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第5話 「満月の月光に包まれて」

第5話です!今回ちょっと短いです!すいません!

「家付いて行ってもいい?」


「!? えっと……」


 予想だにしなかった言動に、僕は言葉を詰まらせる。


「実は……今日家親いなくて、鍵預けてるから……」


「な、なるほど……」


 彩花が困り顔で助け舟を求める。すると、僕が返答する前に、


「あ、それなら全然いいよ~! うち今日親いないしね。真也もいいでしょ? ね? ね?」


「なんでそんな乗り気なんだよ。……まあいいけど」


 それを聞いた目の前の少女――斎藤 彩花は、引き締まっていた口元を緩めると、僕の顔を見上げて、


「ありがとう!」


 満面の笑みで、感謝を示したのだった――




「ここが真也君の家か~。男の子の家来るの初めてだからなんか緊張するな」


 彩花が僕の部屋を不思議そうに見て回る。僕の部屋には面白いものなんて一個もないぞ。


「あれ? そういえば真也君、親はなんでいないの?」


「親? えっと……今朝突然姿を消してね。まだ帰ってきていない」


「そ、そうなんだ……」


「まあもともと両親は仕事でほとんどいなかったし、実質僕の家族は生まれた時から姉さんだけなんだけど――」


 待て。何かが気にかかる。今の発言におかしいことなんてあったか? ……まあいい。今はあの男について話すのが最優先だ。


「あ、そこ座っていいよ」


 僕が目の前にある椅子を指さす。彩花はそれに従って椅子にちょこんと腰掛けると、話を切り出す。


「……で、さっきのことの話だけど」


 ほんわかとしていた空気が一瞬にして引き締まる。


「……ああ。いろいろ気になることがあるけど」


 僕が部屋の隅から医療用のセットを取り出して、口を開く。


「うん。まずさっきボク達を襲った男について」


「彼は政府の命令と自称しボク達のことをさらった挙句、助けにきてくれた真也君にたくさん暴力を振るった。……許せない」


「うん。普通なら警察に通報すれば終わりだと思うんだけど……政府っていうのが気にかかるな」


 三人は息が合うように頭を抱るが、時計の針はお構いなしに進み続ける。

この時間の間にもあの男が何かが動いているかもしれないことを考えると背筋が凍る。ただでさえこっちは姉が拳に宿ったり、両親がいなくなったりして困惑してるんだ。もう僕を惑わせるのはやめていただきたい。


「……もう2時か。姉さん何食べたい?」


「うーん……わざわざ買いに行くのもめんどくさいし、カップ麺とかでいいよ。あ、彩花ちゃんも食べる? 真也が作るカップ麺は美味しいよ」


「カップ麺なんて誰が作っても変わらないだろ」


 ちなみに姉はというと……カップ麺すら作ったことがないほどに料理が下手である。


「あ、じゃあボクも……お願い」


「了解~。二人分ね」

 

 お湯を沸かすため、僕は台所へと向かう。彩花は机に手をつき、「はぁ……」と大きくため息をついていた。先ほどの戦いがよほど心に強く刻まれたのだろう。


「よし、お湯沸かせたからちょっと待っててね? 姉さん、彩花」


「はーい」


 二人が声をそろえて踵を返す。今日会ったばかりのはずなのに息ぴったりだ。


「できた! 今持ってくからちょっと待ってて」


 僕が机にカップ麺を置く。


「ありがと! いただきます」


 彩花が上品にカップ麺を頬張る。顔を汚らせて、ガツガツと箸を進める姉ばかり見てきた僕には、それがとても美しく見えた。


「えと……彩花?」


「うん?」


「その……さっきは本当にごめん。僕が彩花を巻き込んだせいで……」


 なかなか言えなかった謝罪を口にできて、焦る気持ちが少し静まる。


「いや全然大丈夫だよ。もともと聞いたのはボクだしね。それに……」


「ボクはこれからも真也君の手伝いをしたいと思ってるよ?」


 これまた予想だにしなかった言動に、僕は驚きを隠せない。


「え……? でも、こんなこと続けてるとまた彩花が痛い目に……」


「ううん。大丈夫。ボクは真也君の助けになれるだけで嬉しいから」


 彩花が名前のごとく美しく微笑む。


「で、でも……なんでそこまで」


「あの男にもやり返したいしね。それに真也君がそんなに頑張ってんだから。やるしかないでしょ」


「あ、ありがとう……! 彩花が味方についてくれると、とても心強いよ」


「フフフ、ありがとう。役立てるように頑張るね」


 彩花がグっとガッツポーズを見せてウインクする。


「そこまで言ってくれるとなんだか申し訳ないな」


「当たり前でしょ」


「――私は……真也君のことが好きだから」


 彩花が、誰にも聞こえない声で小さくそう呟いた。




 彩花が家を出てから六時間ほどたっただろうか。辺りはもう暗くなり始めていて僕の前には、動画を見ながら頑張って作った僕の料理が並んでいる。

 

「……あの月綺麗だなぁ」

 

「真也?」


 夕食を食べるのを放棄して月に見惚れる僕に姉が突然声をかけてきた。


「どうかした? 姉さん」


「明日の学校、どうするの? 私は行けないけど、真也は行けるでしょ」


「あっ……そういえば。どうしよっかな」


 男のことに気を取られすぎてそのことを一切考えていなかった。明日は数学かなんかの小テストがあるんだっけ? ……まあいい。今はそんなことより――


「学校には絶対行きなよ? 真也のお友達も待ってるでしょ」


 僕の学校に行かなくてもいいという考えは姉の言動によりバッサリと切り離された。


「ええ……でも姉さんもいるし大変なんじゃ」


「私は静かにしてるから大丈夫!」


 いまいち信用できない姉の言葉に僕は眉をしかめる。姉が人一倍おしゃべりなのは僕も分かり切っている話だ。


「でもねぇ……結構時間もあるわけだし」


「私は絶対にバレないようにするから大丈夫! 真也の学校生活は絶対に邪魔しないよ」


「そっか……そこまで言うなら行こっかな」


 そうと決まると僕は早速準備を始める。教科書やら文房具やらをバッグの中に詰め込むと、文字がズラリと並んだ一枚のプリントが目に入った。


「あ、やば! この課題やってない! 姉さん、ちょっと寝るの遅くなるかも」


「はーい。課題頑張ってね」




「ふぅ……ようやく寝れる」


 時刻……深夜0時。完全に存在を忘れていた課題を処理し、眠気と達成感を胸に僕はベッドに潜り込んだ。

姉は既に、僕の苦労なんか知らずにぐーすかぴーすか寝息をたてているだろう。悪かったのは課題をやっていなかった僕だが。


「どうせ寝てるだろうけど……おやすみ、姉さん」


「おやすみー」


「え? ……起きてたの?」


「真也が頑張ってるのに寝るなんてするわけないでしょ! ……ってのは嘘でたまたまついさっき起きただけなんだけど」


 ふふっ、っと静かに微笑む。


「もう遅いんだから早く寝なよ。じゃ、今度こそおやすみ」


「ん、おやすみ」


 窓から差し掛かる美しい月光に包まれて、二人は一斉に目をつぶった。

読んでくださりありがとうございました!次回もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 左手にお姉さんが宿るというのはとても面白いアイデアですね。どうなるんだろうと興味がわきました。 文章もとてもよみやすく、真也のお姉さんへの思いもしっかり描かれていていいですね。共感できまし…
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