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【完結】剛腕のエルザ  作者: 平ミノル


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第21話 帝国の王子

定時の12時に更新出来てませんでした。

すみません!



 セラスと合流したエルザたちは、メラーズ家の使用人の案内のもと、屋敷の中をくまなく調べることにした。すると、驚いたことに、様々な証拠物件が見つかったのである。


 まず、最初に見つかったのは、エルランディ暗殺に使われた毒虫だった。毒虫が発見された部屋には他にも危険生物が飼われていて、それらを戦闘で使う方法などが記された資料が残されていた。


 また、メラーズの敷地内に、治癒能力があるとされる帝国の民族、タミル族の収容施設も発見された。


 施設には、タミル族の女性ばかりが二十人ほど監禁されていて、怪我をした兵士たちを繰り返し治療し、その効果を検証するなどの実験が行われていたらしい。


「エルザ。お前が駅馬車でタミル族の娘を助けたことがあったが……あの時の黒幕もメラーズだったとはな」


 エルザは鼻をフンを息巻いた。


「本当に、色々と腹立たしいです」


「うむ。やはり、帝国はこのメラーズ領を通じてエスタリオン王国内に軍を送り込もうとしていたのだな。そして、ここに治癒施設を作って、怪我をした兵士を治療するつもりだったのだろう」


 すると、エルザが手を上げて発言する。


「今のセラス様の推測が正しいなら、敵はもう近くまで来ているはずです。軽く偵察に行ってみてはいかがでしょう」


「しかし、もうすぐ日が暮れるだろう。闇雲にウロウロするのは危険ではないか?」


「大丈夫ですよ。今日はまだ月が明るいだろうし……。それにヴァルト大臣も帰ってこないとなると、敵の方からウロウロとやってくるはずですよ」


「うーむ。まあ、それだけ言うならやってみろ。成果などなくて元々だから、軽く見回って来い」


 するとエルザは笑顔になった。


「では早速……ジョー……ゴホン!……ジョーデンセンを連れて、偵察に行って参ります」


 エルザは立ち上がって、部屋から飛び出して行った。エルザはジョーに手柄を立てさせて、真っ当な人生を送らせてあげたいと考えていたのだった。


 それから1時間ほど経った頃……。エルザは屋敷の近くをウロウロしていた、怪しげな男を発見した。ジョーはその男を軽く叩きのめした後、わざと隙を見せて逃がすことにする。そして、その後をこっそりとエルザがつけたのである。


 陽は西に傾き、空は夕焼けでオレンジに染まっていた。エルザはオレンジ色の光を背に浴びながら、遠眼鏡で村を観察した。


「あの村がそうね?」


 エルザは遠眼鏡を見ながら、村の様子を探った。すると、何やら仰々しい恰好をした若い男が、豪華な装飾のついた馬車から降りてくるのが見えた。


「何か見えるか?」


「うーん、何か金ピカの若造が馬車から降りてきたわ」


「その金ピカは、偉そうにしているか?」


「偉そうも何も、ふんぞり返っているわ。その金ピカの周りに、偉そうな老人たちがゴマを摺ってる」


「案外、大物かもしれんな」


「ふふふ、持って来たお土産を渡してこようかしら?」


「まあ待て。もう少し暗くなってからにしろ」


そんなジョーの様子を見て、エルザはフフフと笑った。


「最近、よく話してくれるようになったわね?」


 するとジョーは一瞬、押し黙ったが、すぐにプイとそっぽを向いた。


「……俺はいつも普段どおりだ」


少し、ジョーと照れたところが微笑ましく思ったエルザは、ニッコリと笑顔を向けた。


「ふふふ……で、とりあえずは、普通じゃない恰好をしているアイツがターゲットってことでいいわよね!」


「もちろんだ。たとえ皇太子じゃなかったとしても別にいいんだ。お前は王女様を酷い目あわせた帝国の奴らを、一泡吹かせてやればいい」


 今日のジョーはよくしゃべる。エルザは目を丸くして驚いていた。


 だが同時に好ましいとも思っていた。無口なジョーよりも、ずっといいと思った。


「よし、あの建物に入ったわ」


 エルザは、例の豪華絢爛な金ピカ服を着た男が、一軒の大きな建物へ入っていくのを確認した。エルザは遠眼鏡を置いて、ジョーを見た。


「いい? 打ち合わせ通りにいくわよ? 今から私が潜入するから、あなたは時間になったら合流地点で待っててね。もし、私が追っ手を連れて来ちゃったら、適当に蹴散らしながら逃げて頂戴」


「わかった」


 そう言いながら、二人は頷きあった。


 こうして話している間に、空はどんどん暗くなっていく。エルザは黒いマントを肩から羽織った。


「じゃあ、行って来るわね」


 エルザがジョーにそう声を掛けると、草むらの中へ身を投じた。そして、あっという間にエルザの姿は、夕闇の中へ溶け込んで行ったのである。

 




 ウインザー帝国・第一王子、エドワード・ウインザー。


 駐屯地では皇太子……などと呼ばれているが、実はまだ正式に皇太子になったわけではない。


 彼には2人の弟がいる。


 第二王子、マイロ。


 第三王子、リーヴァイ。


 この2人の王子は若い頃から出来が良く、エドワードは学問でも剣術でも、優秀な弟2人に勝てるものは何一つなかった。


 しかも、この弟2人は人望もあるのだ。エドワードにとって、次期王となるために、弟たちより優位に立っていることと言えば、ただ先に生まれたというだけなのである。


 帝国は、一応、帝位は長子継承制となっているので、順調にいけばエドワードが王位に就くはずだが安心は出来ない。今の地位を安定させるためには、どうしても実績が必要なのである。


 エドワードは、会議の場に集まった8人の将軍、参謀、そして大臣に向けて、大声で言った。


「いいか、今回のことは、何としてでも成し遂げなければならない。みんな気合を入れて事に臨むように」


「はい、皇太子様」


 全員が小さく頷く。


「ところで、大臣のヴァルトから連絡はないのか?」


 エドワードがそう問いかけると、すぐそばの大臣が口を開いた。


「は……定期連絡はいつも夜に到着しますので、間もなく皇太子様へもご報告出来るかと……」


「そうか……まあ、良い。今回の作戦は完璧だ。王国からボーマン伯爵家、メラーズ男爵家といった、我が国と国境を接している貴族が寝返り、しかも、あの魔女ベルネージュが大魔法で王都をぶっ飛ばすというのだからな」


「それにつきましては、追加で情報がございます。ベルネージュが参戦すると聞いて、南の伯爵家とその寄り子の男爵家が、こちら側へ寝返ると聞いています」


「そうだろう。これでは天が私に勝ってくださいと言っているようなものじゃないか」


「まさにおしゃる通りで」


「だが、エスタリオンの次期女王と言われたエルランディの命は助かったそうだな?」


 エドワード王子は、苛立たし気に大臣へ言った。


「ええ……メラーズの手の者が、さんざん妨害したらしいのですが、結局、解毒剤を王都へ持ち帰られて、命だけはとりとめたようです」


「くそっ! だから私はもっと強い毒を仕込んでおけと言ったのだ」


 王子の苛立ちに、大臣は申し訳なさそうに弁解した。


「しかし、王女暗殺の混乱に乗じて、戦争をしかけようという作戦だったわけですから、ある意味目的は達せられたとも言えます。それに、王城の内部へ侵入するとなると、監視の目も鋭く、あまり蛇とか蜂など強力なものは持ち込めません」


「だが、遅効性の毒とはなんともまどろっこしいものを使ったものだ。せめて、即効性のものにすれば良かったのではないのか」


「ですが、その時は、病気のように見せかけることが出来るので、暗殺に向いていると皆が勧めるものですから……」


 報告する大臣は、申し訳なさそうに頭を下げた。


「しかし、惜しいことをしたものだ。姉が病に倒れ、何の苦労もなく女王の座を手にする未来を握っているなど、俺としても許せるものではない。……で、病状は回復しているのか?」


「一命はとりとめたものの、昏睡状態から目覚めてはいないとのことです」


「そうか! そのまま目覚めなければいいのに!」


 そういって、エドワードは笑った。


 その光景を、会議の場へ出席していた重鎮たちは、冷や汗を流しながら眺めていた。


「あいつはな……あのエルランディは、五年前の国際会議で会ったことがあるのだ。本当に嫌な女だった。ツンとしていて、俺のことを見ようともしなかったのだ。……いい気味だ。馬鹿め! バカバカバカ、バーカ! ……」


 そんなことを言いながら、高笑いを続けるエドワードを、重鎮たちは冷ややかな目で眺めていた。


 この劣等感の強い王子を誰も諫めはしない。不興を買うと、酷い目にあわされるからだ。


 つまらない男とはいえ、この、秘密裡に進められているエスタリオン王都襲撃作戦が成功すれば、次期王位は決まったようなもの。ここに集まった重鎮たちにしてみれば、担ぎ上げないわけにはいかなかったのだ。


その時……。


 不意に空中で黒い毬のようなものがふわりと飛んだ。


「なんだあれは?」


 エドワードは、その黒い玉が何なのか目を凝らして良く見た。そうして見ている間に、エドワードの胸元へと落ちて来て、前のテーブルにぶつかるとパカリと割れた。


「あっ!」


 するとその中から、体長が10センチもある巨大な毒蜂が約15匹ほど飛び出して来て、周囲にブンブン飛び出したのである。当然だが、玉が割れた拍子にエドワードの服や顔にも蜂が付着しており、その事実に慌てたエドワードは、慌てて蜂を手で払いのけたのだった。


「うわっ! 蜂だっ! なぜこんなところに! 誰かっ! 早く俺を助けろ! 何をしている! ああ、あああー--っ!痛たたたた! 痛いっ! 痛い! 誰か! 誰か……」


「王子っ!」


「王子っ!……」

 




その光景を、エルザは屋根の上から眺めていた。


 重鎮のうち3人は王子を助けようと駆け寄り、残りの5人は逃げた。


 おそらく、駆け寄った3人の重鎮も毒でやられてしまうだろう。


「……なにがバーカだ……お前がバカだろ。このクソ王子」


 エルザはそう吐き捨てると、屋根の上から降りていった。下に降りると、周囲はすでに大混乱となっていた。


 中から飛び出て来た大臣の背中に、蜂が付いていたのである。


「だ、誰か!取ってくれ!」


 走り回る大臣に、逃げ惑う兵士たち。


「今投げ入れた所なのに、もう外を飛んでいるの?」


 エルザは、チラリと村の中を一瞥すると、慌てて森の中へ駆けこんでいった。だが、誰もエルザに気付かない。


 なにせ、殺人蜂が飛び交う中である。誰もがおのれの命を守るのに必死だったのだ。


 この騒動には後日談がある。


 結局のところ、この村の兵たちでは毒蜂を駆除することが出来ず、大混乱の末、20人もの死者を出してしまった。


 何せ刺されたら死ぬという、強力な毒蜂である。駐屯地から逃げ出す兵まで現れ、現地はたった蜂15匹のために軍としての機能を一時的に停止しまったほどだった。


 そして、今回の騒動で、エドワード王子のほか、軍の最高責任者であるリーグ将軍、アスター将軍、参謀のゲイルなどの重鎮5名が死んだ。


このことは、帝国にとって大きな痛手となり、しばらくは軍事活動の休止を余儀なくされたといわれている。


 ウインザー帝国のゴードン王は、この報告を聞いて、手に持っていた杯を宰相へ投げつけた。


「全くワシに黙ってよくもこんな大それたことを!」


 宰相は頭を低くしながら、報告する。


「エドワード王子が、あの魔女ベルメージュや王国の貴族たちと結託し、王都襲撃を計画していたことは、一部を除いて秘密にしていたようでして……」


 ゴードン王は、その秘密を共有していた責任者に怒りをぶつけたい所だったが、あいにくリーグ将軍もアスター将軍も、エドワードと共に死亡してしまった。


 ゴードンは、苦虫を噛み潰したような顔をして、宰相を睨みつけた。


「馬鹿に刃物を持たせるなというが本当だな。国と国との関係がどういうものか、何もわかっておらんくせに」


 ゴードン王はため息を吐いた。


「王国襲撃の首謀者があちらの貴族だったとしても、こちらの協力者が第一王子と軍務大臣だとあっては、知らなかったでは済まないんだからな!」


 ゴードンは玉座から立ち上がって、宰相に言った。


「エドワードは、毒蜂にやられたのだったな?……おそらくそれは、エルランディに毒を盛った意趣返しといったところだろう。……この件は、これ以上大きくするな。エドワードは病死として発表せよ。もとより、皇太子の器ではないと思っておった。丁度良かったのかもしれぬ」


「は、わかりました。……それよりも、今はヴァルド大臣の身柄の方が問題です」


「もちろんそうだ。こちらは完全に国際問題。王国との話し合いにはマルロ、お前が行って来い」


 第二王子マルロはすぐに立ち上がって一礼をした。


「父上、お任せ下さい」


「うむ……。だが出来るだけ、戦争は回避せよ。我が国は今、色々と疲弊しているからな」


 ゴードン王は、そういうと天を仰いだ。



 数か月後、王国と帝国の間で、王都襲撃計画事件の事後処理について話し合いが持たれた。


 はじめ、エスタリオン王国は、戦争も辞さないという構えだったが、次期王と言われるマルロ直々の王都訪問による謝罪と説明があってから、一変して態度が軟化。


 賠償額はそれなりに考慮されて減額され、代わりに経済交流を活発化させることで、王国に対して、長期に渡り利益をもたらすという提案を受け入れることにした。


 要は、うまく賠償額の引き下げに乗ってしまったということである。


 マルロの立派な交渉や態度を見て、感心すると共に、危機感をも感じていた。


 後にエスタリオン王は、エドワード死亡という出来事は、かえって帝国を利することになったかもしれないと、こぼしたという。


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