第2話 「天への誓い」
拳で繋がる僕と姉公開です!2話目です!
よろしくお願いします!
両親が帰ってきた。それまでほんわかしていたリビングは、一瞬にして静寂に包まれる。
「待って、父さんたち帰ってきた!どうしよ姉さん!」
「んー……とりあえず話聞いてもらえばいいんじゃない?」
焦る僕とは対照的に姉はなぜか冷静だ。いや、何も考えていないと言った方が正しいかもしれない。
「ただいまー」
「あ、えっとお帰り……」
両親は帰ってくると、すぐに洗面台で手を洗う。
「ちょ、父さん! 母さん! 姉さんが!」
2階に上がろうとした両親を、僕は必死に呼び止めようとするが、父は、不満そうな顔で、
「真也、今父さんたち眠いから明日にしてくれるか?二人とも明日は休みだし……」
と、答える。
「ちょ、待っ」
僕の引き留める声は、両親の耳にはとどかなかった。両親は自分たちの部屋へと向かっている。今ならまだ間に合う……が、仕事で疲れている両親にこのことを話しても意味がないと思い、僕は追いかけるのをやめた。
「行っちゃった……」
姉が悲しそうな声で呟く。その呟きに、なんだか僕の心も痛くなる。
「と、とりあえず……今日はもう寝ようか?」
気づけば、時刻はもう11時をまわっていたため、僕はそそくさと姉に提案する。
「まぁ……明日も時間あるし、そうしようか」
そうと決まると僕は、洗面台に足を運び、歯を磨く。鏡をのぞき込むと、そこにはいつも以上に、やつれている僕の顔が映っていた。それを見て、なんだか嫌悪感を覚えた僕は、急ぎ足で寝室へと向かう。毎日毎日通っているはずの廊下は、いつもより何倍も長く感じた。
「ようやく着いた……」
寝室に着くと、僕はすぐさまベッドに飛び込む。いや、"倒れ込む"と表現した方が正しいかもしれない。どちらにせよ、僕がすごく疲労を感じていたのは事実だ。
「疲れた……じゃ、おやすみ。姉さん」
「おやすみ、真也」
挨拶を交わしてから約1時間……僕はいまだに眠りにつけずにいた。
落ち着かずに、何度も寝返りを打つ。
「んっ」
「やば……起こしちゃったかな……?」
僕は、焦りながらも慎重に、自分の拳を確認する。
「大丈夫かな……?」
確認を終えると、再び眠りにつこうと横になるが、僕の目は開いたままだ。もう一度寝返りを打とうとすると、姉が、眠たそうな声で、
「大丈夫?真也、眠れないの?」
と、声をかけてきてくれた。僕は姉を起こしてしまったということに、ひどく罪悪感を感じ、
「ごめん……大丈夫」
と、姉に軽く謝罪すると、僕は、これ以上姉に迷惑をかけないために、颯爽とベッドに潜り込んだ。
簡単に眠れる気はしなかった。だが、姉のことを考えると、不思議に眠気がひどく現れてきて、気づいたら、僕は、夢の中にいた――
朝6時。僕と、姉は小鳥たちのさえずりとともに、目を覚ました。
「ふぁー……よく寝た……」
僕はベッドから降りると、すぐさまリビングへ向かう。この時間ならもう両親は起きているだろう。そんなことを考えていると、僕は気持ちの整理もできていないまま、リビングへと着いてしまった。
「入るよー……」
返答はない。僕は特に不思議に思わず、扉を開ける。
「いない……姉さんといい、父さんたちといいどうしちゃったんだよもう……」
その後、僕はまるで、魂が抜けたようにフラフラになりながらも、家中を探し回ったが、やはり両親はいない。
「なんで父さんたちいないんだろ……?今日は仕事休みなはずなのに……」
僕は姉と一緒に頭を抱えていた。数分間沈黙が続くと、姉が悲しそうな声で、
「私ずっとこのままなのかな……」
「姉さん……」
僕が言葉に詰まっていたのを確認した姉はすぐさま気持ちを切り替える。
「ごめん! こんな暗いこと言ってる場合じゃなかったね。早く父さんたちを探そう」
姉は明るくふるまっていたが、僕には、姉の心の奥深くに、悲しみや不安、恐怖などが眠っているのが分かった。
何と声をかけていいのか、どう接するのが正しいのか、僕には何も分からなかった。でも素直に自分の気持ちを話せば、姉さんは分かってくれる……! 僕はそう思い、姉さんに話しかけた――
――あれは、僕がまだ小学生だった頃の話だ。僕は毎日、同級生たちに、俗に言う『いじめ』を受けていた。物を隠されたり、暴力を受けたり……一般人が想像するようないじめは一通り受けてきた。
何をしても嫌がられる。何をしても叩かれる。そんな日常に、僕は嫌気がさしていた。
そんなある日、僕は、いつものように行きたくもない学校に向かっていた。道行く人々の視線が、刃物のように僕に突き刺さる。僕は急ぎ足で学校に向かう。休むことは許されない。たとえ、雨に打たれても、強風に逆らうことになっても、雷に打たれても、僕は学校までたどり着いて見せる……!
学校に着いた。一歩足を踏み入れる。とてつもない吐き気に襲われる。もう一歩勇気を振り絞って校舎へと進む。今度はめまいが僕を襲う。さらにもう一歩前へと進む。激しい頭痛が突如として舞い降りる。
行きたくない……行きたくない……
そう思いながら、校舎へ向かうと逆方向から、見慣れた生徒の顔が見えた。
「よう浅田~」
「………………」
「おいおい、黙っちゃって~俺たち友達だろ?な?」
いじめっ子が不敵な笑みを浮かべる。
「う、うん……」
はぁ。どうして毎回こうなるんだろう。 僕は涙目ながらも教室へ向かった。
「ピーンポーンパーンポーン」
チャイムと同時に授業が始まった。放課後のことを考えると、なかなか集中できない。最近は成績も落ちる一方だ。
僕よりも前の席に座っているいじめっ子を、無意識に何度も確認してしまう。
「_!」
目が合ってしまった。僕は急いで視線を逸らす。いじめっ子が僕を睨んでいる気がする。
「……おい、浅田! 集中しろ!」
「あっ……すいません」
先生に注意されるが、それどころではない。
本日すべての授業が終わってしまった。僕に待っているのは地獄。たったそれだけ。
指定された場所へ行くと、そこには、生徒が5人、ニヤニヤしながら待機していた。
「おいおい来るのが遅ぇよ~」
「………………」
「なんでそんな不満そうな面してんだよ……俺たちよりも遅く来たんだから謝罪ぐらいしろよ」
「……ご、ごめん」
「声が聞こえねぇなぁ?」
「ご、ごめん!」
こんなやり取りが数分間続いた後、リーダー格の少年が、話を切り出してきた。
「それでさぁ……今日お前、授業中に俺にガン飛ばしてきたよな?」
やはりバレていたか。
「前から思ってたけどさぁ……なんで授業中に俺たちのこと見てくんの?うざいんだよ!」
「っ……」
いじめっ子の拳をまともに食らって、僕は悶絶する。
「やめっ……うっ!」
今度は、言葉を言い終える前に、脇腹を蹴られる。
「痛い……!やめて!やめてっ!」
2時間ほど経っただろうか。時計の針はもう6時を指していた。僕はクタクタになりながら、自宅へ向かっている。
幸い姉は、部活のため、まだ家に帰ってきていない。ただ学校でのいじめが姉にバレるのも時間の問題だろう。
かじかんで動かない傷だらけの手を必死に動かし、僕はランドセルから鍵を取り出す。
「……はぁ」
家に帰るとすぐさま自分の部屋に戻り服を着替える。今はまだ姉にいじめをバレたくない。
着替えを終えリビングへ向かう。その時だ。
「痛っ!」
段差に引っかかり、僕は盛大に転んだ。その瞬間、今まで我慢してきた何かがプツリと切れた気がした。
気がつくと僕の首には紐が巻かれていた。やり残したことなんてない。このまま生きていいことなんてない。僕は覚悟を決め、自殺を試みようとした。すると、
「真也! 待って!」
「ね、姉さん……!?」
その時、初めて僕は、自分のしていることの重大さに気づいた。
姉は僕の首にかかった紐をほどくと、後ろから、ギューっと抱きしめてくれた。そして、
「ごめんね、真也……今までよく頑張った。あとは姉さんに任せて」
と、声をかけてくれた。その言葉が、死ぬ寸前だった僕のことを救ってくれた。
昔、姉さんは僕のことを救ってくれた。今度は僕が、姉を助ける番だ……!
「姉さん……! 僕が必ず……」
「姉さんを、救ってみせるよ!」
その言葉を天に誓い、僕"たち"は、いつも通りの日常を取り戻す旅を始めた――
いかがでしたでしょうか?
面白かった! 続きが気になる! という方は、ぜひブックマーク登録、感想、ポイントなどを入れてくれると嬉しいです!
次回から本格的に物語が始まりますのでお楽しみに!