『風にふかれて』
シャルヴィナ・ヴァナディース個別
これで良かったのか。
幾度も繰り返す自問。
聖戦の時から。
答えは、いまだ得られない。
青銀の髪がなびく。
血の臭いを含んだ風に。
それは罪の証。
幾千幾万もの命を奪った罪。それはけっして許されることはない。
金色の竜王マルドゥークを倒したとしても。
否、むしろ女の罪が、またひとつ増えただけだ。
「私は……生きていて良いのだろうか……」
呟き。
「それでも俺は、お前に生きていて欲しい」
歩み寄った男が声をかけた。
優しげに。
罪にまみれていても良い。
世界の敵でも良い。
ただ生きていてくれれば、それで充分だ。
「いつもそうだな。ロック」
苦笑めいたものを女が浮かべる。
ロック・サージェントとシャルヴィナ・ヴァナディース。
郷に残るのは、もはやこの二人だけだ。
彼らの間に産まれた子供は、竜神官夫妻とともにルーンシティ郊外へと移り住むこととなった。
普通の人間として、普通の人間の中で暮らした方が良い。
ふたりで何度も話し合って決めたことだ。
竜化の進んだシャルヴィナが人間の街で暮らすのは難しい。かといって竜の郷で人と交わらずに成長させるのは、子供にとって良いことではない。
せめて夫だけでも子供と一緒に行くようにと、繰り返しシャルヴィナは翻意を促したが、ロックは頑として首を縦に振らなかった。
「俺は究極的にすべて捨てられる。お前以外のものは」
というわけだ。
子供だろうと、自分の命だろうと。
たとえ千歳の時が流れても、この想いは変わらない。
異形と化したままの手を握る男。
女は、振り払わなかった。
「何度もいうが、お前は馬鹿だ。私などに付き合って一度しかない人生を捨てることもあるまい」
「お前とともにあることが、最高の幸福なんだ」
シャルヴィナの命は、保ってもあと一〇年。
自分が看取ってやらなくて、誰が見送るのか。
哀しい宿命。
別離は既定の事実であり、それを覆すことはできない。
なのに、
「私は我が儘な女だ。ずっとお前の傍にいたい」
願ってしまった。
「ずっと一緒だ」
寄り添う影。
「私が死んでも、忘れないでいてくれるか?」
「この名にかけて、誓う」
冷たさを増した風が吹き抜けてゆく。
罪と。
罰の香りを抱いて。