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第7話 「拳で繋がる僕と姉」

七話です~よろしくお願いします。

「目覚めたようだな」

「目覚めたみたいね」


「浅田 真也!」


 二人が声をそろえて言った。


「えと……僕に何の用だ?」


 相手の様子を伺いながら、おそるおそる問いかける。


「俺たちはお前に用なんかねえよ。指示があったからやるだけさ」

「上からの指示には従わないと、ね?」


 二人が順に息を吸うようにアンサーを返す。コンビネーションもバッチリだ。


「指示……か。まったく変なことばかり起きるな」


「おしゃべりはここまでだ。お前には……」

「もう一度、眠ってもらう」


 そのセリフを聞き切った刹那――二人の姿が僕の視界から消えた。


「は――!?」


「――っ」


 瞬きしたのも束の間、僕の視点が百八十度反転した。すぐにそれが夜光兄弟によるものだと分かったのは地面へ派手に頭を打ち付けたときだった。


「――痛っ」


 僕は痛みに耐えられず無様に倒れこんだ。しかし、一息つく暇もないまま、もう一発……


「っ――」

  

 今度は、腹筋へ豪快に蹴りを入れられた。僕は為す術もなく地面を転がった。


「うっ……」


「ちょっとやりすぎじゃなぁい? お兄ちゃん」

「そうか? まあ久しぶりの〈バトル〉だからな。殺さないようにしないと」


「……くっ、どうすれば……」


 背後には妹、前には兄。八方ふさがりなこの状況に僕は頭を抱える。いったいどうすれば……。


「……ふう。余計なこと考えてても意味ないな。今は僕にできることをやるしかない」

「見た感じ、出入り口は全部塞がれてるな……。ただ、」


「この《拳》を使えば窓ガラスくらいなら割れるかも……!」


 体育館を軽く見渡してみる。出入口は塞がれていたが、ガラスの部分はそのままだ。逃げ道はそこしかない……!


「姉さん! 力を借りるよ――」


「……やらせるかよ!!」


「――ぁ!?」


 背後から、夜光兄妹の妹、夜光 秋華の蹴りが突き刺さる。たまらず僕は声をもらした。


「や、やめろ……放せ」


「あははっ!」

 

 秋華に胸倉をつかまれる。たまらず足をばたつかせるが、軽く流された。姉の宿った《拳》を使いようにも、照準が定まらない。絶望的な状況にふらつく頭を賢明に働かせるが、新しい案が浮かぶ気配はない。


「あはははっはははは!」


 秋華が声を荒げてあひゃあひゃ笑う。その不気味な姿に僕は鳥肌を浮かべた。


「秋華! そのままこれで、眠らせていいぞー!」


「おっけーお兄ちゃん!」


 玄武が秋華に小瓶のようなものを投げわたしたのが目に映った。前の言葉から察するに睡眠薬か何かだろう。……まあなんにせよ、僕にとって有害なものであることだけは確かだった。


「……や、やめろぉ!」

「――真也!!」

 

 僕と姉が同時に声を上げる。この薬(仮)を使われたら十中八九僕はおしまいだ。絶対に飲まさせるわけにはいかないだろう。


「わっ!? なんだ!?」

「……?」


「うぇっ」


 秋華が何かのショックから小瓶と僕から手を放した。僕は予想外の出来事に泡を食った。


「……な、なんだ?」


「真也! 今のうちに早く!」


「あ、ああ……」


 姉に急かされ後ろを振り向く。あのガラスさえ割ることができればなんとかなるかもしれない……!


「あ、待て!!」

「秋華、大丈夫だ。俺に任せろ」


 僕はガラスに向かって一直線に走った。あと5メートル……あと3メートル……あと1メートル……!


「……残念。一歩遅かったね」


「……ゲッ」


「上には〈眠らせておく〉ように言われてたけど、さっきのを聞くにそうするわけにもいかなくなってきた」


「聞く……?」


「ハッ! とぼけるな! さっきお前の手から確かに声が聞こえたぜ?」


 ……なるほど。どうやら敵は本当に最低限の情報しか与えられていないらしい。ということはこの左拳のことも分からないわけだ。


「声……か。まあここから逃がしてくれれば教えないこともないけど……」


「……あ?」


「……そうなりますよねー」


 眉をひそめる玄武に僕は唾を飲んだ。だが、相手が自分の情報を持っていないのなら、勝機はあるかもしれない。


「よし、姉さん。今度こそ力を借りるよ」

「了解! ガンバレ真也!」


「……は?」


「くらええええええええええ!!!!」


「――!」


 僕の打撃を派手に食らった玄武は衝撃に耐えることができずに宙を舞っていた。ふと後ろを振り向いてみると、そこには呆然と立ち尽くしている秋華の姿があった。


「え……? お兄ちゃん……?」


「よ、よし……! この力があれば戦える!」

「ちょっと真也。今のうちに逃げないとアレだよ。戦いはなるべく控えましょう!」


 一瞬にして姉に現実に引き込まれて僕の気持ちは沈んだ。まあ姉の言っていることは正しい。ここは大人しく引き下がろう。


「ふう。もう一発このガラスにこれをぶち込めば――!」

「……くっ、硬いな。もう一発!」


「はあはあ……あと少しでいけそうなんだけど……な!」


 賢明に拳を走らせるが、僕の拳にも限界がある。休みなく殴り続けるのは不可能だ。


「っ……痛ッェ……なんだよコイツッ……!」

「ハッ……! お兄ちゃん! 大丈夫!?」


「やばいよ真也! 早くして!」

「ああ……分かってる!」


 玄武が起きたらしい。相手が二人のもなれば僕のこの力では太刀打ちは難しいだろう。


「おいおい……よくもやってくれたなァ!」


「真也!もうダメ! 一旦やめて!」


「うわっ!!――」


 ……玄武に蹴りをもらった。何度か攻撃を受けたこともあり、今度はしっかりと腕でダメージを吸収することに成功したが、防いでコレだと、僕の体が持つかどうか……。


「防いだか……身体能力は平凡だがあの拳が厄介だな。……よし、秋華! 左拳に注意しろ! それ以外はまったく脅威じゃない!!」

「……分かった。お兄ちゃん」


 そう言うと兄妹は二つに分かれた。どちらにも注意しないといけない分、僕の方が圧倒的に不利だ。

 

「くっ……どっちからくるか分からない……このままじゃ」


「――俺らの格好の餌食になるぜ?」


 ……驚いた。目線を外したその一瞬で、玄武が僕の前へと現れた。たまらず後ろへのけぞるが、そこには腕を振り上げた秋華がいた。


「――やばっ」


 反射的に左拳を突き出すが、秋華はヒラリと回避した。そして――


「――ぅわッ!」


 またも玄武の攻撃を受けた。しかし、痛みというものは慣れるものではない。僕はその場にうずくまった。


「……ごほっごほっ! 痛ぃ……」


「真也!? 大丈夫!?」


 姉がひどく緊迫した様子で、僕に安否を尋ねる。僕はあまりの痛さに声が出なかった。


「……さあ、その声について教えてもらおうか、浅田真也」


「……ぁぅ」


「はは……ちょっとやりすぎたか。まあいい。さっさと吐け」


 素直に従えば、もうこんな苦痛を受けなくてもすむだろうか。戦いは終わるのだろうか。そんな考えが一瞬頭をよぎった。


「……」


「黙ってないでなんか答えてみろよ?」


「……」


「ダメ! 真也負けないで!」


「……」


「頑張って! 立って!」


「……」


「真也、大丈夫。落ち着いて。あなたは一人じゃない」


「――私がついてる」


「……!」


 そうだ。僕は一人じゃない。姉がついている。姉が僕を見守ってくれている。僕と姉は、拳で繋がっている。


「そうだ、こんなところで負けていたら僕は……」

「姉さんを救うことなんてできない……!!」


次回もよろしくお願いします!

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