変異カラス再び
大雨から数週間が経ち、コミュニティの生活も大分落ち着いて来た。
心配された水の汚染も温泉街と言う事もあり、原泉近くの水源が利用できる事が分かったんだ。
水質に関しては丸川先生が置いて行った資料を参考にして、ちゃんと検査は行われたよ。
余程逃げるのを急いだのか? ゾンビ菌の研究資料を部屋に置きっぱなしだったんだ。
顕微鏡なども含めて持って行かなかったのが、不思議なんだけどな。
金森が必要無いと言ったのかもと、俺は考えているよ。
大きな組織だと、専門の研究機関とかありそうだしな。
俺達はそのおかげで、検査も出来たし良かったんだけどさ。
これで水の問題はクリアされたんだが、まだ食糧問題は解決していない。
土地を綺麗にする手段も無いし、室内栽培は進展がない。
育てようにも肝心の種が、ほとんど手に入らないんだよ。
そこで訓練もかねて、近くの街へ探索へ行くことが決まる。
雨の影響が考えられるので、少数を何回かに分けて行くんだけどな。
5つぐらいのグル-プ分けを行い、リーダ-も決めたんだ。
俺達は別動隊として、その探索へ参加。
不測の事態に対応する役割だ。
ひと通り訓練が終われば、もう一度あの基地へ向かう計画もある。
今回の雨でゾンビの数が減った可能性が高いからだ。
まだ非常用の食料が残っているし、持ち帰れるなら助かる。
道路が使えるかどうか心配だから、事前のチェックもやるつもり。
その時にゾンビの駆除も出来ればと考えている。
まだ住民たちもゾンビの群れと戦うのは無理があるし、変異種が出れば死傷者も出てしまうしな。
車で1時間程走れば、一番近い街。
ここ数日のカンカン照りで、路面の殆んどは乾いている。
建物の陰になる場所は、異臭も放っている様な状態だけどな。
「調べるのは上」
「「「師範! 分かりました! 」」」
今日の探索は、妹ちゃん率いる女性チ-ムだ。
彼女たちは2つのチ-ムに別れていて、もう一方のリ-ダ-は内田さん。
随分と教育されたみたいで、動きが見違える様に良くなったよ。
但し、少し妹ちゃんに心酔しすぎだけどな。
彼女達が建物に入った後、俺達はその周囲を調べる事にした。
街の道路はアスファルトが土で覆われていて、砂煙が酷いんだよね。
だから口元にタオルや布を巻いて、吸い込まない様に注意する。
どんな菌が飛んで来るか分からないし。
よく見ると建物に浸水の跡が残っていて、この街も水害があった事が分かる。
「大体2階ぐらいまでは水位が上がったみたいだな」
「私達は建物に入らないんです?」
「ああ。退屈だろうけど、周辺の調査が俺達の仕事だ。ゾンビや変異種が居ないか? よく注意しろよ」
「とうまお兄ちゃん。俺は少し1人で調べたいんだけど」
「分かった。十分気をつけろよ。ヤナギ君とヤヨイもあまり離れない様に」
りょうたは、もう心配ない。
俺から離れない委員長とりさちゃんを連れて、歩き回ると数体のゾンビと遭遇。
身体中が泥まみれだから、こちらへ流されて来たんだろう。
ん⁉
カァカァカァ!
こちらの獲物だと言う様に、頭上から黒い影が降りて来る。
「変異種のカラスだ! 一旦、近くの建物に退避するぞ!」
こいつ等の存在を忘れてたよ。
ヤナギ君達にも隠れる様にジェスチャ-で伝え、俺達も建物へ隠れる。
今回はそれ程数は多くないが、油断できる相手ではない。
どうする?
ここで妹ちゃん達が外に出てきたらマズい。
「私が撃っても良いですか?」
「駄目だ。音で逃がすと、追って来る可能性もある」
タッタッタッ。
ゾンビに襲いかかる変異カラス達に、小さな影が迫る。
りょうたよ! 独断専行はマズいって!
こうなったら仕方ない。
俺達も援護する為に外へ出る。
ドォン! ドォン! ドォン!
りゅたに気づいて飛び上がるカラスを、委員長が連続で撃ち落とす。
そうか! 自衛隊仕様のアサルトライフルって連射可能だったな。
傷ついて落ちた変異ガラスは、ゴボウ医師とビッチに任せて俺はその他を狙う。
この連携は何とか上手く行き、事無きを得た。
数匹は逃がしてしまったけどな。
空に逃げられたら、もうどうしようもない。
「えへへ。とうまお兄ちゃん! ちゃんと戦えたよ!」
ゴチンッ!
「あほか! 戦うなら、合図か報告をしろ! お前の勝手な先行で、周りに被害が出たらどうする!」
「ご、ごめんなさぁい」
こう言うのは、ちゃんと言うべきだからな。
戦えるのは前から分かってるんだ。
でも油断したら、こっちが殺られる。
怒った後は、ちゃんと褒めたけどな。
りょうたの頭を撫でてたら、委員長も横に並んでるのが意味不明だが。
無視だ。無視。
「ズルいです! えこひいき反対! 断固抗議します!」
「そうだ! びょうどう!」
......仕方ない。
何でこんな時は息が合うんだよ?
普段口喧嘩してるよな?
俺は表情を消して、委員長とりさちゃんの頭も撫でた。
何かのプレイでもしている感覚だ。
そんな出来事もあったが、この日の探索は無事に終了した。
妹ちゃんチ-ムは、しっかりと収穫があったので意味のある探索だったよ。
「私、凄い」
はいはい。凄いですねって言ったら、ぶん投げられたけどな!
◇◇◇
その後も訓練と言う名の探索は続けられた。
ちゃんと皆に、変異カラスへの注意と警告もしたんだけどさ。
他のチ-ムで、遂に負傷者が出てしまったんだよ。
それも俺達が休みの日に限って。
「タケシ! 負傷者が出たんだって⁉」
「ああ。とうまにも報告が行ったか。ちょうど建物から出る時に襲われたようだ。負傷者は今集められて検査中。片桐さん達は他の住民達が、近づかない様に警備してる」
「例の変異カラスか? あれ程、注意しろと言ったのに」
「気が緩んでたんだろうな。数十羽の群れだったと報告は聞いている」
数十羽と言う事は、違う街から飛んできた可能性もあるな。
あの笛を使ってみるのも手だが、実際に使用したのは変異ヒグマの時だけだしなぁ。
でもこのままにしておくと、この病院まで来る可能性もある。
「タケシ。あの笛を使ってみるか?」
「あれか。確かヒグマは誘導出来たんだったか。しかし危険だぞ?」
「カラスは群れで移動するしな。ここが標的になる可能性もあるだろ?」
「それは......否定できないな。生きた人間が居るのは、この周囲ではここだけだし」
タケシが煮え切らないのは、これ以上負傷者を出したくないからだろう。
だから俺は単独で動く事を提案した。
まぁ着いて来るだろうけど。
タケシはそれを渋々了承。
俺は仲間達に話をしたが、全員が付いて来ると言ってきかなかった。
特にりょうたが、かなりの剣幕で怒ったんだ。
前回は誘導を一緒にやったけど、途中で帰らせたしな。
だから車から出ない事を条件に了承したよ。
これは全員に約束させた。
遠距離から撃つのは良いけど、変異カラスの群れを相手に接近戦とか無謀だからさ。
勝手なイメ-ジだが、カラスって荒廃した都市に絶対いる気がする。
あれ? 変異カラスの狙う相手ってゾンビか人間だよな?
俺達の調べていない場所に、ゾンビが溜まってる?
それとも俺達以外に、人間が居るのか?
念の為にタケシにも報告した方が良いかもな。
そう思って、執務室へ向かった。
コンコン。
「どうぞ」
「俺だ。今ちょっと良いか? 話したいことがあるんだが」
「ああ。大丈夫だ。もう準備は終わったのか?」
俺は先程の疑問を、タケシに話してみた。
するとタケシは申し訳なさそうに言う。
「すまん。もう生きて無いと思って伝えて無かったんだが、例の追放者達が生きてるのかも知れない」
「あの被害者家族か。じゃあ警官も?」
タケシは頷いて肯定する。
片桐さんの事だから、警官は密かに処分されたと思ってたんだけどなぁ。
身内には甘いのか? それなら仲間に注意する必要があるぞ?
こんな世界だから、どんなに真面目な人間でも変わってしまうからな。
俺も含めてある程度戦う力があれば、生き残れるんだし。
武器は持たせてないだろうけど、この場所が知られているのは良くないだろう。
それも分かってるはずだが、何でこんな近い距離に移動させたんだ?
「分かった。お前からも片桐さんには、言っておいてくれ。情けも良いけど、リスクは考えて欲しいって」
「ああ。承知した。話し合う場を作るよ。とうまも一緒にな」
今は負傷者の対応もあるだろうから、話はそこまでにしたよ。
俺は仲間にも状況を説明し、対応を話し合った。
基本的には敵対すれば戦うけどな。
俺の仲間は色々あったし、変な情けはかけないだろうけど。
翌朝。
俺達は四輪駆動車に乗車し、拠点を出発した。
上手く誘導出来れば良いんだけどな。




