家族。
俺はあの後直ぐに拠点へ戻った。
やったらやり返されるのは覚悟していたはず。
でもアレは明らかに殺しに来ている。
「まだ俺は甘かったな」
ついそんな言葉を呟いた。
昨日移動すると言う判断が出来て無かったら、この寝顔を見れなかったんだぞ。
俺はゾッとした。
自分の行動で守るべき相手を傷つけてしまう可能性が抜けていた事に。
昨日も怒られたが、それを本気で聞いていなかった。
でも今の状況は俺の身勝手な行動が一因である事は否定できない。
それが過激な反応だったとしても。
俺はどうすれば良いんだろう?
この子達と離れれば良いのか?
いや。アイツらはそんな事で終わらないだろう。
きっと火が消えれば確認に来るはず。
じゃあどうする? 戦うか?
でも戦うなら殺し合いだ。
相手はもう止まらないだろう。
「眠れないのですか?」
「すまんエリ。起こしたか?」
「とうまさん。怖い顔をしてますよ」
「ああ。実はな......」
少し悩んだが、エリには拠点の件を話した。
かなり驚いていたな。
そして怒っていた。
家に対してではなく、残った荷物を燃やした事に。
怒った顔も珍しかったが、怒るところそこなのかと思ったら笑えた。
「うふふ。やっと笑いましたね?」
「え? わざとか? 気を使わせたな」
「いえ違いますよ。夏服とかお気に入りの服があったんです! もう着れないと思うと腹が立ちます」
「そ、そうか。でさ。これからどうしようか悩んでいたんだ。アイツら俺達を探すだろうし」
「いっそこの地域を離れましょうか。移動手段はありませんけど」
俺もそれは考えていた。
直ぐには見つからないとしても、外に出ない訳にもいかない。
食料は直ぐに尽きるんだ。
逃げる手はある。
でも皆で生活しているんだから、勝手な判断は出来ない。
「手段については当てはある。でも皆の意見も聞くべきだろうな」
俺はそう言って話を終えた。
この土地に思い入れは無い。
でも子供達にとっては違う。
もし離れるのが嫌だと言われたら、俺がするべき事は分かってるから。
◇◇◇
そして午前8時。
子供たち全員が揃って朝食。
施設育ちのなので、決まった時間に行動が始まるんだ。
俺はあの日から結構ダラダラと生活してたから、慣れるまで辛かったよ。
「はい。今日は皆に話があります」
朝食が終わった後、エリが今朝の事を子供達に説明した。
その内容に小さい子は泣き出してしまう。
「あたちのおにんぎょがぁあああ」「俺のマンガもぉおおお」
ん? 怖かったんじゃ無いのか?
あれ? おかしくね?
パンパン。
エリがそれを見て手を叩く。
「泣いても戻って来ませんよ。今度とうまさんにお願いして、別の物を見つけてもらいましょう。私だってお気にが戻ってこないんですから。シクシク」
「アタイがお兄ちゃんにお願いするから泣かないで」「あたちも」「俺も」「俺が」
物への執着が酷い!
エリの場合は冗談か本気か分からないんだけどな。
でもさぁ。今の話を聞いて驚きはするものの、怖がってる様子が無いのが不思議でたまらんわ。
「とうまお兄ちゃん? どしたの?」
「マイ。怖くないのか?」
「うん! ぜんぜんこわくない!」
「アハハ。とうま兄ちゃん。俺達って慣れてるんだよ。嫌われる事なんてさ」
アキラの言葉を聞いて俺は理解した。
そうか。この子達は人の悪意を知ってるんだ。
それを身をもって知っているからこそ、平然としているのか。
俺は皆の事を勝手に分かったつもりでいたんだな。
でもなアキラ。
ちゃんと笑えてないの気づいてるか?
子供に気を使わせてどうすんだよ。
「すまんな。ちょっと聞いて欲しい。さっきの話を聞いた上で、皆がどうしたいか聞きたいんだ。俺はこの地域を離れた方が良いとは思ってるが」
「「「「「賛成!」」」」 「いつ行くの」「旅行だ!」「海行きたい!」「やま!」「川でしょ」
はい? 即答なの? 反対意見とか無いの?
そして後ろのちびっ子! それ合言葉!
「とうまさん。また今朝と同じ顔してますよ。本当に鈍いのか疑問ですけど。私達はとうまさんに決めて欲しんです。だって家族ですから」
「そ、そうか。家族⁉」
エリにそう言われ周りを見ると、子供達はキラキラした目で俺を見ていたんだ。
そんな俺の頭の中では、たまに特番でやっていた大家族のお父さんが浮かんでいる。
16人の子供の親代わりだと⁉ 今無職ですけど⁉
とか思考がブレるが、今後の予定は決まった。
なら準備がいる。それも早急にだ。
◇◇◇
俺はその日から脱出準備を開始した。
実はこの家の裏にあるガレ-ジに、万が一に備えて車を手に入れていたんだ。
その車は日本の某メーカ-の10人乗りワゴン車。
意外と小回りは利くし乗りやすいから選んだんだよ。
重量オ-バ-間違いなしだが、小さく軽い子供が多いから大丈夫なはず。
ちょっと狭いけどな。座席の無いバンよりマシだろう。
まぁそれはそれでだ。
先ずは逃げる場所を決める事とルートの安全を確保する事だ。
行く場所については考えてある。
車を使うなら行けるんだよ。俺が通っていた場所にさ。
ズバリ隣県にある山沿いの街だ。
山に登るつもりは無いよ。
ゾンビが出たら遭難するし。きっと。
俺が山登りする前に立ち寄っていた小さな街。
畑もあるし生存者が近くに居なかったら、簡単な野菜とか作れるかも知れない。
無理なら川で魚を獲るとかもあり。
空気も良いし。子供も喜ぶと思うんだ。
それに住人の少ない町なら、ゾンビの数も少ないはず。
決して俺の趣味に付き合わす訳では無いと言っておく。
肝心なのはそこまでのル-トだ。
この地域を抜けるにも車が走れる道を把握しなければ走れない。
だから暗い時間を選んで、日々通行できる道を調べたんだ。
大きな地図は車にあった物を使う。
そんな地道な作業は、調べ終わるまで10日も掛かった。
合い間に服とか食料も出来るだけ手に入れてある。
最悪でも子供が飢えないように頑張ったよ。
本当は車の補強とか出来れば良いんだけど、俺にそんな技術はございません。
マッド〇ックス的なヒャッハー仕様に憧れはあったんだけどな。
それでも準備は整った。
「さてみんな。準備が出来たから、明日ここを出ようと思う。持って行く物は今晩中に積むから宜しくな」
「「「はぁ-い!」」」「手伝います」「俺も手伝う」「あたちねる」「むり」
うん。いよいよだ。
早い時間に出るつもりだから、ちびっ子は寝ている間に出発になるな。
◇◇◇
ガラガラガラ。
古いシャッタ-は音がうるさい。
もう慣れたけど、外は寒いんだ。
分かっていたけどさ。シ-トに全員座れないから、座席の下に座ってる子もいる。
だから運転が荒くなると危ない。
一応ゾンビが出た場合の事も話しているけど。
さてさて。
ブルン!
エンジンに異常はない。
暖まるまで待ちたいが、音が響くので直ぐに発進。
ゆっくりと車庫を出てアクセルを踏み込む。
やはり少し重いかな。
それでも割とスピ-ドは出せる様だ。
俺の設定したル-トでは、大きな幹線道路は使わない。
通行できない可能性の方が高いしな。
だから基本的に住宅地を走る事になる。
割と遠くまで調べたから、暫くは普通に走れると思う。
行くぜ新天地―――




