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終末に向かう世界に希望なんて見つかるのだろうか?  作者: 早寝早起き
第6章:ウイルスの変異と新たな脅威編
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見える物(表と裏)

 指の骨折のリハビリは順調だ。

 少し痺れは残っているが、何とか曲げられるまで回復。

 重い物は持てないし、違和感はある。


 それでも目に見える回復は、俺の心を高揚させた。


「ハンドグリップでもあれば良いのに。ヤナギ君。手に入らない?」


「外に出た時にでも探してください。そろそろ許可が出ますし」


「は、早くない⁉ 俺まだちゃんと戦えねぇけど⁉」


「わかってます。外と言っても建物周辺に出るだけですよ。体力もつける必要がありますし」


 ちょっとビビった。

 流石にバットも握れないのに、あの荒くれ者達と同行はキツイ。

 正直、何されるか分からんからな。


 廊下でハヤトと話してる時にさ。

 俺をボッコボコにした連中に会ったんだよ。

 委員長に撃たれたんだが、全員助かってた。


 よく考えたら分かるんだけどな。

 ゴボウ医師は、委員長が殺ったのは1人って言ってたじゃん!

 何であの時におかしいと思わなかったんだろう。


 いきなり小声で話しかけられて、傷を見せながら笑うんだぜ?

 怖ぇし、気持ち悪いしで、変な声出たよ。

 あの連中と一緒に行動するとなると、しっかり身体を元に戻さないと戦えんよ。


 

ゴンッ! ゴンッ!


 

 そんな事を思い出してる最中、俺の部屋のドアを激しく叩く音。

 ゴボウ医師も首を傾げているから、訪問の予定は無いんだろう。


「俺が出ようか?」


「いえ。とうまさんに面会は許可されていません。用事がある場合、事前に申請が必要ですから」


 そう言ってゴボウ医師は扉の所へ歩いて行った。


「先生! 助けてくれ! サトシがやられたんだ!」


「傷の具合は?」


 大声で叫ぶ強面の男。

 アイツは俺と同じ罪人だよな?

 今日は外へ出てるはずなんだが、あの感じ何かあった?


ダッダッダッ!


「貴様! 何を許可なく帰ってきている!」


「ちょっ! 離せよ! 俺は先生に!」


 一瞬ドアの陰に制服警官が映った。

 

 ゴボウ医師は頭を振りながらドアを閉め、俺の元へ戻って来る。


「聞こえたけど、仕事じゃ無いのか?」


「ふぅ。基本的に奉仕者は、軽傷以外治療しません。これは規則なんですよ」


 そんな辛そうな顔で言われてもな。

 やっぱり罪人の扱いは悪いじゃないか。

 使い捨ての道具でしかない訳か。

 

 衣食住を与えてるから、それで十分?

 馬鹿にしやがって。


 ん?

 じゃあ欠員が出た場合はどうするんだ?

 まさか......罪人以外も使うつもりか?


「なぁヤナギ君。欠員の補充はどうするんだ? 誤魔化さず教えてくれ」


「とうまさんの様に、探索中に見つけた人間を捕えます。それか......希望者を募ります」


 やっぱりそうなるのか。

 じゃあ委員長が立候補する可能性もある?


 クソが!

 金森の野郎は、それも見越してやがるんだろう。

 ゴボウ医師が間に入ったとは言え、俺の希望が通ったのが不自然だったんだ。

 それであの、人を食った様な態度だったんだろうさ。

 


「ヤナギ君。ゴム系の握れる物を探してくれ。病院なら何かあるだろ? 頼む! あまり時間がない」


「そう言えば子供用のボ-ルを見た気がします。私では目立ちますから、ヤヨイに頼んでおきますよ」



 直ぐに補充は無いだろうけど、あの貧弱な装備では今後も犠牲者が出る。

 

 俺はこの日から眠る時間を削り、訓練を始めたんだ。


 あの子を巻き込まない様に。





◇◇◇





 そしてゴボウ医師の予告通り、遂に建物の外へ出る事が許可された。


「じゃあ。少し走っても良いのか?」


「ええ。でも見える範囲でお願いします。でも他の一般人と話す事は禁止ですよ」


 外は見慣れた雪景色。

 遠くに子供達が遊んでいる姿も見える。

 病院は思った以上に大きかったよ。


 これなら雪が溶けても拠点にするには十分だろう。

 警備には制服警官が複数人。

 一体どれだけの人数が居るんだ?


 俺はチラチラと周囲を確認しつつ、短い距離を何度も走る。

 今は瞬発力を上げたい。これだけ身体がなまると、数度の往復で息が上がる。

 駄目だ。こんな調子じゃ元に戻るなんて、何時になってしまうんだ。


 直ぐに体力も筋力も戻らない事は理解してる。

 それでも焦ってしまうんだよ。

 立てなくなるまで走ろうとする俺を、冷ややかな目で見守るゴボウ医師。


 俺らしくないって思ってんだろ?

 そうだよ! なんでこんなにムキになってるのか? 自分でも分からん!


 そんな時だ。


「頑張ってるじゃないか。君は聞いていた以上にやるみたいだねぇ」


「はぁはぁ。か。金森さん。何か御用でしょうか?」


「ちょっと君に話があってね。私の知り合いが君に会いたいと言っているんだよ」


「金森さんのお知り合いですか? 私にそう言った知り合いは居ないのですが」


 何か探るような目で俺にそう言う金森。

 こういう連中に知り合いなんて居ないぞ?

 誰かと間違ってんじゃねぇか?


 俺がそんな風に悩んでいると、建物の陰から数人の人間がこちらへ歩いて来る。

 なんだ? こっちへ来るって事は、金森さんに用事か?

 そう思っていた俺の視界に、思い出したくない人物が映る。


「アレってもしかして、川口さん⁉」


 まだ生きているとは思っていなかった人物の登場に、俺は思考が追い付かなかった。

 かなり痩せてはいるが、記憶に残っている面影はある。

 その隣に居るのは、丸川先生か。あれ? 助手のマリコさんの姿は無い。


 それ以外は見覚えのない連中だな。

 なんか目がギラついてるのは気のせい?

 

 高原ダムでの生活は、もう忘れたい記憶だ。

 何で今になって、俺の前に現れる?


「とうま君。少し下がって貰えるかな。ここでは揉め事は困るんでな」


「え? は、はい。分かりました」


 金森は俺にそう言って距離を取らせた後、こちらに来る集団に近づいて行った。

 罪人は一般人に近づくなってか?

 会いに来たのはあっちじゃん。

 

 ガッチリと握手を交わす金森と川口。

 これで金森の正体は絞られた。

 元市議会議員の川口なら、中央の政治家に知り合いが居てもおかしくない。


 一体何の為にこの拠点へ来たのか知らないが、今更俺に何の用がある?

 勝手に恨んでる可能性はあるけど、俺を悪者にしたのは忘れてない。

 既に金森は川口から、俺の情報を聞いているみたいだけどな。


 個人情報をペラペラと話すなよ。元政治家さん!


 色々と思い出してきてイライラする俺の元へ、川口と金森が歩いて来る。

 それを見て俺は顔から表情を消す。

 ここは出来るだけ穏便に。下手に騒げば監視が増えそうだしな。



「いやいやこれは。元気そうじゃないか。とうま君」


「お久しぶりですね。川口さん。もう身体ボロボロで、今リハビリ中ですけどね」


 にこやかに話しかけては来るが、棘を感じるのは俺が身構えているからか?


 川口は俺が突然居なくなった後の事を話し出す。

 特に聞きたくもない話だったが、金森も居るので素直に聞いたよ。

 俺みたいな戦える人間が居なくなったことで、あのグル-プ内でも揉め事があったらしい。

 物資の調達とか自分達の力で手に入れる事になるから、それに不満を覚える人がいたんだ。


 俺からすれば当たり前の事だけどな。勝手におんぶに抱っこだっただけだし。

 それでも何とか冬を越え、彼らは長谷川村に戻ったそうだ。

 でもそこに変異種が襲来。この時に俺の知ってる人たちが犠牲になった。


 それでも生きる為に拠点の移動を決断。

 最初に向かったのは距離的に近い川越町だが、既に町は崩壊した後。

 少ない物資を探し移動を繰り返す様になっていった。


 そんな中でここのコミュティ-の人間に出会う。

 聞けば金森とは古い縁があったそうで、ここへの移住も金森の要望に応えたから。

 俺の感想は、それは大変そうだなって感じ。


 こんな世界だし、生き残るのが難しいのは皆同じだろう。

 それを俺が居なくなった事を強調して話されても、俺には何も響く事は無い。

 俺はそれよりも気になるんだよなぁ。


 あの遠くからこっちを見る目がさ。

 嫌な感じがビンビンするんだが、これはゴボウ医師にでも伝えといた方が良いかなぁ。

 何処で拾ったんだか知らないけど、身体検査やったのか?


 俺は気の抜けた返事しか出来なかったが、求めて来た握手には応じたよ。

 力強く握られても、握りかえせねぇのが辛い。


 こうして再び出会う事になったんだが、俺の想像が見事に当たる事になる。


 この日の夜。


 静かな病院内に、悲鳴と銃声が鳴り響く。


 何があったかはお察しで、川口は食人鬼を連れてきちまったんだよ。

 アイツら人当たりは良いし、俺も騙されたんだけどな。

 きっとここに来るまで、我慢してたんだろうさ。


 それが生きの良い人間見たから、本性表したってとこだろう。

 まぁゴボウ医師経由で注意はしておいたし。

 彼らがどうなったかは、俺は知らない。


 俺は罪人だし、夜は部屋から出られないしな。


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