表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スウィートカース(Ⅴ):カラミティハニーズ  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第四話「交錯」
20/32

「交錯」(3)

「〝黄衣の剣壁ウォール・オブ・エリュクス〟!」


 銃撃をかわして、ルリエは側方へ転がった。


 片膝をついて起き上がったときには、その肩は深くえぐれて鮮血をしぶかせている。ただの弾丸がかすめた負傷ではない。じぶんを襲った極薄の〝光の壁〟ともとれる呪力の銃弾に思い当たるふしがあり、ルリエは声を震わせた。


「この力は……!」


 ルリエは見た。


 黒い炎をひいて〝熱砂の琴(イズルハープ)〟の巨体を超高速で駆け上ってくる人影を。


 接近するナコトに狙いを定め、ルリエは標的周辺の重力を一気に圧縮した。


「〝石の都(ルルイエ)〟!」


「〝冥河の戸口ゲート・オブ・ステュクス〟!」


 叫び返したのはナコトだ。


 それは、黒い蝶に見えた。


 おびただしい数の羽のちらつきがナコトの足もとに集まったかと思いきや、彼女の姿はじぶんの影に飲まれて消えている。もといた足場を超重力の牙が砕いたときには、数メートル先に生じた別の影からナコトは飛び出していた。お返しとばかりに、ルリエめがけて六連射。銃弾は光の壁と化して縦に横に走り、立て続けにルリエを切り裂く。


 大量の出血をおさえて自分の体を抱きながら、ルリエは苦しげにあえいだ。


「指向性ブラックホールによる空間転移テレポート、そして光源集束による空間切断……ナコト、なんてこと。あんたにあいつの、あの忌まわしい〝名状しがたきもの〟の呪力が混じってるわ」


 ルリエの立つ足場の対面に着地すると、ナコトは腕ごと燃えて輝く拳銃二挺をかまえた。


「ご存知のとおり、わたしに寄生するのは混沌が大得意な悪魔だ。過去にいちど灰になって散りかけたわたしを再構成する際、使える元素は片っ端から使ったという……幸か不幸か、手近にあったハスターの汚らわしい残滓もふくめて、な」


 さびしげな風に吹かれてなびく二人のうち、問いかけたのはナコトだった。


凛々橋恵渡(りりはしえど)を復活させたがっている、と聞いた。本気か、おまえ?」


「聞いたのね。そうよ。本来であればあんたも、もうちょっとあたしを手伝う立場にいるはずなんだけど。もっとも責任を感じるべきなのはあんたじゃないの、ナコト?」


「わかっているさ。凛々橋の死はわたしの責任だ。だから覚悟はしている。わたしを救ってくれた彼の思いは、生涯この身をかけて背負うと。二度と同じあやまちで犠牲者は出さないと。罰ならあまんじて受けよう。おまえの非難も重く受け止めよう。しかし」


 拳銃二挺ぶんの照星の向こうで、ナコトは静かに首を振った。


「あれから長い時間をかけて、わたしも多くの方面に確認した。結論から言うと、あのときの凛々橋はもう二度と戻ってこない。戻ったところで、それは似ているだけのただの人形か、変化へんげした悪意ある他人だ」


「それでも!」


 目視不可能なスピードでルリエが払った触手に、弾き飛ばされたのは拳銃二挺のうちひとつだった。体中の傷と同じく、血でも吐くように主張する。


「もういちど笑いかけてくれるなら、彼がたとえ偽物だって構わない! あたしの旅の終点はここよ!」


 きりきりと宙を回転して飛んだ拳銃を、しかし素早く掴み取る手はあった。


 全身いたるところに、操縦席からの配線がつながったままのミコだ。


 血の気を失うほど強く銃把を握り、ナコトは告げた。


「いや、まだ始まったばかりだ、わたしたちの旅は。罪と罰のいばらでできた道のりは、遠く長く険しく続く。ならば……合わせろ、ミコ」


「はい」


 背中合わせになって二人でルリエに銃口を向けた瞬間、ナコトとミコの台詞せりふは重なった。


「「よい旅を(グッドラック)」」


 轟然トリガー……


 血しぶきを残して、ルリエは足場から地面へ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ