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奪うという事は......

 保管庫からの脱出は、問題なく出来た。

 少しミカさんが苦労してたけどな。

 長い間ほとんど光の無い生活してたら、外の光が辛いのは仕方ない。


 それでも頑張って俺達について来た事を褒めるべきだろう。

 外へ出た俺達はミカさんの希望で、ミカさんの自宅へ向かった。

 長い間服の着がえも出来なかったらしいし。


 パニックの時に何も持たずに避難したみたいだしな。

 ミカさんの自宅までの移動は、特に何も無かったので割愛。

 着替え等を待っている間に、次の行動を稲垣と話し合った。

 稲垣が言うには、この周辺が静かなのは近隣住民が纏まって避難所に行ったかららしい。


 多くの人が体育館の中でゾンビとなっている状況から、その考えは間違っていないと俺も思う。

 それに稲垣が昨日体育館の出入り口を閉めたので、ゾンビの大半を中に閉じ込められた事も大きい。

 但し、全てのゾンビを閉じ込めた訳じゃないので、油断できる状況では無いんだ。


 だから残念ながら残っている物資は諦めると決めた。

 周辺が比較的安全だと他の生存者が気づけば、その人達と争いになる可能性もあるし。



「とうま。俺は出来ればこの街から離れたい。無理強いは出来ないけど」

「俺は構わないぞ。それより問題はミカさんの事だろ? 連れて行くのか?」

「俺も近所だけど知り合いじゃない。でも女性1人じゃ危ないだろ? それかあの保育所へ連れて行くか?」

「保育所は駄目だろ。だって体育館に居た人達も多いし。でも何かあの人怖いんだよな。主に性格が」


 確かに敵意はないし、稲垣の言う事も分かる。

 でも性格が良いとは思えないんだよなぁ。

 だからと言ってこのままサヨナラって言うのも......。


 とか男二人で考えていたら、さっぱりした顔のミカさんがやって来る。


「はぁ。久しぶりに家に帰れたわ。とうまとマサルさん。ありがとう」

「それは別に良いんだけどさ。ミカさんは今後の事どう考えてる?」

「貴方達について行くわ。か弱い女性を置いて行くなんて考えて無いでしょ?」

「か弱い?」「ま、まぁ置いて行くつもりは無いけど」


 そんな俺達の反応にご立腹なミカさん。

 少し偉そうな感じだが、よくよく聞くと年下だった。

 現在21歳の元OL。

 短大を卒業して社会人2年目だったらしい。


 性格を別にすれば整った容姿だとは思う。

 今もスリム系のジ-ンズに白のシャツを着ている姿は目を惹くだろう。

 髪も洗われて艶を取り戻しているしな。

 

「そうか。じゃあ此処からは一緒に考えよう」

「分かったわ。それでどうするの?」

「今考えているのは、この地区から離れる事なんだ」


 三人揃ったので改めて俺達の考えを話す。

 それを聞いたミカさんも概ね納得した。

 なので俺が地図を広げて、それを見ながら目的地を決める事に。

 候補になるのは避難所以外で、出来れば数日でも滞在できる場所。

 人の多い場所は嫌いだし、変な人間関係に巻き込まれたくない。


 それに避難所周辺は物資の奪い合いもある。

 人間同士での争いを避けたいんだよね。


「とうまが言う事も私は分かるわ。私だってあんな状況だったし」

「そうか。ミカさんは俺達のわがままで、この近辺を離れる事は良いんだな?」

「マサルさんの気持ちも分かるわよ。私の家族も犠牲になったし、ここには思い出も多いからね。きっと前向きには、なれないと思うのよ」



 稲垣もミカさんも家族が犠牲になったんだ。

 しんみりとした顔の、二人の気持ちも理解できる。

 だけどさ。ちょっと言いたい。


 なんで俺の名前は呼び捨て何だ? 稲垣にはサン付けなのに!

 ま、まぁ良い。

 そこを突っ込んだら、何か凹む様な気がするし。


「と、とにかく。この地区を離れて避難所を避けるなら、どっちの方角へ行く?」

「そうだなぁ。流石にもう一度川を渡るのは避けたいし。こっちの大型ス-パ-の方は如何だろう?」

「あっ。ス-パ-なら化粧品とかもあるかも。寄ってもらえるならありがたいわ」

「ミカさん。俺は出来たら寄りたくない。化粧品ならドラックストアでも良いだろ?」

「そうねぇ。ドラックストアならこの幹線道路沿いにあるし、大型店に変な男でも居たら嫌だし、小さな店でも文句は言わないわ」


 という事で最初の目的地はドラックストアに決まる。

 稲垣もその店を知っているらしいから、ルートは任せる事にした。

 俺は隣町なら分かるけど、こっちの街は全くわからんのですよ。


 

 ドラックストアにも食品はあるし、そこを誰かが拠点にしている場合もある。

 なので危険を感じたり他の生存者が居た場合は、無理に向かわない事を決めた。

 そしてある程度向かう場所と守るべきル-ルを決めて行く。

 一応行ってみたい場所はあるけど、この時点では方角を優先に決めた。


 なので移動時に避けたい行動などを中心に話し合う。

 休憩時は一緒にいるけど、寝るときは別々とかね。

 男同士なら気を使わないけど、女性が入ったからキチンと話はしておく。


 一番重要なのは緊急時の対応だ。

 万が一、離れ離れになった場合の対応は特に話し合った。


「この辺りまでは大丈夫だろうけど、幹線道路付近は危険だな」

「ああ。とうまの言う通り遮蔽物が無い。なら此処の住宅地は如何だろう?」

「この辺りなら知っているわ。同級生が住んでるし。万が一があったら、この家に行きたいわ」


 こう言った話を続けて行くと、徐々に3人の距離も近づいていく。

 人が増える事での利点もあるんだなぁと感じたよ。

 俺達は日が暮れる時間まで話し合って、ある程度の計画を立てることが出来た。


 この日はそのままミカさんの家で宿泊させて貰い、翌日の朝早く俺達は出発。






◇◇◇



 



 目的のドラックストアのある幹線道路までは、ゾンビをチラホラ見かけるものの安全に移動出来た。

 移動時は稲垣が先頭で、真ん中にミカさん。俺が殿になる。

 緊急時は俺が囮になるって決めたからさ。だってミカさんと二人きりは無理だし?


 

 でだ。幹線道路が見えてくると、途端に状況は悪化したんだよ。


「あの中を進むのか。2人とも大丈夫?」

「とうま。車を陰にして進めば行けるんじゃないか?」

「本当に大丈夫なの?」


 道路上は山の様に車が放置されていたんだ。

 その車の隙間を縫うように歩く複数のゾンビ達。

 幸運なのはそのゾンビ達が同じ方向に進んでいる事だった。


 未だにゾンビの習性が分からないけど、どうも集団で移動する習性がある様に見える。

 あの食品加工工場の時も車に連なってついて来ていたし。

 それなら見つからない様に後ろへつけば、時間は掛るけど安全かも知れない。

 そう考えた俺は二人に提案をしてみる。


「もう少しここで待機して、あのゾンビ集団の後ろからついていこう」

「ん? ああ成程。無理に追い越すよりは安全か」

「つ、ついていくの? 何かマサルさんも納得しているみたいだから良いけど」


 稲垣は俺の考えが分かったみたいだな。

 ミカさんは不安そうだけど、反対はしていないから良いだろう。

 なので集団が十分に離れた事を確認し、俺達三人も再び移動を開始した。


 200メートル程歩くと、右側にドラックストアの看板が見えて来る。

 すると先頭を歩く稲垣が右手で移動方向を指示。

 それを見てミカさんと俺も指示に従い進行方向を変えた。


 お店に近づくと正面のシャッタ-が壊されている。

 開店前だったのか? それとも閉店された後かは分からないけど、誰かが侵入したんだろう。

 

「とりあえず俺が中を見て来る。とうまとミカさんは、ここで待機してくれ」


 稲垣の有無を言わさない態度に何も言えなかった。

 自ら危険に突っ込んでいける性格が羨ましいよ。

 そんな稲垣は慎重に店の入り口から入って行く。


 そして数分の後、外に顔を出して俺達を手招きする。

 どうやら安全の様だ。

 ミカさんもほっとした表情でお店へ。

 俺もそれに続いた。


 店内はやはり商品が盗られていて、ガラガラの棚がある。

 食品関係は無い。残っているのは薬関係が多い様だ。

 特に欲しい物は無いが、自然に3人は店内で離れた。


 稲垣はバックヤ-ドの方へ行き、俺は傷薬などを物色しに行く。

 病院に行けないからさ。手当出来る物はあった方が良いだろうと思ったんだ。

 食品系が軒並み盗られていたのは残念。

 手軽に食べられる物でもあれば助かったんだけどな。


 そんな風に思っていた時だった。


「きゃあ! やめて!」


 ミカさんが向かった方から、叫びが聞こえたんだ!

 俺は直ぐに声の聞こえた方へ走る。

 稲垣がゾンビを見落としていたのか?

 店内が静かだったから、俺も油断していた。

 兎に角、早く助けないと!


 必死に店内を走った。

 でも俺が見たのは、想像とは違ったんだ。


「ちっ! 男が居やがったか。おいお前! 此処で盗った物置いて行け! それとこの女も」

「すみません。ここの店員の方ですか? カバンに入れたものは戻しますから落ち着いてください。でもその女性は俺達の連れなんです。放して貰えませんか?」


「うるせえ! 俺の言う通りにしろ! 近づくなよ! 盗った物はそこに置け! ほら早くしないと女がどうなるか分からんぞ!」

「う、うぅ」


 完全に興奮した中年の男。ミカさんは抵抗するも男の力が強い。

 俺は目を離さない様に観察しながら、背中のリュックを床へ下す。

 興奮する男は制服の様な服を着ているので、ここの店主か店員の可能性がある。

 でもコイツの言っている事を素直に聞くわけにはいかない。

 商品は戻しても良いが、ミカさんは渡せないからな。


 だけどこれ以上興奮させるのも良くない。

 こう言う奴は何するか分からないからな。

 俺は少しでも時間を掛ける為に、リュックに入れた商品を床へ置いて行く。

 男が何か喚いているが、今は時間を稼ぎたい。


 その時だ。男の後ろに待っていた姿が見える。

 そして......。


「ぐわぁああ‼」


バタッ!


 男が叫び倒れ、頭を抱えて呻き声をあげる。

 稲垣だ。

 足音も立てずに忍び寄り、男の後ろから頭へ木刀を振り下ろしたんだ。

 稲垣はミカさんを抱き寄せ俺に言う。


「とうま! 床に置いた商品を集めろ! ミカさん! もう大丈夫だから、早くここを出よう」

「わ、わかった」「た、助かったわ。ありがとうマサルさん」


 俺達は頭から血を出して転がる男を置いて、逃げる様に走って店内から外へ出る。

 本当に稲垣は容赦がない。でも何もしなければ奪われるんだ。

 俺はこの時初めて理解出来た。


 今のこの世界で何かを奪うという事は、誰かに奪われる可能性もあるって事を―――

 

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