市街地の戦い
現在の時刻は午前5時。
吹雪は間もなく止む時間だ。
「打ち合わせ通りに行こう。俺から言えるのは2つ。必ず生き残れ。捕まったら、今回の件は俺に強制されたって言え。死にたくなかったらな」
もうね。
生き残る事が優先だ。
この世界では、それが相手に勝つって事だろう。
仲間達には、全ての責任を俺に被せろと言ってある。
カッコつけてるんじゃないぞ。
実際そうだからな。撃て、戦え、躊躇するなって強制してるし。
冷静に考えると土地勘のないゲリラ戦なんて、俺達に勝てる要素は無いんだよ。
最初は皆殺しだ! なんて息巻いてたけど。
確かに拳銃はあるが、連発しても殺れて数人。
ライフルは次の装填に時間がかかる。
俺も含めて銃の扱いも、まだ熟練者じゃない。使えないとは言わないけどな。
もたもたしてる間に素手の格闘になったら、人数差であっという間に捕まって終わりだろう。
委員長とレイさんは若い女性だ。
この世界で貴重な存在と言える。
そして子供達は宝だ。
滅多な事がない限り、殺されはしないだろう。
先に出会った男達はクズだったが、他が同じとは限らない。
リーダ-が良識のある人間だと信じたいところだ。
まぁこんな世界、俺も含めてどこか壊れてる人間ばかりだろうけどな。
俺は相手にとって、脅威には映ると思ってる。
見た目が平凡だから自信はないけど。
その分、派手に暴れてやる。
別に自己犠牲なんて、これっぽちもするつもりはないぞ。
仲間の為に俺が犠牲にとか、マンガじゃないんだし。
どうせいつか死ぬんだから、俺は自分の考えを貫きたいだけ。
ゾンビにやられるか、人間にやられるかの違いだけだしな。
誰かに媚びて生きていく人間じゃ無いから、散る時ぐらい盛大にやってやるんだ。
俺の指示に対して、仲間からの反発もあったよ。
何時間も説教じみた話もされた。
言ってる事が違うって。そりゃそうだ。
生き残るなら覚悟しろ! って言いまくってるからな。
でも今の仲間達は戦う覚悟はあっても、俺と違って死ぬ覚悟なんか出来てないよ。
委員長も何処か吹っ切れてはいるけど、あれは勢いだけでやってる。
少し精神的な問題を抱えていると思ってるし。
俺としてはさ。
血の繋がりのない人間の集まりだろ?
だから遠慮せず、切り捨てて欲しいんだ。
それも覚悟を決めるって事だから。
こんな時の為に、何時も口癖のように仲間に言い続けてきた。
助けたのは、ただの気まぐれだってさ。
◇◇◇
りさちゃんは委員長に預け、今の俺は1人で行動中。
委員長には、逃げられるなら逃げろとは言ってある。
もう段取りが狂いまくってるし。
相手の動きが早すぎてさ。
俺達が動き出す前に、建物周辺まで来てしまってるんだ。
だから完全に囲まれるのを避ける為、俺が単独で飛び出したんだよ。
建物を出た瞬間、いきなり襲われたけどな。
救いはやっぱり足元の悪さ。
相手は俺より大きな男だったけど、武器が刃物だったんだ。
どうしても俺に近づかないと攻撃出来ないから、動き自体は良く見えた。
俺は雪を相手の顔面に投げつけて、視界を奪い足に拳銃を発砲。
直ぐに向こうの仲間が寄って来るから、止めを刺さず逃げる事を優先した。
俺に注目が集まるように大声で叫びながらな。
こちらは拳銃とライフル銃があるから、それだけで牽制にはなっているみたいだよ。
そのまま近くの建物に飛び込み、ここで外へ向けてライフルを撃つ。
間髪入れず裏側から外へ飛び出し、また近くの建物へ移動。
これの繰り返しで暫くは上手く行っていた。
攪乱目的だったし、一応は成功してたんだよ。
でも流石に相手も馬鹿じゃ無かった。
今まで生存できてたんだから、当り前だよな。
俺の移動するだろうと思われる場所に、人が配置されていたよ。
雪の無い場所だと、疲れている俺より動きが早い。
一気に詰め寄られたら、銃を撃つ暇も無かった。
ドガッ!
男の大振りのパンチが綺麗に入り、俺は吹き飛ばされる。
避けようとしたんだけど、膝が笑って言う事を聞いてくれなかったんだよね。
雪道のせいもあるが、俺の鍛え方が足りなかったんだろうな。
久しぶりにくらった拳は、めちゃくちゃ痛いし。
複数人相手に倒れたらダメだ。
起き上がろうとした時にはもう囲まれてた。
頭を踏みつけられ、容赦なく蹴りまくる男達。
前にやった亀からの攻撃も通じなかった。
俺の攻撃ってバリエ-ションなさ過ぎ。
抵抗した事で、更に相手の攻撃が強くなった。
手のひらを踏まれ、両手の指も何本か折られる。
本当に素人かよ? 銃を撃たさないためだろ?
身体中痛くても我慢してたが、骨が折れると声が出てしまう不思議。
情けなくて涙も出る。
それでも殴る蹴るは続くんだけどな。
ホント、容赦ねぇわ。
ドォン! ドォン!
意識を失う手前で聞こえる銃声。
「何やってるんですか! 生き残るんでしょ!」
委員長のそんな声を聴き、意識は戻ったが身体が動かない。
ドォン! ドォン! パァン! パァン!
意識が朦朧とする中、リズムよく響く銃声。
音がデカいから、耳が痛い。それで意識が保たれたけども。
銃声の後から、俺への攻撃が止んだ。
助けられたのか? そう思い気合を入れて身体を動かす。
俺は身体の下敷きになっていたバットを杖代わりに、フラフラと起き上がる。
持つ物がある方が亀になり易かったんだよ。その分身体に当たって痛かったけど。
立ち上がった時。ちょうど見えたのは、委員長が男に殴られる場面だった。
俺は激高したよ。委員長が殴り倒される姿を見たらさ。
足を引き摺りながら、必死で落ちている拳銃を拾う。
もうスロ-モ-ションみたいに自分の動きが遅い。
何とか倒れずに拾えたが、右手は中指と小指ぐらいしか使えない。
左手なんか、人差し指だけだ。
それでも折れて無い指で引き金を引いた。
腕は重いし指はぐらぐらで、狙いも何もあったもんじゃない。
胸で押さえたのが良かったのかな?
1発は当たったみたいで、委員長に迫っていた男はその場で倒れた。
何で助けに来たんだよ。
女の子の顔が腫れあがってるじゃん。
くそっ。
頼むから生きててくれよ。
俺は必死に委員長の元へ向かう。
さっきから血が目に入って良く見えない。
それでも懸命に俺は歩いた。
「ふぅ。ふぅ」
鼻が折れたのか、口で呼吸のする音。
良かった。とりあえず生きてる。
あれ? りさちゃん何処行ったんだ?
今になって居ない事に気づく。
でも声を掛けようにも、歯が折れて上手く喋れない。
ガシッ。
いきなり足を掴まれる俺。
確かめる間もなく、俺は顔から床に転ぶ。
今ので更に頭の傷が開いたんだろう。
熱い液体が顔面を覆う感覚があった。
倒れた俺を引き寄せようと引っ張る相手。
これは敵だ。さっき俺が撃った男だろう。
倒れた事で油断してしまったよ。
でも振り払う力は残っていない。
その時だ。
「ウグッ!」
野太いそんな叫び声と共に、俺を掴かんでいた手の力が抜けた。
俺が覚えているのはそこまで。
頭を打ったからか、意識を失ってしまったんだよ。
◇◇◇
⁉ 冷たっ⁉
そんな感覚がして、俺の意識は覚醒する。
目が腫れていて、視界がぼやけたままだ。
誰かが助けてくれたのか?
そうは思うも、食人鬼に助けられた映像が頭をよぎる。
慌てて身体を動かそうとするが、少しでも動けば激痛が走るんだ。
そこでまた意識を失う。
でもまた直ぐに意識が覚醒。痛みで意識を失う。
それが延々と繰り返される。
もう現実なのかどうかも分からない。
先程まで冷えていた身体が、今度はどんどん熱をもってくるんだ。
熱い、苦しい、痛い。
誰か楽にしてくれ!
そんな思いだけが俺を満たす。
死ぬなら、普通に死なせてくれよ!
どれくらい経過したのか分からないが、あれだけ痛んだ身体から熱が冷めて行く。
やっと終わった。嬉しい。
でも口を開けようとすると、痛みで顔が歪む。
「やっと効く薬があったみたいです」 「悪運の強い男ね」
何処かで聞いたような声がする。
必死に思い出そうとするが、意識が続かない。
そのまま俺の意識は暗闇に落ちたんだ―――




