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第6話 「学校」

約一年ぶりの更新です。よろしくお願いします。

「なんか休み続いてたし、学校久しぶりだなー」




 朝の7時20分。いつもよりも早めに家を出た僕は、秋の涼しいそよ風に身を委ねながらのらりくらりと家周辺を遊歩していた。




「私も卒業してから一回もあの学校行ってないなー」




 道行く人々はそれぞれ異なる方を向いて進み続けている。そしてその中に僕もいる。なんだかそれが嬉しかった。




「もう結構散歩したし、そろそろいかないとマズいかな」




 腕時計をチラっと確認して、僕はかけ足で学校へ向かう。途中何かにぶつかって髪が乱れた気がしたが、まあいい。僕のことなんて誰も見ていないのだから。




「……ふう。意外と早く着いちゃったな」




 予定していた時刻より5分ほど前に学校に着いてしまった僕は、リュックの中から水筒を取り出し、顔から浴びるようにして口に入れた。姉が拳に宿ったところで、僕の体力がないのは変わらないようだ。




「あ、真也君おはよう~」




「おはよう彩花。昨日はあの後大丈夫だった?」




 透き通るような瞳でこちらをのぞき込むこの少女は――斎藤 彩花。僕のクラスメートだ。ひょんなことから僕のこの拳のことに巻き込まれてしまった。僕としては申し訳ない気持ちでいっぱいだが、彼女はそうでもないらしい。




「うん! 特に何も起きなかったよ! これからも何か進展があったら報告するね」




 そう言うと、彼女はどこか遠くへと去っていった。




「はーそれじゃあ皆さん、時間になったので校舎に入ってくださ~い」




 チャイムが鳴って扉が開く。周りにいた生徒が一斉に足を踏み込んだ。


 僕は中学校は小学校と比べてまあまあ好きだ。友達なんかはあまりいないが、昔みたいにいじめられるようなこともなく毎日毎日静穏な日々を過ごしていた。




「うわっ! ごめん夜光さん!」




 自分の目の前で必死に頭を下げる生徒と、「はぁ……」と大きくため息をつく二人組。


この学校では少し名の知れた不良兄妹、夜光やこう 玄武げんぶと夜光やこう 秋華しゅうかだ。




「ったく……ちゃんと前向いて歩けよ……」




 玄武がぶっきらぼうに言い放ち、その場から退く。




「えと……ん大丈夫、ですか?」




「あ、はい……すいません」




 生徒が肩を震わせたままその場を立つ。額からは汗がにじみ出ていて、ひどくおびえていたのが見て取れた。




「保健室とか行った方がいいんじゃ……」




「いや、今日は特に危害は加えられてないんで……」




 生徒はどこか悔し気にそう言うと、この場を立ち去った。




「……ふう。僕もさっさと教室に行こうか」




「ねえ、真也、さっきの人たちは?」




 姉がしびれを切らし、僕に首をかしげて訊いてきた。




「えっと……この学校では有名な不良生徒っていうのかな……? まあそんな感じ」


 


「なるほどね……真也は何かされたりしてない? 大丈夫?」




「ああ、僕は大丈夫。クラスも違うしね」




 そう言い姉は「ほっ……」と一息ついた。前にいじめられていたこともあって、姉はこんな感じで僕に対して少々過保護だ。まあそのおかげで僕はこうして生きているんだけど。




「……ふう。間に合った」




 僕は教室に入ると、急いで自分の席に腰を下ろし、小声で姉に話しかけた。




「じゃ、姉さんこれからは2人だけになるまでは大きい声で話さないでね」




「はーい」




 姉が声を殺して踵を返した束の間、学校中にチャイムが響き渡り、僕の一日が始まった。








「……よし。課題終わったー!」




 時刻は午前十時。授業で出された課題を颯爽と終わらせた僕は、「ふぅ」と一息ついて机に肘をついた。




「……すごっ。私こんなん分かんないよ」




「それは姉さんがちょっとアレだよね」




 周りの視線を気にしつつ、姉にツッコミを入れる。昔姉に勉強を教えてもらうことがあったが、その内容が正しかったかどうかはよく覚えていない。




 そんなこんなで課題を終えてから十分ほど経っただろうか。授業終了を意味するチャイムが僕の耳へと流れ込んできた。




「ようやく終わった~」




こうして、授業を受け終えると、この学校では少し長めの休み時間に入る。


 僕が休み時間にやることはいつも決まっている。僕は机から一冊の本を取り出すと、栞をたよりにパラパラとページをめくり始める。


 読書は大好きだ。読むジャンルは、小説やエッセイ、雑誌や哲学系などさまざまだ。




「なるほど……ここであの伏線が回収されるんだ……!」




「真也、それ何読んでるの?」




姉が本について質問してきた。姉は僕とは違ってアウトドア派だったため本なんかはあまり読んでいるイメージはなかったが、小さい頃に絵本を読み聞かせしてくれたことは今でもなぜか印象に残っている。




「これ? えっと……まあミステリー小説だね」




「ふーん……真也家でもいつも本読んでたよね。私が外行こうって言っても全然聞いてくれなかったし……」




「それはごめん……」




 姉との会話でむず痒い感情になりながらも、ページをめくる。すると、なんだか眠くなってきた。昨日は課題のせいでなかなか眠れなかったからな……。




「なんか眠くなってきた……。姉さん、授業始まったら起こ――」




 その言葉を言い終わる前に、僕のまぶたはパタリと閉じてしまった。








「……っん」




 意識が舞い戻り、目を開けようとした刹那、目の周辺に、ザラザラとした布のようなものが当たっているのが分かった。顔をいくら揺らしても取れることはなく、僕の視覚が戻ることもなかった。




「っ! んっ!」




 姉に助けを求めようと口を開く……が、声を発することもできない。口を拘束されているようだ。




「――っ!」




 今度は手を動かそうと試みる。しかし、金属音が鳴るだけで自由に動かすことはできなかった。




(クソッ……! いったいなんなんだこの状況……!)




 八方塞がりとなった僕は、身動きも取れないまま必死にもがき続ける。すると、それが実り、




「真也……?よかった、起きたんだね」




 何か言葉を返そうとしたが、僕は今、あいにく口を開くことができない。




「うーん……どうしよっか」




「……そうだ! 真也左手に思いっきり力入れて引っ張ってみて!」




 僕は姉が宿った左拳に全精力を注げる。もともと病弱で力なんてほとんどなかったが、姉と一緒になった今なら――なんだってできる気がする。




「うおっ!」




 派手な金属音が天井に当たり、部屋全体に響き渡る。――僕は、いや僕たちは自力で、手の拘束を特ことに成功した。




「よし、ひとまず手のやつは取れたね。次は……口と目のやつを解こうか。不便だしね」




 僕は言われた通りに、口、そして目元付近に手を伸ばす。




「……っはぁ。ようやく喋れる……ありがとう、姉さん」




「いえいえ~」




 姉が軽い調子で返事をする。そのことに場違いな安堵を心に秘めつつ、辺りを見渡してみる。




「ここは……どこだ? 暗くてよく見えないな」




「あ、だったら多分そこらへんに照明のスイッチがあるよ」




「あ、本当だ。ありがと」




 スイッチを押す。真っ暗で何も見えなかった小部屋に、光が灯る。




「ここは……」




「体育館の倉庫……かな」




 僕はおそるおそる入り口の扉に近寄り、そこに手を伸ばす。




「鍵とかはかかってない……よかった」




「じゃあ、行こっか」




「……!」




 倉庫のどこか重い印象を抱かせる扉の先には、いつも通りの体育館と二つの見覚えのある人影が待っていた。




「目覚めたようだな」


「目覚めたみたいね」




「浅田 真也!」




 二人が声をそろえて言った。

読んでくださりありがとうございました!次回もよろしくお願いします!

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