第3話 「クラスメート 斎藤 彩花」
第3話です!今回は私の推しの新キャラが出ます!お楽しみください!
「僕が必ず……姉さんを、救ってみせるよ!」
姉にはそう約束したものの、肝心の"拳になった姉を元に戻す方法”なんて分かるはずがない。
僕は自宅の低スペックパソコンを前に頭を抱えていた。
「検索してもヒットなし……か。」
それっぽいワードは一通り検索してみるが、特にめぼしいものは見つからなかった。
「病院でも行ってみる?」
姉がなぜか自慢げに提案するが、インターネットで検索しても何も出てこなかったことを考えると、これは得策とはいえないだろう。
「はぁ。どうしよっかな……」
僕は深くため息をつくと、困り果てたようにパソコンを閉じる。
チラッと窓を覗いてみる。外は、昨日の雨を見た後では考えられないほどの晴天で、窓には、日光が僕を照らすように差し込んでいた。
「気分転換に外でも行こうか」
美しい外の世界に魅了され、僕は、家を出た。
「とりあえず……散歩でもしよっか」
姉の提案で僕たちは散歩を始めた。
休日の影響もあってか、いつもよりも人が多い。
「ここ歩いてると、二人で手つなぎながら散歩してたの思い出すね」
「あー……そんな時期もあったね」
「あの頃の真也は可愛かったなぁ」
「今は可愛くないのかい」
姉の発言に僕は顔をしかめる。
「ごめんごめん、もちろん今も可愛いよ」
……そんなにストレートで言われてもそれはそれで困る。
姉と雑談していると、街で一際目を引く建物……図書館が、僕の目に留まった。
「図書館か……行ってみる?」
「そうだねー行く価値はあるんじゃない?」
僕と同じくらいの人が、図書館へ入っていくのが見えた。それに紛れて僕も図書館へと吸い込まれていく。
静粛に包まれた館内。そこには膨大な数の本棚が並んでおり、童話から専門書まで、さまざまな種類の本が揃っている。僕も何度かお世話になっているが、来るのはかなり久々だ。
「何を調べればいいかも分かんないな……」
来たのはいいものの、調べるべき資料が見つからない。
「やっぱ何もないよなぁ……」
何冊か本を手にとりパラパラとめくってみるが、どれも当てはまらないものばかりだ。
「オカルト系統の方がありそうかも……」
そう言い1冊の本を手にとろうとすると、
「あっ、ごめんなさい」
不意に本棚の角から曲がってきた少女に僕は少しだけ後退る。
「あれ?真也君じゃん」
ショートカットの綺麗な茶髪に、透き通るようなきれいな瞳。自分の体よりも一回り大きいダボっとした服装。彼女は、僕のクラスメート、斎藤 彩花だった。
「彩花……さん?」
「真也君図書館とか来るんだー」
グイグイとくる彩花に僕はもう一歩後退る。
「その様子だと本が見つからないみたいだけど、何を探してるの?」
「えと……」
僕は彼女の質問に言葉を詰まらせる。"姉が拳になった"なんてどう説明すればいいか分からなかったためだ。
「その……」
「立ち話もあれだし、座りなよ」
そう言い彼女は、そばにあった椅子を指指した。
「あ……ごめん」
軽く頭を下げるが、彩花は全く気にしていなさそうだ。そのまま僕と真反対の位置にある椅子に腰かけて、口を開いた。
「で、今日は何を探してるの?ボク、本には結構詳しいから役に立てると思うよ」
彩花が、上目遣いで僕をジロジロ見つめてくる。
一方、人の目を見ながら話すのが苦手な僕の視線は宙を漂っていた。
「単刀直入に言うと……」
「_姉が拳になった!?」
「ちょ、声が大きい」
場所には似合わない声を出す彩花に、僕は肩を震わせる。
「ってことは、今もこの会話を聞いてるってこと?」
「そうだよ~」
ここまで沈黙を守り続けていた姉が口を開ける。それを見た彩花はポカーンとした様子だ。
「真也のお姉さん!? は、はじめまして」
「はじめまして!」
目の前で繰り広げられる異様な光景に、彩花は何度も目をこする。
「まぁ、こんな感じで困ってるわけですよ……」
「な、なるほどねぇ……」
予想外な、質問の返答に、彩花は困り顔だ。それに罪悪感を感じた僕は、
「こんな無理難題押しつけちゃってごめん。後は自分でなんとかするよ」
「こちらこそ役に立てずごめん! なんか情報が手に入ったら連絡するね」
彩花の満面の笑みで僕を見てきた。僕は、どうにか視線を逸らし、
「ありがと。それじゃあ、またね」
とお礼して手を振る彩花に背を向けた。
図書館の外に出る。突如として顔を出した日光が僕を照らす。
「うーん……結局、図書館では何も得られなかったな」
「真也の友達に会えたからいいじゃない」
「……何もよくないよ」
姉を元に戻す方法を探索し始め、約4時間。何のヒントも得られていないこの状況に、僕は行き詰っていた。
「あ、真也悪いけどお腹空いてきたから、いつものコンビニ行ってくれない?」
「さっきご飯食べたばっかじゃん……まあいいけど」
姉の要望に応えるために僕は、コンビニへと行き先を変える。
ここからコンビニまではせいぜいかかって20分ぐらいだろう。
「悪いねー」
「姉さん……絶対思ってないでしょ」
「ははは」
感謝の気持ちが全く伝わってこないない姉に、僕はむっとする。
マイペースな姉に振り回される。これは僕の"日常"であり、"当たり前"だ。これがずっと続けばいいののにと最近つくづく思う。
「おっと」
姉と雑談をしていると、目の前を車が横切る。
「ここらへんは車がたくさん通るから危ないね……走り回ったりしないでね? 真也」
「僕のこと幼稚園児かなんかだと思ってます?」
「少し過保護すぎたかな? ……ってあの子!? 大丈夫!?」
姉の目線には、車の行き来が多いこの道路ではしゃぐ少年の姿が映った。
奥から一台の車が速いスピードでこちらに向かっているのが見えた。このままだとあの少年が危ないかもしれない――!
「真也! 止めてきて!」
「え!? ああ――、了解」
僕は少年の居場所を確認して全速力で彼を止めにかかった。
「――危ない!!」
白線を飛び出た少年が車と接触する寸前に僕は彼を引き留めることに成功した。
「うわっ!」
子供の目の前で車が通りすぎる。あと少しでも遅れていたら、車に巻き込まれていただろう。
「大丈夫?」
「え……? あ、ありがとうお兄ちゃん」
少年は、ポカーンとした表情で僕を見上げている。状況があまり理解できていないようだ。
「ここ周辺は車がよく通ってて危ないから、気を付けながら歩きなよ」
「はーい」
「じゃあまたね」
別れの挨拶を告げて、僕は再びコンビニへ歩み始める。
「あの子、守れてよかったね。姉さん」
応答はない。
「姉さん?」
耳を澄ましてみる。幽かに、姉の寝息が聞こえるのが分かった。
「大事な場面で寝てるとか……姉さんらしいな」
「すいませーん、待ってくださーい!」
いつも通りの姉にどこか安心感を感じていたその時、不意に背後から声をかけられる。
「えと……私さっきあなたに助けてもらった子の姉です。私の弟を救ってくれたありがとうございました」
「いえいえ。助けに慣れて何よりです」
「お礼と言ってはなんですがこれどうぞ」
女性の手には、姉が大好きな菓子パンが置かれていた。
「え?いいんですか?」
「はい! もちろんです」
「ありがとうございます!」
僕は女性から菓子パンを受け取ると、拳を揺らして姉を起こす。
「姉さん、菓子パンもらったよー」
「ふわぁぁ。ありがと。じゃ早速食べて」
姉が眠そうな声で感謝する。
「それじゃ、いただきま――!?」
地面が突然ものすごい勢いで振動する。
「地震!? 真也、気を付けて!」
「うん……って、え!?」
揺れは一瞬で収まり、場は喧騒から沈黙へと変わる。
「え?そんなことある?」
今まで体験したことがない現象に、僕は肩をすくめる。
「何やらあっちが騒がしいな……行ってみよう」
僕は揺れの正体を突き止めるために、騒音が聞こえる方向に向かって走り出した。
「まったくどうなってるんだよ!」
「皆!逃げろー!」
通りすがる人全員が僕が向かう方向とは逆方向に向かって走っていく。
「一体何があったんだ……!?」
人込みを避けながら現場へ向かっていると、僕の目に二人の人間が留まった。
「真也……!? 逃げて!」
「あ、彩花……!?」
そこにいたのは、僕のクラスメート、斎藤彩花と、一人のスーツに身を包んだ人間だった――
お読みいただきありがとうございました!
次回は私初戦闘描写です!お楽しみに!