独裁者
利害が一致すれば協力すると言う前提で、自称レジスタンスのメンバ-の話を聞く事にした。
キララが冗談を交えて言った、高木と言う男が高崎市を支配しているのは間違いないらしい。
何故その男が独裁的な支配が出来ているのか?
これは冬の間に決まった序列らしい。
閉鎖空間で多くの人が精神的に参っていた時に、高木のグル-プが他のグル-プを暴力で潰したんだ。
この男はパニック以前から高崎市に居た男で、市にも影響力を持っていた家系の出身らしい。
逆らうにしても逃げ場がない人達は、苦渋の決断をしたんだろう。
高木は絶対的な権力者であり、その下に就く人間は従順。
巧妙な手口で次々と他の集団を懐柔したんだ。
その体勢は冬が終わった現在も続いていて、反発する組織を狙っているらしい。
キララ達はそんな環境を変えるべく活動を始めたが、絶対数で劣るので状況は常に劣勢。
食料なども苦労して調達しているとの事。
そんな最中、キララ達は高木グル-プの食料保管庫を急襲。
夜半に行われたその作戦は、成功したかに見えた。
でもそれは高城達が仕掛けた罠だったんだ。
物資を持って逃げる段階で作戦メンバ-の裏切りが発覚。
キララはその裏切ったメンバ-に拘束されてしまった。
そして俺が出会ったあのタイミングでゾンビの餌にされる。
そこを通りかかった俺に助けられたという話だ。
「ハイ質問。その裏切り者ってキララの妹だろ?」
「......妹は、キラリは裏切ってなんかいない! きっと訳があるのよ!」
「キラリねぇ。まぁそこは当事者じゃない俺にはわからんけど。アンタらはどう思ってんの?」
「私は少し疑ってる」 「信じたいが」 「キララの為よ」 「アイツ嫌い」 「微妙」
「......という意見があるが? 意志を統一できない組織は弱い。俺はそんな組織を信用できないな」
「ちょとぉ。キラリは私達の中心だったじゃない! 今回だって私を生かす為に」
うーん。
キララの妹が実質リ-ダ-だったなら、明確な裏切り行為だったはず。
それでもこいつらの意見は半々ってところか。
予想されるのは前から高木と繋がっていた?
何の為に? 独裁を維持するなら潰した方が楽なはず。
住民じゃない俺でもそれくらいは分かる。
別に俺は正義の味方じゃ無いしな。
過酷とは言え守られてる事も否定は出来ないだろう。
「なぁ。お前らの目的って何なの? 単に高木が気に入らないだけか?」
「違うわ。高木は服従するなら平等に食料を配ると言ったの。でも実際は従順な人間がより多くの配分を得ているのよ。逆らった人間が裏で処分されているし」
「今の状態を受け入れている人も居るだろ? 今の世界じゃ生きられない人間もいる。その辺りはどう考えてる?」
「そんなの皆で頑張ればなんとかなるよ。自分の未来を他人が決めるなんてありえないわ」
あはは。
キララはだめだな。これじゃあリ-ダ-としては落第だ。
他のメンバーもそれは分かってんだ。
だから妹が纏めていたってところか。
理想を掲げるのは良い。
でも理想を現実にする為には、余りにも考えが未熟すぎる。
考えに賛同して組織を潰しても、その後は結局物資の取り合いが起こるだろう。
キララが次の高木にならないって誰が保証できる?
高原ダムでは強いリ-ダ-は居なかった。
でも出来る人は居たんだ。あそこで言えば川口さん。
だから川口さんに従っていたし、出来る事を自分なりに頑張ったんだ。
まぁ俺にとっては辛い記憶だけどな。
これってもしかしてあの時に似ているのかも。
役割分担として悪者を作り、精神的な安定に繋げるって言う政治手法。
だからレジスタンスみたいな存在を、生かさず殺さず維持させてると。
こう考えれば素人集団に見えるキララ達が、生かされている事も納得が出来る。
キラリは姉のキララの危うさに気づいて居たんだろう。
「因みに外部から俺みたいに高崎市に入って来る事はあるのか?」
「ええあるわ。大体は私達の接触前に捕まっちゃうけど。その後姿は見ていないのよ」
「ふーん。それは気になるな。俺を見つけたのは、お前じゃ無いよな」
「ええ。カズキよ。私に合図をくれたんだから!」
ああ。
この表情の乏しい男か女か分からない奴な。
ふんふん。
索敵能力はあると。
「じゃあ何で俺に嘘をついたんだ? 一応それは聞いておきたい」
「一人で歩いてたら怪しいじゃない。ゾンビだっていっぱい居るのに。だから試したのよ」
「そんな奴もいるだろ。別に俺が珍しい訳無い......よな?」
ブンブンと首を振るレジスタンスメンバ-。
あれ?
ボッチじゃダメなのか?
ほら警官とか......⁉
「おい。ここの警官は何処に行ったんだ? 桜井市でも見なかったが」
「警官も高木とグルよ。パニックの後に高木の統制下に入ったもの。拳銃もあるから、逆らえる人は居なかったのよ」
「いやいや。お前らも持ってるじゃん。それは何処から手に入れたんだ?」
「これは妹が筋の人間と取引して」
おいおいおい。
これ国家権力絡んでるんじゃね?
筋者って言っても拳銃の所持は慎重だろうよ。
妹が手に入れた拳銃って、警察が押収した物だろうさ。
こうなってくると戦う選択肢は悪手だろう。
個人で戦う相手じゃないのは間違いない。
気になるのは1点だけか。
「悪い。今すぐ共闘は出来ない。えっとカズキ君? ちょっと頼みがあるんだが......」
この日、俺は明確な答えを出す事を避けた。
それよりも大事な事もあるからな。
腹が減ってんだよ! もう限界だ!
という事でレジスタンス拠点まで移動を決めた。
◇◇◇
レジスタンスの拠点は、街の外れにある教会だった。
建物はボロボロ。外見的には廃墟に近い。
こんな場所なら発見は難しいだろう。
「ここか。大丈夫なのか? 壁も碌に無いようだが?」
「えへへ。こっちよ。絶対驚くんだから!」
連れて行かれたのは、ステンドグラスがある教会の中。
並べられたベンチシ-トもボロボロだ。
キラリは楽しそうに俺を引っ張り、キリスト像の下まで連れて行く。
「ここをこう動かしてっと」
ゴゴゴ。
神父が説教する壇上の机を動かすキララ。
するとそこには取っ手の付いた床板があった。
キララはその取っ手を上に上げる。
⁉ 地下室があるのか⁉
床下へ続く階段があったんだよ。
ほほう。
これはロマンだな。教会にある隠し部屋ってやつか。
キラリは慣れた足取りで階段を下りて行く。
俺と他のメンバーもそれに続いた。
階段を下りた俺は、思わず声を上げる。
「スゲェなここ。だれがこんな場所作ったんだよ」
現れた地下空間はかなり広いんだ。
上の建物とは違い、壁も厚く作りも頑丈。
街の地下になるが、水の侵食も受けていない。
もう秘密基地と言っても良いぐらいの場所だったんだよ。
「えへへ、凄いでしょ♪ カズキが見つけて来たのよ」
キララは自分の事の様に胸を張る。
惜しい。
顔は良いんだけど、色気が足りない。
そんな彼女を娘の様に見るレジスタンスメンバ-。
まぁ慕われては居るんだろうさ。
さて。
「悪い。とりあえず何か食わせてくれ」
「わかった。皆手伝って」
キララの言葉にカズキ以外のメンバ-が動く。
「ふぅ。それでカズキ君。君は何者?」
「......ただの一般人。ではいけませんか?」
「関りがなければ、それで良いんだけどさ。俺をここに連れて来た理由は聞かせて貰えるんだろう?」
「貴方って何者なんです?」
「ただの人嫌いだよ。こんな事になってなかったら、家に引きこもって居たかったな」
流石にこんな場所を知っている一般人なんて居ない。
それに索敵は特殊技能だろ?
当たり前の様に俺を見つけられても困るんだ。
これでも結構自信が出て来ていたんだよ。俺も。
「他の人間に聞かれたら困るので、夜にお時間頂けますか?」
「ああ。寝込みを襲うようなら、敵と認識するけどな」
この話の後、キララの意外な特技が発覚した。
保存食を調理してくれたんだが、思いの外絶品だったんだ。
キララ曰く「花嫁修業もバッチリなんだから♪」 と言う謎アピ-ルもあったけどな。
俺は一体何に巻き込まれるんだ?
と言う疑問があり、夜までゆっくり休む事も出来なかったよ。




