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第六回リプレイ 伝説の終焉

 そして、悪い竜は言いました。


「人間よ。

 心せよ。

 貴様らが驕りたかぶるとき、我らはふたたび蘇り、この地上を破壊し尽くし、貴様らの文明を奪い尽くすであろう」


 と。

 こうして、歴史は人間の手に委ねられたのです。

 邪悪な魔王は滅び、強大な力をもった竜はその姿を消し、人間こそがエオスの歴史を紡ぐこととなりました。

 ですが、それは委託されたに過ぎません。

 エオスの天地は、人間だけのものではないからです。

 この地に生きる全てのものに平等に、生きる権利があります。

 人は、他の命を奪わなくては、三日と生きてはいけない生き物です。

 食べるために。

 それは、生きるために。

 これをルーンの言葉で、カルマといいます。

 どんな生き物でも、人間に食べられるために生まれてくるわけではありません。

 にもかかわらず、それを食べなくては生きていけないのです。

 人間が生まれながらに背負った罪です。

 奪った命に対して、恥ずかしくないだけの生き方をしなくてはいけません。

 でないと、また竜たちがあらわれ、あなたたちを暗い暗い深淵へと連れて行ってしまうかもしれませんよ。


<ルーンシティ郊外の小さな村の教会で開催される日曜学校。

 ある日、子供たちに対して司祭が語った言葉より抜粋>




 燃えさかる炎。

 崩れてゆく家々。

 唖然として佇む女の影。

 シャルヴィナ・ヴィナディース。

 その姿は、かつてのアイリーン市民と重なる。


「なぜ……?」


 その言葉も。

 あのとき、浮遊魔城インダーラ襲撃のとき、多くの市民が同じ言葉を呟いた。

 理不尽に奪われてゆく命。

 それに直面した王都アイリーンの人々と、このとき初めてシャルヴィナは同じスタンスに立ったのかもしれない。

 炎に映える三つの影。

 マルドゥーク、ティアマト、ナース。

 竜族の長たちだ。


「なぜ……?」


 渦巻く風に流れてゆくシャルヴィナの言葉。


「世界の覇権を握るため、だそうだ」


 暗澹たる台詞を吐いたのは、トーマスだった。

 つい先刻までシャルヴィナと敵対していた男だが、いまは横に並んでいる。

 対立している場合ではないからだ。

 眼前にある三体の竜王。

 トーマスでもシャルヴィナでも、あるいは花木蘭将軍ですらも、相手どって戦うには強大すぎる。


「だから邪悪な竜は滅ぼすべきなのだ、と、いいたいところだが」


 魔剣をかまえたまま、苦笑するトーマス。

 マルドゥークたちの行動には不審な点が多すぎる。

 覇を唱えるなら、こんな困難な時期を選ぶ必要はない。

 これまで幾度も機会はあった。

 それに、金色の竜王はずっと人間に味方するというスタンスを貫いてきた。

 もちろんトーマスはそれを承知で彼女を討とうとしていたわけだが、いまさらになって変節するとは思えない。

 死に臨んで気が違った、という極小の可能性を考慮に入れない限り、ありえないと断じてしまっても良いくらいだ。


「木蘭さまっ!

 ご無事ですかっ!」


 戦域に飛び込んだズー・インクが敬愛する女将軍を捜す。

 もしここで木蘭が死ぬようなことがあればルアフィル・デ・アイリン王国は終わりだ。

 名実ともにアイリンの柱石である女将軍。自分たちのためにそれを失うなど、絶対に許されない。

 リフィーナ・コレインストンとレフィア・アーニス、ルゥ・シェルニーも続く。

 轟く銃声。

 炸裂する剣技。

 飛び回る精霊。


「木蘭さまっ!

 どこにおられますっ!」

「応えてくださいっ!!」


 必死の形相だ。

 三人の思いはズーと同じだ。

 木蘭を失うわけにはいかない。

 たとえ自分の命と引き替えにしたとしても。


「木蘭さまっ!」

「騒ぐな。

 ちゃんと聞こえている」


 返答があった。

 燃え崩れる家、冒険者たちを守って佇立する女。

 大海の荒波を巍然とはね返す巌のようだった。

 黒髪は金色に染まり、黒曜石の瞳は蒼く輝き、神々しいまでだ。

 傍には傷を負った冒険者たち。

 最も重傷なのはマーニ・ファグルリミだろうか。

 左腕がありえない方向に曲がっている。


「はやく皆を外に連れ出せ。

 そう長くは保たんぞ」


 将軍の言葉。

 呪縛されたように静止していたズーとレフィアがマーニに駈け寄り助け起こした。

 状況を完全に理解したわけではないが、まずは危険域から離れるのが肝要だ。

 こんな炎の中では話し合いも殺し合いもできはしない。


「私たちで」

「時を稼ぐ」


 ルゥとリフィーナが木蘭の前に立ち、竜王たちと対峙する。

 矢継ぎ早に撃ち出される魔弾。

 風と炎の精霊も踊り回る。

 こんなもので竜を止められるはずがないのは百も承知だ。

 文字通り時間稼ぎである。

 重傷のものがいる以上、冒険者の行動速度は鈍重にならざるを得ない。

 大きく隙もできる。

 だからこそ、殿軍を務めるものは相手に攻撃の暇を与えてはいけない。

 ダメージを狙う必要はないが、とにかく間断なく攻め続けることが大切である。

 同時に、退くタイミングも。


「私も加勢しますっ」

「俺もだっ!

 さっさと逃げやがれっ!」


 杖をかまえたモウゼンと、矢をつがえたリュアージュ・エスタシア。

 リフィーナたちの横に並ぶ。

 不干渉だとか、トーマス陣営だとか、そんなことを言っていられる時間はとうに過ぎた。

 全員が協力し合わなくては勝利などおぼつかない。

 そして、この場合、近接戦闘が得意な面々は、たいして役に立たない。

 下手に接近戦などやられたら援護のしようがないし、相手の攻撃範囲に入った瞬間に倒されてしまうのが落ちだからだ。

 無念さに歯がみする思いで、フェイオ・アルグレストが踵を返す。

 続くライゾウ・ナルカミ。

 ベガとレスカ・エリューシュは木蘭の左右を守った。

 家の外に逃げるにしても、誰かが血路を開かなくてはならない。

 もちろん、木蘭を守る人間も必要だ。

 現状だけに限ってみても、女将軍が倒れた時点で彼らの勝算はゼロに近くなる。


「このナイフ。

 けっこう高かったんすけどねぃ」

「アイリーンに戻ったら、あたらしいやつ買ってあげるわよ」

「その約束。

 メモりましたっすよぃ」

「ウソつくなっ!」


 この期に及んで軽口を叩きあいながら、次々とナイフを投げる盗賊と忍者。

 リュアージュの矢、あるいはモウゼンやルゥの魔法の後を追うように。

 仲間の攻撃を単発で終わらせないためだ。

 驚くほどシャープな実戦感覚である。

 その甲斐あってか、竜王たちは反撃に転じない。

 燃える壁を突き破り、蹴り倒し、フェイオとライゾウが表へと転げ出る。

 マーニに肩を貸したズーとレフィアも続く。

 心配された待ち伏せはなかった。

 待っていたのは、呆然と立ちすくむシャルヴィナと、その傍らに立ったトーマス、ダルマー・B・ディ、ラティナ・ケヴィラル。

 そして抜き身の剣をもったウィリアム・シャーマンだった。

 いち早くミスティック二人が動いてズーたちに手を貸す。

 言いたいことはいろいろあるが、いまはそんな場合ではない。

 やがて、防御結界を展開させたままの木蘭と、彼女を守っていた冒険者たちも外界の空気の中へと戻ってきた。

 幸い、重傷などを負ったものはいないようである。


「ぼさっとするなっ!

 敵は目の前だぞっ!」


 体当たりでシャルヴィナを突き飛ばすフェイオ。

 彼らがいた空間を、一瞬後、光条が薙いだ。

 ゴールドドラゴンの閃光の吐息(レーザーブレス)

 ほとんどのものにとって、目にするのは生まれて初めてである。

 昼夜が逆転したのかと思われるほどの輝きだった。


「マルドゥークさま……なぜ……」


 赤の騎士に組み敷かれるような姿勢のまま、呟く竜族の女。

 うつろな視線の先。

 人の姿を取った三体の竜王が姿を現す。

 饗宴の始まりを告げるように




 竜王たちが一歩前進すると、人間たちは二歩三歩と後退する。

 意志によらず。

 圧倒的な威圧。

 こみ上げる恐怖。

 嘔吐感すら覚えるほどだ。


「レフィア。

 動けるか?」


 木蘭が声をかける。

 その頬に伝うは冷たい汗。


「……なんとか」


 震える声を絞り出す少女。

 怖くないわけがないのだ。


「竜神官の元へ走れ。

 聖剣ケストナールを借りてくるのだ」


 それは、最後の竜騎士ウィリアム・クライヴの剣。

 竜騎士の長の証。

 魔王にすら傷を与えることができる剛剣だ。

 あれならば、竜王とも互角以上の戦いができるだろう。

 つまり、女将軍の意思は抗戦である。

 誰の目にもそう見えた。


「待ってくださいっ!」


 右手で左腕を支えたマーニが前に出る。

 木蘭とマルドゥークの間に。

 緑の瞳に決意が漂っていた。


「どうして戦う必要があるのですかっ!

 馬鹿げていますっ!」


 激語である。

 それは、竜王と将軍の双方にぶつけた言葉。

 こんな戦いに意味などない。

 現在の竜族に世界の覇権を握るだけの力はない。

 マーニならずともわかっていることだ。

 ましてマルドゥークの命が尽きかけているいま、そんな野望を抱いてどうするというのか。

 何の希望もないではないか。


「悪役として格好良く死のうってことですかぃっ!?」


 ベガも叫んだ。

 それは、あるいは恐怖を紛らわすためだったのかもしれない。

 戦って勝利できる可能性などゼロに近く、かといって逃げを打って逃げ延びられる可能性はもっと低い。

 だとしたら、彼女にできるのは叫ぶことだけだ。


「もう……やめて欲しいっすよ……どんだけ哀しみを増やせば気が済むんすか……」


 ここで竜王に冒険者たちが殺されれば、彼らの友人や家族は悲しむ。

 ここで冒険者に竜王たちが殺されれば、シャルヴィナや竜神官夫妻、郷を去った竜の民たちは深い悲しみに包まれる。

 どちらに転んでも、救いがない。

 もしマルドゥークが自分を悪役にすることで人間たちの結束を図っているなら、


「そんなものはくそくらえですっ!」


 常は上品なマーニらしくない言葉。

 だが、衷心からの叫びだ。

 格好良く死ぬより、どんなに格好悪くても生きるべきだ。

 どんなに悪しざまに罵られても、どれだけ泥をかぶっても。

 ドラゴンのように消えゆきつつある種族のマーニも、盗賊として裏街道を歩んできたベガも、そうやって生きている。

 竜たちの逃げは、絶対に許さない。


「マルドゥークさま……」


 ふらふらと起きあがり、前へ出る竜族の女。

 引き留めようとするフェイオの腕を、ダルマーが掴んだ。

 振り返る騎士。

 ゆっくりと頭を振る武闘家。

 好きにさせてやれ、と、黒い瞳が語っている。

 シャルヴィナの横に、ラティナとゼノーファが並ぶ。


「どうしても……それをお望みになりますか……」


 譫言のような呟き。

 竜族の女の耳には、マルドゥークの声が届いていた。

 ここを竜の終焉の地とする。

 伝説の終わりだ。

 魔王が滅び、竜族もまた去る。

 これからは人の時代だ。

 わずかしか残っていない竜たちも、あるいは人間に溶け込み、あるいは人の手の及ばない場所へと移り住む。

 竜の姿をもって世に現れることは、二度とない。


「それでは……マルドゥークさまもそうなされば……」


 返ってきたのは、拒絶の気配だった。

 竜族の長が明確に倒されねば、いつまでも疑念が残ってしまう。

 本当に竜は滅んだのか。

 いつかふたたび復権を目論むのではないか。

 大きすぎる力は、いつだって警戒を呼ぶものだから。


『そなたの手で我を殺せ。

 シャルヴィナ。

 さすればそなたの生きる道も拓けよう』


 邪悪と化したマルドゥーク。

 それを倒した勇者には、望むかぎりの富貴と名誉が与えられるだろう。

 もしシャルヴィナがそれを成せば、もう偽名を使ってひっそりと隠れ住む必要はなくなる。

 堂々と太陽の下を歩くことができる。

 それは、あるいは金色の竜王なりの優しさだったろうか。

 だが同時に、彼女がシャルヴィナという一人の女性を、ついに理解しなかったという証明でもある。

 シャルヴィナの望みは、富でも名誉でもなく、この逼塞した山奥で、ゆっくりと穏やかに死んでゆくことだったのに。


「ですが……わかりました……あなた様の願い。

 たしかにこのシャルヴィナ・ヴァナディースが承りました」


 呟きとともに異形と化す女の両腕。

 猫の瞳のように細まる瞳孔。

 ラティナもまた拳を固め、ゼノーファの手に魔力が集束してゆく。

 ふたりにマルドゥークの言葉が届いていたわけではない。

 ただ金髪の魔法使いは竜族の女を守る。

 それが約束だからだ。


「こんなふうにしか生きられないんだよね」


 仕方なさそうな、だが確固とした宣言。

 苦笑するラティナ。

 どこまでも馬鹿だという思いがある。

 しかし、このまっすぐな生き方に覚える憧憬も、たしかに存在する。

 主義も主張も、理想も打算も関係ない。

 誇りのために戦う。

 不器用に生きるのだって悪くないはずだ。


「いくぞ」

「安んじてお任せあれですわ」


 戦闘態勢を取って突入するシャルヴィナとラティナ。

 フォローするために距離を置いたゼノーファが手首を翻すと、ステッキがあらわれる。


「It’s a showtime!!」


 魔術師のステッキが踊る。




 レスカが音もなく移動し、ラティナの前に立つ。


「戦う理由などない。

 だがどうしても戦うというのなら、封じさせてもらおう」


 いつもの戯けた調子ではない。

 炎を反射して閃く小刀。

 不敵な笑みを、武闘家が返す。


「貴女とは、一度やり合ってみたかったですわ」


 突き出される小刀を巻き込むように回転する右足。


「本気でいきますわよ」

「望むところよ」


 武術と忍術が激突する。


「おそらくは、滅びこそが竜王の望みだ」


 暗然と状況を見守っていたフェイオに、ダルマーが告げる。


「そんなの……ただの自己満足じゃないか……」

「貴公はわかっているはずだ。

 自己満足が必要な場面も、歴史の中にはあるということを」

「…………」

「そして私は、私の自己満足のために竜と戦ってみたい」


 今日まで鍛え上げてきた肉体。

 修練に修練を重ねた精神。

 すべては、このときのためにあったような気がする。

 最強の種族、竜と戦う。

 愚かなことかもしれない。

 だが、心が躍るのだ。

 自分の技が、力が、どこまで通用するのか。

 どこまでやれるのか。


「その答えを、私は知りたいのだっ!」


 黒竜王ティアマトへと突進するダルマー。

 次々と繰り出される重力波グラビティウェーブを紙一重で回避しながら。

 微笑すら浮かべて。

 それは、戦人の顔。

 戦うこと自体に意義を見出し、そのなかで死すことすら厭わない。


「一手所望っ!」

「望むところ」


 高速の回し蹴りを左手で捌き、ティアマトがにやりと笑った。


「クロロ。

 離れておいで」


 背中にしがみついた犬を降ろし、ズーが語りかける。

 ここからは命を賭した戦いだ。

 クロロには荷が勝ちすぎる。

 寂しそうに見つめるフレンチブルドッグ。

 だが、飼い主の命令に素直に従った。


「もうすぐ、あの街角に帰れるからね」


 信じてもいないようなことを言う。

 右手にショートソード。

 左手にソードブレイカー。

 貧弱すぎる武器。

 赤竜王ナースを相手どって戦うには。

 だが、


「僚友たちの、アイリーンの人々の仇、いまこそ取らせてもらう!!」


 無謀なまでの突進。


「貴様の本気、見せてもらうぞ」


 赤の竜王が紅蓮の槍を繰り出す。

 一閃でソードブレイカーが折れ飛び、二撃でズーの太股から血がしぶく。


「うおおおっ!!」


 意味のない、だが勇猛な叫び。

 彼の突進は止まらない。


「俺を止めたいなら、息の根を止めて見せろ!!」

「その意気。

 天晴れ」


 今度こそ致命的な一撃を、ナースが放つ。

 ズーの心臓を槍が貫……かなかった。


「ごめんなさい叔母さん……私、やっぱり笑えないです。

 でも、みんなの笑顔を取り戻すことなら、できますよね?」


 ルゥの呟き。

 風の精霊の力でナースの槍の軌道を変えた。


「マリシャルっ!

 私に力を貸してっ!!」


 具現化するジン。

 それは、彼女の叔母の盟友。

 風の中位精霊。

 本来、ルゥの実力で召喚できるはずがないが。


「我が力、汝がために」

「ありがとう……」


 連続する銃声。

 鉄の鎧すら貫くはずの魔弾は、だが、ティアマトがかざした手に受け止められる。

 これがダルマーの攻撃を捌きながらなのだから、竜王の強さは底が知れない。

 リフィーナは絶望などしなかった。

 竜が桁違いに強いのは、最初からわかっていることだから。


「ドラゴンの鱗は最強の鎧、というやつだな」


 後ろに下がりながら、古い弾倉を捨てる、新たな弾倉をポケットから引き出す。

 彼女ほど卓抜した銃士でも、リロード時のタイムラグは発生する。

 ましてスパイラルは三発しか装弾数がないのだ。

 こまめに装填し直さなくてはならないし、生じる隙はそれだけ多くなる。

 だが、それでいいという思いもあるのだ。

 魔銃は、すくなくとも彼女の魔銃は無差別殺戮の道具ではない。

 放つのは、守るために。

 仲間を、たったひとりの家族を、自分の誇りを。


「甘いな。

 武器は武器以外に存在する価値を持たぬはずだ」


 追い打ちをかけるティアマト。

 不可視の重力の牙が銃士を襲う。


「くっ!?」


 自分の身が引き裂かれる様を、リフィーナは幻視した。

 しかしそれは、現実にはならなかった。


「本当は、はじめからこうしたかったんです……私は……」


 銃士の前に立った少年。

 杖を身体の前にかざし。

 彼の目の前では、防御魔法プロテクション)と重力の牙がせめぎ合っている。

 不干渉陣営へと身を寄せたモウゼン。

 それが正しいと思っていたから、そうした。

 だが、自分の心を偽ることは、他人を騙すよりずっと難しかった。

 リフィーナと一緒にいたい。

 彼女のようにまっすぐに生きたい。


「時間くらいは稼いでみせますよ……」


 微笑する。


「モウゼンに感謝を」


 手早くリロードするリフィーナ。

 そのとき、プロテクションの壁が突き破られた。

 少年魔法使いの身体に、顔に、無数の傷が刻まれる。


「ぐぅぅぅぅぅ!!!」


 凄まじい激痛に歯を食いしばって耐えながら、だがモウゼンは一歩もさがらなかった。

 たとえ殺されようとも、絶対に後ろにだけは倒れない。

 不退転の決意。

 あのとき、彼は守れなかった。

 インダーラ来襲の時。

 彼はなにもできなかった。

 もしここでも何もできなかったら、


「私はただの卑怯者です。

 無能者でも臆病者でもいい……だけど、卑怯な生き方だけは、したくありませんっ!」


 放たれる魔力の矢。

 重力波を打ち砕く。

 この状態で詠唱を終えたのだ。

 信じられない精神力だった。


「称賛に値するな」


 ティアマトの笑み。

 崩れ落ちるモウゼン。

 装填を終えたリフィーナが支える。


「大丈夫か?」


 第三者が見たら、もうすこし気の利いたことを言えば良いのにと思うような、不器用な気遣い。


「まだまだいけますよ……」


 苦笑した少年。

 なんとか自力で立つ。

 かまえた杖が、酷く重かった。




 正義も悪も関係ない。

 生きるために戦う。

 そうやって、リュアージュはいままで生きてきた。

 彼だけではない。

 傭兵とはそういうものだ。


「剣を拾え」


 戦意を喪失し、刀を投げ捨てたライゾウに、冷たい声をかける。


「儂は……戦いたくなどないのじゃ……」

「じゃあこのままここで死ぬか?」


 竜たちは本気だ。

 世界の覇権を握るというのが本気なのではなく、戦いを望んでいるというのが。

 それで充分だろう。

 彼らは戦士なのだ。

 命を奪う罪など、勝利したその後に考えればいい。

 いまは戦い、生き延びることこそが、この非礼な挑戦に対する最高の返答なのではないか。

 そうリュアージュは考える。


「立って戦え。

 ライゾウ」

「…………」

「きさまのサムライ魂は、その程度のものなのかよ」


 それ以上は何も言わず矢をつがえる弓士。

 戦って、戦って、最後まで戦い抜いてやる。

 戦域に駆け出す。


「儂は……」


 のろのろと地面に落ちた刀に手を伸ばすサムライ。

 それは、サムライにとって命だったはずだ。

 捨てる時は、命を捨てる時。

 誇りを捨てる時。


「まだじゃ……まだ心の刃は折れてはおらぬっ!」


 屹然とマルドゥークを睨みつける。

 それに応じて、金色の竜王が微笑した。

 ような気がした。


「やめてっ!

 みんなもうやめてくださいっ!!」


 マーニの叫びが、虚しく夜空に吸い込まれてゆく。

 眼前で繰り広げられる死闘。

 どこまでも美しく、華麗で、人の目を奪う。

 哀しい美しさだ。

 その先に何が待つというのか。

 何もない。


「こんなの……哀しすぎるっすよ……」


 呟くベガ。

 竜たちは戦いを望んだ。

 それに人間たちが応じた。

 マルドゥークたちが世界の覇権を握ろうとしているなど、信じるものなど一人もいないのに。

 滅びゆくものへの哀悼なのか。

 戦うことでしか、彼らの存在を認められないのか。


「どうせ滅びるなら、もっと華麗であるべきだ」


 後ろから響く声。

 振り向いたベガの目に映ったのは、突進してくるウィリアムだった。

 咄嗟にクロスさせた二本のショートソードと、レンジャーの剣ががっちり噛み合う。


「なにを!?」

「私には竜の感傷に付き合うだけの理由がある。

 それだけのことだ」


 もはや、竜は二度と表舞台に登ることはできぬ。

 これがラストステージだ。

 ウィリアムと同様に。

 であれば、もっともっと盛り上げてやろうではないか。


「何を言ってるんすかぃっ!?」


 あるいは受け、あるいは回避しながら当然の質問を発する女盗賊。

 おそらくは誰にも、彼の心情は理解できまい。

 それは、軍人として栄達の途上で挫折した男の感傷だったから。

 滅び行く者たちへの、彼なりの最高の讃辞だったから。


「くっ!

 このっ!」


 ベガの短剣が閃き、ウィリアムの肩を薙ぐ。

 彼女だってサンクンの激戦を戦い抜いた猛者なのだ。

 男相手だって、おさおさ遅れは取らない。

 自らの血で顔を汚しながら、ウィリアムが笑う。


「私は竜たちを守ろう。

 ひとりくらい馬鹿がいないと、最後の戦いに相応しくなかろうからな」

「……本気で行くっすよぃ?」


 覚悟を決める。

 むろん、死ぬ覚悟ではない。

 勝って生き残る覚悟だ。

 ベガの後ろには、防御フィールドを展開させている木蘭と、いまもなお必死の説得を続けているマーニがいる。

 抜かせるわけには、いかない。


「ここから先は、一歩も通さないっすよ」

「良い覚悟だ」


「アンタは、参加しないのかい?」


 後ろからかけられた声。

 ゆっくりとフェイオが振り返った。

 三〇歳くらいの男。

 黒い髪。

 黒い瞳。


「ロック・サージェント……」


 ドイルの聖騎士だ。

 そして、シャルヴィナの夫でもあるが、そこまではフェイオは知る由のないことである。


「アンタは戦わないのかい?」


 繰り返す聖騎士。


「…………」


 フェイオは返答できなかった。

 彷徨う視線が、一振りの剣を捉える。

 聖剣ケストナール。

 竜騎士ウィリアム・クライヴの持っていた剛剣である。


「竜神官から預かってきた。

 使ってもらおうと思ってな」

「俺に……?」

「と、限った話じゃないがね。

 だが、これを使いこなせるということになるとアンタしかいないかもしれねぇな」


 ケストナールが手渡される。


「俺に戦えというのか……」

「マルドゥークたちは、別に本気で世界を変えようとしてるわけじゃねぇ。

 アンタもわかってることだとは思うがな」

「ああ……」

「けど、戦いに手を抜くつもりはねえさ」


 竜たちは本気で戦い、そして敗れ去ろうとしている。

 戦いの中で人間たちは傷つき、あるいはこの世を去るかもしれない。

 むろんマルドゥークは承知だろう。

 ずっと人間を愛してきた彼女だが、その立場こそが彼女を縛る鎖なのだ。

 死によってしか解放されない。


「本気で戦う竜王たちに応える道は……」


 呻くフェイオ。

 彼にもわかっていた。

 わかっていてなお口に出すのを躊躇われた。

 ズーのようにストレートに感情を表に出すには、あるいはダルマーのように単純に武に生きるには、彼もまた重い鎖に縛られている。

 騎士という名の鎖。


「じゃ、オレはいくぜ」

「……どこへ?」


 歩き出す聖騎士の背にかけられる声。


「シャラのところだ。

 決まってるだろ」


 振り向きもせず答える。

 愛した女が戦っている。

 それを黙って見ているとしたら男が廃るというものだ。

 相手が強いとか、正義がどちらにあるかとか、そんなことは関係ない。

 愛した女を守る。

 もし力及ばず倒れるとしても、


「死ぬ時は一緒だからな」


 足を速める。

 取り残されるフェイオ。

 無言のまま、見送っていた。




 ぺたんと座り込み、涙で湿った瞳で戦場を見つめるマーニ。

 もう、止められない。

 自分にできることは、なにもない。

 仲間たちが必死の戦いを繰り広げているのに。

 殺し合う理由などないのに。

 どうしてそれが判らないのだろう。

 わかりたくないから?


「私だって、わかりたくなんかないです……」


 シャルヴィナもトーマスも冒険者たちも、それぞれの戦いに熱中している。

 あるものは悲壮な覚悟で。

 あるものは自分の存在を賭けて。

 あるものは復讐のため。

 あるものは感傷のため。


「そのわからなさが、答えなのかもしれない」


 静かに歩み寄ってきたフェイオが語りかける。

 否、それはむしろ自分自身に対して語っているようでもあった。


「フェイオさま……」

「竜王たちは本気で戦っている。

 さっき、ドイルの聖騎士がいっていた」

「…………」

「だから、俺も戦う」

「どうして……そんなことに何の意味が……」


 意味などない。

 意味などないが、このまま戦い続ければ、仲間たちに犠牲が出ることは明白なのだ。

 守りたいから。

 義務としてではなく、自分がそうしたいから。

 それがフェイオの戦う理由だ。


「私は……どうしたらいいんですか……」


 涙声に応えて、赤の騎士がケストナールを抜いた。

 そして鞘を僧侶に手渡す。


「刀は命。

 鞘は命の帰る場所。

 ライゾウの受け売りだが」


 君は俺が守る。

 だから君は俺の帰る場所を守ってくれ。

 そんなことを口に出して言えるフェイオではない。

 だが、表情だけで伝わったかもしれない。

 感情の機微に聡いとは言えないマーニではあるが。

 泣き笑いの表情で、


「たしかにお預かりします……しっかり守りますから……」


 それが彼女の戦い。

 フェイオに限らず、皆が帰ってくる場所を守る。

 剣に寄らず。

 魔法に寄らず。

 彼女もまた、戦う。




「きゃうっ!?」


 マルドゥークに弾き飛ばされたレフィア。

 さっと駈け寄った木蘭が受け止めた。


「大丈夫か?

 無理をするなよ?」

「あたしはまだまだいけます。

 木蘭さまこそ無理をなさらないで」

「無理をするのは、わたしの流儀ではないのでな」

「……嘘ばっかり」


 女将軍の人生そのものが無理の連続だったことを、少女は知っている。

 一戦ごとに身を削り、一太刀ごとに命を削り。


「だから、あたしは貴女を守りますっ!」


 踏み込んできたマルドゥークに、カウンターで剣撃を繰り出す。

 血が吹き上がった。

 竜と人間。双方の身体から。

 それは相殺。

 攻撃を避けない。

 その代わり、与えられ以上の打撃を必ず与える。

 究極ともいえる消耗戦だ。


「そなたもたいがい無茶をする娘だな」


 呆れたように女将軍が苦笑した。




 竜と人間の戦いよりもはやく、人間同士の戦いが決着しようとしていた。

 レスカとラティナ。

 ウィリアムとベガ。

 それぞれ、このたびが始まった当初から一緒にいたもの同士の戦い。

 武闘家の後ろ回し蹴りが忍者の首筋に決まり、盗賊のナイフがレンジャーの剣を打ち落とした。


「是非もないわね」

「とどめを刺すが良い」


 抗戦の不可能を悟り、レスカとウィリアムが敗者に似つかわしくない口調で命じた。


「いやっすよぃ」

「お断りいたしますわ」


 盗賊は疲れ切った登山家のような顔で、武闘家は晴れやかな笑顔で拒絶する。

 本来、彼女らが戦う理由などどこにもなかったが、


「久しぶりに、本気で熱くなれましたわ」


 手をさしのべるラティナ。


「レスカさんは、もうこりごりだよ。

 ラティナみたいなのとたたかうのは」


 微苦笑で忍者がそれを握り替えした。


「余生はポエムでも書いて過ごしたいところね」

「まだポエムにこだわりますか」


 武闘家が笑顔を見せる。

 わだかまりを解く笑顔を。

 もう一方。

 ベガとウィリアムは黙然と戦場を見つめていた。


「そろそろ、終わりだな」

「そうっすねぃ……」




「フェイオ・アルグレストっ!

 参るっ!」


 朗々たる宣言。

 足元には引きちぎられた階級章。

 もう彼は騎士でも軍人でもない。

 一人の戦士として、男として竜に挑むのだ。


「うおおぉぉぉぉ!」


 水平にケストナールを構え、真一文字に突き進む。

 無謀。

 誰が見ても無謀な行為だ。

 仮にマルドゥークでなくとも回避できただろう。

 だが、


「ワン、トゥ、スリーっ!!」


 意味不明のカウントをゼノーファが唱え終えたとき、異変が起こった。

 金色の竜王の足元から、純白の鳩が無数に飛び立ち視界を埋め尽くす。


「なっ!?」


 さしもの竜王が驚愕の声を出す。


「魔法だけが芸じゃない。

 ってね」

「マルドゥークさまっ!

 お覚悟っ!」


 金髪の青年の声と竜族の女の声が重なり、マルドゥークの脇腹が大きく薙がれる。

 一瞬、動きを止める金色の竜の王。

 その一瞬で、フェイオには十分だった。

 鈍い音が、やけに滑稽に響く。

 胸を貫かれたマルドゥーク。


「見事じゃ……人の子ら……我の死を汝らに託そう

 ……我が眷属はもう二度と歴史の表舞台に立つことは……ない……」


 切れ切れの呟き。

 やはりそれが願いだったのだ。

 がっくりと膝を突くシャルヴィナ。

 歩み寄ったドイルの聖騎士が、慰撫するようにその肩を抱く。

 所在なさげに佇んだゼノーファが、寂しげな笑みを浮かべた。

 そのときである。

 マルドゥークの手に握られていたジャスティスが眩い光を放つ。


「なんだっ!?」


 咄嗟に飛びさがるフェイオ。

 まだ何かするつもりなのか。

 だが、


「竜剣の秘法……ジャスティスの狙いはこれだったのか……」


 答えを出したのは女将軍だった。

 光が消え、地面に突き立った剣が残される。

 二振り。

 ひとつはジャスティス。

 白銀の竜王バハムートが竜族だけに伝わる秘術で剣の姿をとったもの。

 もうひとつは、まだ名もない竜剣。

 金色の竜王の新たなる姿……。

 ついに結ばれることなく終わった恋人たちが、一緒になるときがきた。

 剣となって。


「マルドゥークさま……マルドゥークさま……」


 子供のようにシャルヴィナが泣きじゃくる。

 いま、ひとつの時代が終わった。

 ナースとティアマトが傷つき疲れ果てた身体で空へと舞い上がる。

 人間たちは追撃しなかった。

 余力もなく、そのつもりもなかったから。

 終わったのだ。

 神の代から生きてきた最後の竜王がこの世を去った。

 それは伝説の終焉。

 人が、人の歴史を紡ぎはじめる瞬間。

 もう超越者が導いてくれることはない。

 自分たちで、どんな問題も解決していかなくてはならない。

 きっと試行錯誤の連続だ。

 理想はまだまだずっと遠い。

 永遠に届かないかもしれない。

 それでも、


「いつか必ず、理想は現実に対する勝者になる」


 木蘭が言った。

 できもしないことを、とは、誰も口にしなかった。


「この剣……なにか名前を付けなくてはなりませんね」


 ゆっくりと歩み寄ったマーニ。

 フェイオに鞘を返しながら呟く。

 マルドゥークだった剣。

 どのような名前が相応しかろう?


「『レリース』、というのはどうでしょうか?」

「解放か。

 なるほど、たしかに相応しい」


 神と人とを繋ぐものとしての宿命は、金色の竜王にとって重い鎖だった。

 断ち切るには、死によってしかないほどに。

 正義と解放。


「この二本。

 そなたが預かれ。マーニ」

「私が、ですか?」

「そして、そなたの命が尽きるまで、けっして世に出すな」

「……かしこまりました」


 エルフ族の彼女は、人間よりずっと長く生きる。

 何事もなければ、あと八〇〇年は生きることになるだろう。

 神のことも、竜のことも、誰もが忘れてしまうまで。


「たしかに、お預かりいたしますわ」


 そして彼女もまた、二度と表舞台に立つことはあるまい。

 どこか小さな村の教会に移り、子供たちにルーンの教えを説きながら、ゆっくりと老いていくのが自分にとって相応しいようにも思うのだ。


「俺も、付き合う」

「フェイオさま?」

「階級章も捨ててしまったしな。

 もう軍には戻れないんで、連れていってくれたらありがたいんだが」

「あらあら。

 お給料は差し上げられませんよ?」


 一世一代の告白のつもりだったのだが、どことなくずれた返事をしてくれるマーニだった。

 なかなか不器用な二人なのだ。

 ところが、けっこう器用な人間もいる。


「リフィーナ~

 僕ふられちゃったよぅ~~」


 ふらふらと寄っていくゼノーファ。

 生き方は不器用なくせに、女性に関しては器用というか切り替えが早いのだ。


「何ですかっ!?

 リフィーナさんは譲れませんよっ!?」


 モウゼンが立ちふさがる。

 珍しく強い意思表示だ。


「べつに私はどちらのものでもないぞ?」


 あきれ顔のリフィーナ。

 その横で、睨みあって火花を散らしている魔術師二人。


「いいんじゃねえの?

 みんな生きてたんだしよ。

 それよか報酬の話をしようぜ」


 リュアージュが言う。


「即物的なやつだな。

 だがまあもっともだ。

 帰ったら早速その話をしよう。

 早くしないと、わたしは来月いっぱいで退役してしまうからな」


 木蘭の回答。


「はい?」


 間抜け顔の弓士。

 いま、将軍は退役とかいわなかったか?


「言った。

 しかも寿退役だ」

「ことぶきーっ!?」


 驚愕の混声合唱が巻き起こる。

 なんというか、


「さっきまでの緊張感はどこに捨てたんだよ。

 アンタらは」


 地面に座り込んだズーが苦笑した。

 不思議そうな顔で、クロロが首をかしげた。




 空を寄り添うようにして飛ぶ黒と赤の竜。

 吠え声が響く。

 それはまるで、歌のようだった。

 人間には理解できぬ韻律。




 聖者の魂をたたえよう


  たとえ命がつきるとも


   その魂は受け継がれる


 彼女が愛したものたちと


  彼女を愛するものたちに


   いつかふたたびまみえる日まで


 たとえその日がこなくとも……




エピローグ


「じゃあ、俺はそろそろ行く」


 トーマスが右手をさしだした。


「また会えることを願っている」


 握り返すダルマー。

 竜狩人は、このあとも竜を狩り続けるのだろう。

 それを止める権利はダルマーにはない。

 だが、いつかまたまみえ、拳を交えてみたいと思うのだ。


「そうだな。

 それまで研鑽を怠るなよ」

「貴殿もな」

「儂も、そのときには一枚咬ませて貰いたいものじゃな」


 ライゾウが歩み寄ってきた。

 これだけ戦って、まだ戦い足りないとは、なかなか困った男たちである。


「競争が激しくなるな。

 次に会うのが楽しみだ」


 踵を返す竜狩人。


「またな」

「壮健で」


 軽く手を振るダルマーとライゾウ。

 これでいい。

 生きての別れであれば、悲壮になる必要はない。

 再会することもあるだろうから。

 去ってゆく背中。

 長い夜が終わる。

 山裾が明るさを増してゆく。

 光の帯のように。

 眩しげに、男たちが目を細めた。

■登場NPC

◎シャルヴィナ・ヴァナディース/女/20代

護り手の聖戦と呼ばれる一連の戦いで、竜騎士ウィリアム・クライヴの副将として世界を相手に闘った女。

その肉体は星竜に憑依されており、徐々に竜化が進行している。

◎トーマス/男/20代

本名トーマス・クライヴ。

最後の竜騎士ラストドラグーンウィリアム・クライヴの実弟。

魔王ザッガリアの元に走った兄を軽蔑しており、竜に対して深い憎悪を抱いている。

◎マルドゥーク/女/1万歳以上?

金色の竜王。竜族の長。

余命幾ばくもない、はず。

◎ティアマト/男/?

漆黒の竜王。黒竜族の長。

◎ナース/男/?

深紅の竜王。赤竜族の長。

◎花木蘭/女/33歳

常勝将軍。花男爵家当主。国内最大の貴族で、最も人気のある将帥。

◎ロック・サージェント/男/30代

ドイル神の聖騎士。シャルヴィナの夫。

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