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特務艇

 かなり焦った様子でノックもせずに俺の部屋へ入ってくる委員長。


「とうまさん! 今すぐここを離れましょう!」


「ちょっと待て。まずは何があったか言ってからだ。なんでそんなに焦ってる?」


「時間がないんですよ! ここが襲われます!」


「それは確かに看過できない事態だな。どの誰が攻めてくるんだ?」



グォオオオオオ!



 もう答えがなくても分かるけど、その情報は何処から知ったんだよ! そうは思ったが時間がないから、俺の布団に潜り込んでいた、りさちゃんを抱き上げ委員長へパス。


 俺は手早く防弾チョッキ装着し、相棒のバットと軽機関銃を装備する。リュックには非常用に色々と詰めてあるからそれも背負う。委員長の焦り方からこの基地を放棄せざるを得ない可能性もあるのだろう。


 俺が部屋を出ると五郎さんを含め、皆の準備は整っていた。一番遅いのが俺とかどうなってんだ? 窓の外を見ると、すでに戦闘は開始されている様だ。なんで簡単に侵入されてるんだ? これ何処からだよ?



「とにかく外へ出ようか。五郎さんとりょうたは前衛を頼む。後はいつも通りの役割で!」



 非常時に備えこの建物内の避難経路は把握できているから、建物裏側の非常階段を使い降りるつもりだ。やはりおかしい。銃声が聞こえない。



「どうなってんだ? 陸自と海自の隊員の姿がほとんど見えない」


「逃げたんですよ! 手引きしたのも彼らだと思います!」


「はい⁉ まさか公安側についたのか⁉」



 にわかに信じられない話だが、実際に変異種が侵入しているんだ。事の真偽は後で確かめるつもりだが、今は生き残る事を優先すべき状況。



ドォン! ドォン!



 なんだ⁉ りょうたが、突然発砲。倒れたのは陸自の隊員だ。それも俺が知った顔。五郎さんも何も言わないから、襲われたって事なんだろう。俺はいまだに回らない頭を回転させ、どこから逃げるか考える。この感じでは、建物内に味方はいないな。


 とにかく1階まで早く降りて、敷地の外へ出ないと。だがこの気配は奴が来てる。このメンバ-で戦うのは無理があるだろう。はっきり言うと最悪だ。中も外も敵だらけとか、判断を間違うと全滅の可能性もある。


 緊張が抜けないまま、何とか1階まで到着。



「あはは。お前らまで来るのかよ」


「すまん。弟子よ。迎えに来た」 「とうま。これで分かっただろ? 自衛官なんて直ぐに裏切る」


「ああ。本当に邪魔よ! ちょっとは空気読め! バカコンビ!」


 委員長が俺の前に割って入る。手には得意の狙撃銃を持ってるから、本気で戦うつもりのようだ。だが接近戦で勝てる相手じゃないぞ?


 ⁉ 俺は咄嗟に委員長を無理やり後ろに下がらせた。



ブゥン!



 委員長のいた付近を、ものすごい勢いで太い腕が通過する。相変わらず当たったら即死級の攻撃するなぁ。


 しかしその動きに反応したのは俺だけじゃない。妹ちゃんが変異ツキノワグマの懐に入り込み、投げの体勢へ移行。しかしそれを腕の力だけで跳ね返す、変異ツキノワグマ。


 慌てて助けに入るケンだったが、二人とも力任せに吹き飛ばされる。ここが逃げるチャンスだろう。俺は、そのタイミングを見逃さずに軽機関銃を発砲。変異ツキノワグマは素早い動きで避けるが、すべての弾をかわせるはずがない。怯んだ相手を妹ちゃんたちの方へ追いやる。


「よしっ! 今のうちに距離をとるぞ!」


 奴の相手はあのコンビに押し付けて、出来るだけ距離を取りたかったんだ。幸い脳筋2人はやられたまま黙っている玉じゃない。既に再び変異ツキノワグマへ向かっているのは確認した。


 俺達は他の変異種と戦いながら脱出を試みるんだが、相手の数が多すぎてなかなか前に進めない。五郎さんもりょうたと共に張り切ってるけど、このままでは囲まれてしまうだろう。



「とうまさん! 海側へ行きましょう。 このまま出口へ向かうのは危険です」


「ナミ。この気温で海に入るつもりか? 俺達は良いが、ヤヨイの体の事もあるぞ?」


「大丈夫です! 私に秘策ありです!」


 

 ここで判断を間違う訳にはいかないが、囲まれるぐらいなら委員長の秘策とやらにかけてみよう。俺は皆に先に向かうように指示。どうしても身重なビッチがいるから移動速度は遅くなる。無理はさせられないからな。


 基地の出入り口と逆方向へ進んだ事で、徐々に変異種の群れと距離を取ることができた。さて、委員長の秘策って何なんだ?


 俺の疑問は五郎さんとりょうたが海に向かって飛び込んだことで、さらに困惑することになった。結局海に飛び込むの? って感じだよ。



「とうまさんも早くこっちへ!」



 委員用が笑いもせずに叫ぶから俺もそっちへ向かうと、視界の下の方に見慣れない乗り物が映ったんだ。なるほどな。これが秘策って訳か。


 皆が飛び込んだのはホバ-クラフトだ。海自のエア・クッション型揚陸艇ってやつ。俺が飛び乗るとすぐに加速して、あっという間に岸から離れた。そのまま海上を進むと、一隻の船舶が見えてくる。


 今までに見た艦艇に比べるとかなり小さく、違和感が否めない。俺たちを乗せた揚陸艇は速度を落とさずにその船に接近。するとその船から海自の迷彩服を着た人物が、こちらへ手を振っているのが見えた。



「ははは。そういう事かよ」



 楽しそうに手を振っているのは、委員長のお兄さんだ。じゃあこの船舶も海自の持ち物なのか。その船から梯子が下ろされ、俺達は揚陸艇から船へ移動。



「ようこそ! 海の迎賓館へ!」


 そんな挨拶をされてリアクションに困る俺達に、苦笑いの委員長が助け舟を出す。どうやらこの船舶は、はしだて型と呼ばれる特務艇だそうだ。実際に各国の将校やマスコミなどとの懇親会などで使用されているんだってさ。かなり地味な外観だし、反応に困るんだけどな。


 色々と面白い偽装もあるそうだが、それは後々のお楽しみらしい。今は説明を聞く方が先だと俺も思うけどな。お兄さんは残念そうに俺達を船内へ案内する。


 案内された場所は、大型ディスプレイのある会議室。横で委員長が説明してくれるんだが、俺は意識を他に集中させているのでほとんど聞いていなかった。



「もう! とうまさん! ちゃんと聞いてます?」


「そろそろ説明を聞かせてくれ。一体何がどうなってるんだ? いくら何でも段取りが良すぎる」


「すまん。それは私から説明させてもらおう」



 目の前の大型ディスプレイに映るのは、護衛艦、金剛の艦長、真田さんだ。会議室の机上にあるパソコンにも映像が映っているから、このまま座って話ができるんだろう。仲間たち全員が着席したのを確認し、真田さんの説明が始まった。


 委員長の身分などについては既に聞いているので割愛。話はあの基地の奪還後まで戻る。委員長は基地奪還後から高橋さん達の監視を行っていたらしい。聞くところによれば、指揮官室に隣接する監視部屋と呼ばれる場所があったみたいだ。主に内部監査に使われる部屋らしいけどな。


 だから指揮官室での話は、委員長に筒抜けだったようだ。そこで初めて聞いたんだが、どうも高橋さん達は丸川先生と取引をしたみたい。丸川先生は公安側のスパイだったんだとさ。まぁ俺が思うにあの先生は、どちらにでもつくと思うけどな。


 丸川先生の要求は、俺や五郎さんの確保。生死問わず。それだけだったらしい。見返りとしては不可侵の約束と武器や物資の提供など。現状を考えると冬も近いし食糧問題は解決したいだろう。武器弾薬も戦いが続いた事で在庫が少なくなっていた。それらと2人の人間の命を比べたら、答えは言うまでもないって事だな。



「とうまさん。今朝なかなか起きれなかったでしょ? あれは薬の影響だと思います」


「ああ。確かに頭が回らなかったな。それも丸川先生の仕業か」



 なるほどなぁ。少し強めの眠剤でも仕込まれたんだろう。危うく寝ているところを狙われるところだった訳だ。ん? じゃあ妹ちゃんとケンはどうやって情報を知ったんだ?



「あの政府側のコンビは、なんで同じ日に襲って来たんだ?」


「この基地の自衛官も一枚岩ではないんですよ。面倒な派閥関係もありますし」



 そのあたりはドロドロしてそうだから、どうでも良いし聞きたくない。要は陸自にも海自にも内部に色々と派閥があって、派閥ごとに支持する勢力が違うって事だろう。


 少し話はそれたが、裏切りの話は秘匿無線ですぐに連絡され、お兄さんがこの特務艇で迎えに来たって事のようだ。



「話は分かりました。助けていただいた事には感謝しますが、俺達はまだ真田さんらの真意を聞いてません」



「そうだな。その話についても説明をしようと思っている」



 少し込み入った話にもなるので、護衛艦と合流するまで待つことになったよ。というのも今乗船している特務艇には砲台などの武装が一切なく、敵に狙われると反撃ができないんだ。それを聞かされると仲間たちの安全の為に妥協したよ。もう漫画のような展開が続いているから、どこまで信用できるか分からん。


 他の仲間たちは船内の豪華さに目をキラキラさせてるし、今はリラックスする時間も必要だろう。


 本当に真田さん達は味方なのか? じっくり確かめる必要はあると思う。これ以上、委員長も疑いたくないが、今の状況では百パーセントの信頼ができないんだよ。


 その2日後。特務艇はある場所で護衛艦と合流した。なんだか懐かしい場所だ。

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