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悪意には悪意を。

 エリに描いて貰った地図は、見る側の視点だったから迷わなかった。

 大人は店とかが目印になるけど、子供は見る物が違う。

 目線が低いのも知れないけどな。


 全力で走ったら、10分程で建物が見えたよ。

 それでも少し遅かった様だが。

 入口からゾンビが侵入しているんだ。


 普通に考えてあり得ない。

 外に出られない子供が、不必要にゾンビを呼ぶ行為はしないからな。

 それを確認した俺は施設から離れ、周囲に目を配った。


 何処だ? 何処に居る? 

 低い姿勢で建物の陰から様子を見ていた俺。


キラッ!


 ちょうど施設が見える位置にある家の2階で何かが光る。

 あそこか! 俺は相手のいる場所を確認。

 持って来たリュックから、とっておきを用意する。


「やった事はやり返されるって学習すれば分かるだろ」


 準備に少し時間が掛かり俺は焦る。

 事態は一刻を争うんだから。

 こうしている間にも、子供達が危ない。


 気持ちは焦っているが、失敗は出来ない。

 俺は色々と角度や場所を確認しながら作業を続ける。

 その際に光が見えた家以外の場所にも目を配る。


「やはりか。いったい何人いる事やら」


 注意深く観察すると他の家にも人影を確認。

 絶対に逃がさない。

 大人が子供に悪意を向けるなら、俺はその悪意を返すだけだ。



 準備完了!



ヒュゥゥゥ-ン! ヒュゥゥゥ-ン! ヒュゥゥゥ-ン!



 大きな音が連続で周囲に響く。

 そして!


バァアアアアン! バン! バァアアアアン!


 今度は爆発するような音が続く。

 俺は移動しながら繰り返す。

 とっておきの正体はズバリ、花火だ。


 たまたま入った家にあったロケット花火。

 小さい頃は良く遊んだ。

 これが一番人に向けたらダメな花火って俺は思う。

 見つけた時にすぐリュックに仕舞ったんだ。

 まさか使う機会がこんな状況とは思わなかったけどさ。


 数は少ないけど、全部使いきってやるぞ!

 狙った家は今頃大騒ぎだろう。

 ほら施設に入ったゾンビ達がゾロゾロ出て来たぞ。


 そして音のする方へ移動を始める。

 良いぞ! もっとだ! もっと行け!

 ゾンビはどんどん増えて行く。

 家の周辺のゾンビも集まってるしね。


 もう家から出る事も出来ないだろう。

 俺はそれを確認し、ゾンビの群れに隠れる様に施設へ移動開始。

 俺に向ってきた分は転がすけどな。


 そして施設の敷地へ侵入。

 残った子供の居場所も渡された地図に描いてある。

 入口を入って右奥だな。


 おい。ちょっと残ってるじゃん!

 部屋へ辿り着くまでに数体のゾンビと戦う。

 うわぁ。子供ゾンビもいるし。


「悪い。痛いかもだけど勘弁な」


 子供ゾンビの足をバットで砕く。

 マジで許せん。

 そのまま部屋へ向かおうとしたが、リュックからゴム手袋を出し両手に装着。

 

 子供ゾンビを持ち上げ、空いている部屋へ移動させる。

 この子達の姿は、残ってる子供に見せられない。

 出来るだけ音を立てない様に眠ってもらう。

 手を合わせた後、移動を再開した。


 急いで辿り着いた部屋の入り口はまだ無事だ。

 何とか間に合った事に安堵しつつ、俺は扉を叩いて声を掛ける。


「お~い! 助けに来たぞ!」

「嘘だ! そんな事言って俺達も殺すんだろ!」

「えっと。怒る気持ちも分かる。俺はエリって女の子から頼まれたんだ!」

「え⁉ エリ姉ちゃん⁉」「騙されるなって」「でも本当だったら?」「どうすんだよ」

「それと......マイとアキラも知ってるぞ! 皆待ってるってさ!」


 俺がそう言うと扉が少し開く。

 顔を出したのは少年だ。

 

「ぼ、僕はシンジって言います。何か証拠になる物ありませんか?」

「証拠? ならこれは如何だ?」


 そう言って俺が渡したのは、例のエリの描いた地図だ。

 文字も書いてあるし、知っていたら分かるだろ。

 するとすぐにシンジ少年が出て来る。


「疑ってすみません。直ぐに出たいんですけど、歩けない子が居て」

「わかった。動ける奴は部屋を出ろ。時間が無い」


 俺はそう言った後、扉を開けて中に入る。

 全員で5人だ。その内の1人が床に寝かされている。

 

「この子はどうしたんだ? 噛まれて無いだろうな?」


 シンジ少年に小声で確認する。

 すると噛まれていないという返事があった。

 碌に食べて無いからか? まぁ今は急がないと時間が無い。


 念の為に抱き上げる前に軽く見たが、血の跡は無い事は確認できた。

 軽い。軽すぎる。抱き上げた子供の軽さに驚く俺。

 この重さなら背中のリュックの方が重いぐらいだ。


「良いか? 今なら外へ出れるはずだ。俺について来い!」


 俺は他の4人にそう声を掛け、施設の出入り口へ向かう。

 周囲にゾンビの姿は無い。

 俺は後ろの子供の安全に注意しながら走る。


 敷地を出る際に一度止まったが、もうこの場所に用事は無い。

 なのでそのままあの家へ向かった。

 すると途中の道路に、アキラ少年と2、3人の子供が居たんだ。


「おい。何で出て来てるんだ」

「だって大きな音がしたし。心配になって」

「そうそう」「助けなきゃって思って」「俺も」「私も」

「アキラ。ちょうど良い。この子を頼む。他の子は皆を連れて行ってくれ」

「分かった。でもお兄ちゃんはどうするの?」

「俺は元凶の様子を見に行く。お前らは早く安全な場所へ行け」


 子供に子供を預けるなんて普通しないけどな。

 周辺のゾンビは例の家に集まってるから大丈夫なはず。

 俺は子供をゾンビにした奴らを、絶対に許す気になれないんだよ。

 だから襲われている家を見に行くつもりだった。

 それこそ自身で決着をつけるつもりで。


 見に行った家の状況はエグイ。

 もう数の暴力で迫られると、ガラス窓なんて無いのと一緒。

 押されて割れた場所から次々にゾンビが侵入。

 小さく叫び声も聞こえる。

 1人2階から飛び降りたが、その際に足を捻ったんだ。

 それでも逃げようとしたけど、あっという間にゾンビに囲まれる。


 数体なら相手に出来るんだろう。

 でも囲まれたら無理無理。

 生きたまま喰われるシ-ンは、ドラマの非じゃないよ。

 想像の10倍はグロイし。


 以前の俺なら間違いなく吐いてた。

 その光景を確認し、俺はその場を離れ別の家へ。

 そこでも1人の男がベランダを閉めて、悲痛な表情で必死に窓を押さえていた。


 もう時間の問題だ。あんな窓は直ぐに破られる。

 それに飛び降りても助からない。

 基本は追い詰めれる前に逃げないと生き残れない。


 お前らの様な遊びで子供を襲わせる人間の末路なんてそんなもんだ。

 ほら。そろそろガラスが割れそう。

 ガラスにヒビが入ったら、あっという間にゾンビが飛び出してくる。

 ゾンビに男が捕まったのを確認した俺は、静かにその場を後にした。


 このまま別の場所へ移動するか悩む。

 手は汚さなかったが、結末は自分で確認した。

 もうするべき事は無い。

 でも伝えておきたい事もある。

 暫くその場で悩んだが、エリ達の居る家に戻る事に決めた。





◇◇◇




 


 念の為、少し遠回りして向う。

 他にも奴らの仲間が居たら、わざわざ連れて行ってしまう事になるからな。

 子供達の後を追われていたら意味無いけど。

 

 俺が確認した限りでは、アイツらの仲間は発見できなかった。

 既に襲われていない事を祈りながら急ぐ。


 辿り着いた玄関は無事だった。

 良かったよ。何も起こって居ない。

 安心してドアをノックする。


コンコン。


「遊びに行くなら」

「......海。山。川」

「元気が足りません。リピ-トアフタ-ミ-」

「海! 山! 川!」


 うぜぇよ!

 アレを見た後で元気出ねぇから!

 半笑いで玄関を開け、顔を出すマイ。


「お前かよ!」


 思わず突っ込んだ俺は悪くないはずだ。

 俺は少し不機嫌なまま例のリビングへ。

 そこには助け出した少年達も居た。

 案した顔でエリが俺に話しかける。


「お兄さん。本当にありがとうございました。倒れていた子も大丈夫でしたし」

「施設を襲わせた奴らもわかったし。今回はたまたま上手く行っただけだ。でも同じ事は必要な物が無いと出来ないけどな」

「⁉ 襲わせたって⁉ お兄さんはそれに気づいたんですね。だからあんなに急いで」

「ああ。最初の襲撃も多分同じ奴らの仕業だろう。キッチリ同じ事をやり返してやったけどな」

「そ、そうですか......じゃあ私達は施設に戻れませんか?」

「戻ればまた同じことが起こるかも知れないぞ? 他にも仲間がいる可能性もあるしな」

「分かりました。残念ですが諦めます。それで大きな音がしたんですが......」


 俺が何をやったのかは、小さな子供達を外して貰ってから話をした。

 聞かせられない内容があるからな。

 あの子供ゾンビの事も含めて話した。

 辛いだろうけど、何も知らないままより良いと思う。

 エリと最初に話した際に食料に関わる事もって話は、あの施設にも少量だが残ってたみたいだ。

 安全なら取りに行っても良いけど、子供達だけで行くなら諦めた方が良いとアドバイスはした。


 一通り話をした後、エリ達から俺に対するお礼をしたいと言われた。

 でも特に欲しい物も無いし、俺の考えでやった事なので丁重にお断りした。

 それでもしつこくエリ達が食い下がったので、水1本だけ渋々貰う事で話を終わらせたんだ。

 しかしそれからが大変だった。


 うじゃうじゃとちびっ子達に纏わりつかれ、出て行くと言うとワンワン泣き出す始末。

 子供の泣き声って破壊力あるのな。

 時間も夕刻に近かったから、1泊だけのつもりで宿泊を約束してしまった。


 これが俺の判断ミス。

 俺は寝る場所に使って無い部屋を借りたんだけどな。

 横になって暫くすると、あれよあれよと子供達が集まり、俺の身体に密着するする。


 寒い時期だから暖かいけど、汗かいて寝れなかったし!

 そんな状態が翌日、また次の日となし崩し的に続いたんだ。

 昼間に偵察と称して出て行こうとすると、俺のリュックを隠されたりもした。



 

 その結果。



 


 もうひと月近く離れられないでいる。

 季節はもう完全に冬。

 この辺りでも雪が少し降る。

 ゾンビの活動もこの時期は止まるんじゃないかな。

 だからと言って移動も厳しい季節だけど。


 この間に分かった事と言えば今の現在地が、稲垣達とはぐれた街から駅2つ分離れている事。

 それと歩いて15分程の距離に避難所があるという事だ。

 施設を襲った相手は、その避難所の人間という可能性がある。


 一度偵察には行ったが、今もその場所に生存者が居たんだ。

 かと言ってこちらから接触するのは避けたい。

 だが食料を探しに向こうが来る可能性も高い。


 ああ。施設に残っていた食料は俺が取りに行ったよ。

 子供達はいっぱい食べないと駄目だから。

 それと倒れていた子も既に復活した。

 今や元気に俺に纏わりついて来るぐらいだ。

 

 話は逸れたが、避難所の人間の動きが怖い。

 近いうちにこの場所を離れる判断が必要かも知れないんだ。

 その時に俺はどうするべきなんだろうか?

 今一番の悩みがそれだ―――

 

この話で第2章は終了。

次話から第3章生存者達の戦い編のスタ-ト。

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