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006、ゴミ拾い

 この街は、けっこう大きくて、大きいからこそ貧困層も厚くて、ぶっちゃけ、下町全部が貧困家庭だ。

 俗に貧困街と呼ぶ。


 中でも最低貧困(スラム)街は犯罪組織の温床で麻薬常習者だらけ。人生終わった者の巣窟むしろ墓場なんて呼ばれている。


 我が家があるのは、そんなスラムには属していないが、一歩間違えれば転落しそうな、貧困と犯罪者の隙間みたいな、そんな危うい場所。


 歩けば、その辺でボロ着た子供なんか沢山見るし、うらぶれた酔っ払いもゴロゴロいる。昼間っから、煙草吸って博打、賭け事、双六とかだね、そういうのを軒先で集まってやっているわけだ。


 集まって遊ぶぐらいなら働け。子供の面倒くらいちゃんと見ろと思うが、ダメな大人たちはダメな同類と集まるのが仕事だという。


 そんなダメニートたちを尻目に見つつ、私はゴミを拾った。


 色々なゴミが道には落ちている。前にも拾ったことのあるジャーナル紙の切れ端や、動物の毛、果物の皮、煙草屑、何かの骨、つまづきそうな小石、等など。


 手に持つ物がいっぱいになったら、マザーバッグに入れた。


 これは何をしているのかというと……。


 vol.5『お手伝いしてみよう!』である。


『お手伝いしてみよう!』

 □街の清掃(ゴミ拾い、小石の除去、掃き掃除 etc)

 □荷物を運ぶ

 □扉の開閉

 □机拭き

 □椅子上げ

 ・

 ・

 ・


 子供でもできるお手伝いが目白押し。


 お手伝いは素晴らしい。同じことを何度やっても魔法ポイントが貰えるのだ。


 魔法を使ってポイント稼ごうと思うと、昨日のように倒れるまでやってしまいそうだが、ゴミを拾うだけなら魔法を使わないから省エネだ。ECOだ。環境も整備され良い事づくめ。

 街歩きの間はゴミ拾いで魔法ポイントを稼ぐのが、効率良いと思われる。


 ゴミ拾いしていて分かったが、ゴミ一個1ポイントじゃなく、何個かで1ポイントだった。

 二個の時もあれば三個の時もある。何個も拾ったのに1ポイントも上がらない時もあり、規則性がなく、基準が理解不能である。


 それでも地道に続けて、マザーバッグがどんどん重くなっていくけど、【身体強化】しているので大丈夫。


 現在の魔法ポイントがそろそろ20に届く頃、前方に人影が差した。


「おいクソガキ、大人の邪魔すんじゃねえ」


 見上げれば、男性の大人三人が徒党を組み、私にガン飛ばしている。ヤンキーぽい。


「邪魔してません。シケモクは拾ってませんから」


 私が拾っているのは灰になったゴミだ。シケモクにすらならない燃えカスである。

 シケモク集めてリサイクル煙草を販売する手口は知っているので、気をつけて燃えカスだけを拾っていたのだ。おかげで手が真っ黒。


 その手をパーに広げ、男たちの前にかざし、「ほら」と見せる。

 意味がわからなかったようで、男たちが「あん?」とイキむ。


 いや、幼児を冤罪で威嚇している暇があったら正規に働けダメ大人ども。


 埒が明かないので、そっと溜息をこぼし、その場から去ろうとする。が、再度立ちはだかるイキったニートたち。


「待ちやがれガキ」

「大人なめてっと死ぬぞコラァ」

「こういうガキはシメてやらねえとな」


 その言葉を聞いてから、ああ、こいつらはただ因縁つけてきただけ。幼くて身寄りのいなさそうな貧乏人の子を、憂さ晴らしに壊したいのだ。そういう性癖なのだ。


 その証拠に、ファイティングポーズ決めるダメ大人三人組。

 周りの通行人たちは……と、見回すが、我関せず。


 どいつもこいつも、腐った大人ばかりだよ。


 私は腰を低くしクラウチングスタートを切る。

 次の瞬間には、大人三人組は地面にすっ転んでいた。


「は?」

「え?」

「ギャーアァ……ッ!」


 二人の足を掴んで転ばせ、一人の片腕を捻って肩の関節を外しただけですが。なにか?


 ぼけーっとしている無傷二人の腕も、仲良く同時に外してあげた。

 腕持ってちょっと引っ張ってあげただけだけど、簡単に外れた。やわな関節だなあ。

 カルシウム摂ってないからだぞ。牛乳飲め。私が本気出したら、腕もげるんだぞ。手加減したのだから感謝して欲しい。


「「ア゛ーア゛アアアア゛ッッ!!」」


 汚い鳴き声が響き渡ったが、野次馬は集まるばかりで、誰も助けようとはしない。私に向かってくる大人もいない。

 喧嘩沙汰やらあっても、巡察官吏が来るまで被疑者にも容疑者にも手を出してはいけないという暗黙のルールがあるので。


 ということは、やられて気絶してしまったら被害者は泣き寝入りだし、運が悪いと死んでしまうわけだ。誰も助けないからね。


 そして容疑者は逃げ放題。止める人もいない。

 なので私もサッサと逃げるに越したことはない。


 ダメな大人たちは放って行こう。


 実はもう、出掛ける前に【飲食探知】の検索バーへ、『代乳』と放り込んである。

【悪意感知】も同時に、【世界地図】と連動中だ。

 これで悪意ある代乳業者は弾かれるはず。お乳だと思って買ったら、幼虫を潰した汁でしたなんて詐欺にも引っかからないぞ。


「【世界地図】」


 私の真下、地面に周辺の地図が広がった。立体映像だ。

 地図の上に自分が乗っている。グーグルアースのようで面白い。

 まるで鳥になった気分で空から街を見下ろせる。


 ふははは! 見ろ! 人がゴミのようだ!


 という物真似をしてみたくなるよね。実際、した。まあ、そう言う台詞を吐いてみたくなるということで。


 地面に広がる立体映像地図ばかり観ていると、本当のゴミが見えなくなってしまうことに気づき、ピンチインしてみた。

 地図はギュッと縮小。立体地図でもなくなった。

 通常の地図を視界の片隅に置く。


 縮尺された地図は探知した目的地までの道順を金色に光って教えてくれ、目的地にはフラグが立った。哺乳器アイコンと共に。


 そこに乳があるらしい。


 【飲食探知】が示す、おすすめに向かうとしよう。


 野次馬の波間をするすると抜け、【世界地図】の黄金に輝く道を、そのまま地図通りに歩いて行ったらば、下町を抜け、どんどんと市街地に近づく。


 勿論、この間もゴミ拾いを続ける。

 小石、カエル、硝子の欠片、木の枝、カエル、ミミズ、小石、木片、カエル、カエル、小石、カエル、カエル、カエル、カエル、カエル、カエル……。


 ────カエル多いな?!


 やたらと道に転がるアマガエルよりちょっと大きいぐらいのカエルたち。すべてご臨終しているようなので、そのご遺体たちを回収すれば、このカエル、なんと、一匹で2ポイントだった。


 ボーナスカエル……!!!!


 ひっくり返った赤カエル、頭を潰された緑カエル、脚がデロンと伸びた黄カエル、どんな凄まじい死に方をしたのか内臓がひっくり返ってグチャデロ黒カエル……等々。


 さすがに臓物が手についたら気持ち悪い。【清拭除菌】して、ついでに四方向に向けて【清拭除菌】をプッシュ〜ー。ファブリーズの要領で。心做しか辺りがフローラルな香りに包まれた。さわやか~。


 地面にこびりついたご遺体は、木の枝で剥がしてまで取った。その結果、


 魔法ポイント:69

 すごい貯まった!!


 なんか甘い匂いがして鼻がムズムズ。

「くしゅん!」とくしゃみが出ても回収した甲斐があった。


 喜びステップをランランランと踏みながら、【世界地図】の金色ロードを前のめりで進む。


 やがて、立派な共同焼場へと辿り着いた。


 この街には、広く整地された共同で煮炊きできる場所が何ヶ所かある。そういう場所を公共用地と呼ぶらしく、土地の所有者は領主様直属だとか、火の不始末を出さないよう管理する人がいるとか、確かそのようなことが、以前に拾ったジャーナル紙に書いてあった。

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