも渾身の力で闘い続けることは出来ない。おそらく、この数分間が勝負の時。そこを凌げば、おそらくメイスたちが応援に来てくれるはず……。


……だが、セラスは首をブルブルと振った。


「いや! 違う!」


 セラスは助けを期待した自分の弱い考えを払拭した。


「皆も持ち場で必死なのだ。私は私で、最善を尽くすのみ!」


 セラスが心にそう誓うと、頭が熱くなってきていた。そして、その想いが途切れそうになる集中と、折れそうになる心を奮い立たせた。


「うおおおおお!なめんなーっ!!」


 セラスは鼻血を吹きながら、猛烈な速さで剣を振り回した。おそらくフォルトには、セラスの剣撃が無数の刃に見えただろう。凄まじい連撃をフォルトとタッカーへ加えて行った。


 ガガガッ!


 その瞬間、フォルトとタッカーの腹に剣があたる。だが、鎖帷子を着ているので、服が切れただけだ。だが、彼らの攻撃はすべてはじかれ、もはやボックスは崩壊してしまった。


「うわっ、なんて女だ!」


 思わずフォルトが声をあげた。


 セラスの呼吸は荒く、腕が上がらなくなってきていた。だが強い視線で二人を睨みつける。


「大人しくその首差しだぜ、この双子野郎っ!」


 一瞬ひるんだフォルトへ、セラスは追い討ちの一振りを浴びせようと剣を前に出した。その時である。


 ガシャ! という音とともに、セラスの剣と両手に鎖が巻き付いた。


「あ痛ッ!」


 セラスの顔が苦痛に歪む。タッカーの杖の先から鎖付きの分銅が飛び出して、セラスの剣と両腕に巻き付いたのである。見るとセラスの両腕は、分銅の直撃を受けて赤黒く腫れあがっていた。


「駄目だ……痛みで力が入らないっ」


 セラスの額は脂汗をダラダラ垂れ流した。ふと前を向くと、もうフォルトが剣を突き刺す体勢で目の前まで迫っていた。


「死ね小娘!」


 フォルトが突きだす剣が迫る……。だがセラスは頭を下げて剣の下をくぐり、前に出ることで鎖の拘束を緩めて、そのままフォルトの腹を殴りつける。そして弛んだ鎖を振りまわしてフォルトにぶつけて、よろけさせた。


「うおおおっ! このぉ!」


 セラスはさらに追撃しようしたが、今度はタッカーが鎖を引いて動きの邪魔をした。


「あっ」


 セラスは鎖に引っ張られ、後ろへたたらを踏んでよろけた。


「くそぉ!」


 それを見たフォルトは、剣を振りかぶって袈裟切りに斬りつけてきた。鎖で身動きが取れないセラスは、しゃがみながら剣を頭上にかざして、かろうじてフォルトの長剣を受けた。すると、すぐさまタッカーが鎖を引く。


「うわぁっ!」


 セラスはよろめいて尻もちをついた。


 身を起こそうと地面に手をつくが、痛みで力が入らない。セラスは尻もちをついたまま、地面に背中までつけてしまった。


「あっ! しまった!」


 セラスがあわてて顔をあげると、もうそこにはフォルトの剣が迫っていた。


 その瞬間。


「ええええぃっ!」という気合が聞こえたかと思うと、バキィッ!という音と共に フォルトの両腕が斬り飛ばされていた。


「ぐあああ!」


 フォルトが斬られた衝撃で地面を転げまわり、それから両膝をついて悲鳴を上げ、血の吹き出る両腕を凝視していた。セラスが顔を上げると、赤い髪が風で揺れているのが見えた。


「エルザ!」


「遅くなってすみませんっ、セラス様!」


「気を付けろ! エルザ! もう一人いるぞ!」


 セラスはひざ立ちになった。


 エルザはフォルトには目もくれず、タッカーに向かって駆け出していく。


 タッカーは応戦しようと杖を上げたが、今度はセラスが体全体を使って鎖を引いたので、タッカーはたたらを踏んで体勢を崩してしまった。……杖が上がらない。


「くそう! なめやがって!」


 タッカーは杖を手放すと、右手を後ろに回して腰の短剣を抜こうとした……だが、その時にはもう、エルザの剣が右目から鎖骨……そしてすべての肋骨を断ち切って、腰骨まで斬り裂いていた。


「ぬおおおおっ!」


「がああああっ!」


 タッカーは、切断面のすべてから血を噴出させ、断末魔のような叫び声があたり一面に響き渡った。そして、握り締めた短剣の刃先を、弱々しくエルザに向けたかと思うと……そのまま地面へと倒れ落ちていった。


 エルザはそれを見届けると、セラスのもとへ駆け寄った。そして、セラスの腕に巻かれた鎖を外していった。


「ありがとうエルザ……助かったよ」


「お怪我はありませんか、セラス様」


「ああ、大したことはないさ」


 セラスはそう言ったが、鎖で痛めた右腕は赤く腫れあがっていた。エルザは携帯用の薬箱を取り出すと、セラスの腕に薬草を貼り付けた。


「痛み止めです……気休めですが」


「すまないな、エルザ……」


 大丈夫といいながら、セラスは痛みで顔をしかめていた。


 エルザはふと、そばで倒れている妖術使いの死体を見た。たいした活躍はしなかったが、エルザにとっては過去のトラウマを掘り起こす、恐ろしい技であった。


「それにしても恐ろしいですね……妖術使いという奴は」


エルザがフーッっと息を吐いた。するとセラスは力強く言った。


「エルザよ。私は戦う敵に対して一定の敬意を払うことにしているが、妖術師だけは別だ。決して容赦してはならん」


「それはどうしてなのですか?」


「私が奴らを毛嫌いするのは、その恐ろしさや不気味さではない。力を得るためには、人を殺しても構わぬという性根が気に入らないのだ」


「妖術師たちは、人を殺して力を得ているのですか」


 セラスは頷いた。


「元々妖術というものは、人体の中にある魔素というエネルギーを、火や風、水などに変換させる技術なのだよ。だが、元々人体にある魔素の量などたかが知れている。それだけでは大規模な妖術は使えない」


 セラスはそう言いながら、腕の具合を確かめていた。


「そこで、奴らはなんとか大量の魔素を、手っ取り早く手に入れる方法を研究したんだ……すると、人間の魂そのものが魔素に当たるということが分かってな。奴らは強くなるために、人の命に手を出すようになったのだ」


 それを聞いたエルザは、村を焼いたベルネージュのことを思い出していた。


「あいつらは本当にイカれてます……」


「ああ。だから王国では妖術を禁じているのだ。それから妖術にはな、必ず儀式というものが必要だ。だから攻撃にタイムラグがあったり、事前の準備が必要だったりする」


「それで、さきほどセラス様は突撃されたのですね?」


 セラスは頷いた。


「だがなエルザ。奴らはその弱点を補うために、幻術も学んでいるんだ。そうなると、どこまでが現実で、どこまでが見せかけなのか……わからなくなってくる。そうやって虚実入り混じりながら戦うのが、奴らのスタイルだ。お前も気を付けろよ」


 セラスは立ち上がって馬の方へと歩いて行く。その時、そばにあった妖術使いの死体を、憎々し気に見た。


「こいつらを生かしておけば、多くの人々が命を落とすことになる。決して生かしておいてはならん」


 セラスはそう言うと、ヒラリと馬上へ上がった。





 セラスが死闘を行なっていたその頃……、ウイリアム・ガルシア卿は、予定時刻を2時間経過してもなお、出発準備に手間取っていた。


「何が問題なのだ。ええ? 説明しろだって? 極秘任務だと言っているだろう」


 ウイリアムはイライラしながら床を蹴った。ウイリアムとしては、すぐにでも出発したかったのだが、少人数とはいえ人を集めなければならないし、急に主人がいなくなるというので、家臣たちは色々と指示を仰ぎに来る……。そして、極めつけは両親だった。


 息子のウイリアムが、親にどこへ行くのか言わないので、何か良からぬことに巻きこまれているのではないかと心配しているようだった。


「私の口からは言えないんですよ、母さん! 極秘任務だと言ってるでしょう。もう、なんで信用してくれないんですか……。そんなに知りたいならバクスター侯爵かブライス医師にでも聞いてください。もう、本当に困りますから」


 そうやってザワザワしていると、皆がひそひそと、ガムラン卿はどこへ行くのか、人々はあらぬ噂をするようになっていた。


 その様子に根負けしたウイリアムは、事態の収拾を図ることを条件に、母親にだけこっそりと、自分の任務について話してしまった。ウイリアムは子供のころから母親にベッタリだったので、断り切れなかったようである。


 そして、予定時刻を大幅に過ぎた昼すぎ、ウイリアムはようやく王都を出発した。それはブライス医師より話を聞いてからなんと四時間も経過していたのである。


 これにはセラスの父、バクスター伯爵家当主のエドガーもあきれ返っていた。


「あいつはバカなのか? そんな調子じゃ、日が明るいうちにカリストの街まで行けんだろう。野宿でもするつもりなのか?」


 だが、そんなエドガーの気持ちもわからないのか、ウイリアムはのんびりとしていた。ワインやチーズなど余計な荷物も抱えつつ、部下11名を引き連れて、悠々と王都を出たのだった。


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