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更なる変異種と新たな出会い

 五郎さんやお婆さんに見送られ、俺達は浅香村を出発した。

 草木が枯れてるとは言え、獣道は歩きにくい。

 夜明けと共に出たんだけど、何度も休憩を入れたら日が暮れたよ。


 夜の移動は危険だから、久しぶりの野宿。

 俺はまだ慣れている方だけど、皆は中々寝付けない様だった。

 兄妹は、すやすや寝てたけどな。


 そんな事もあったが、次の日の午前中には獣道を抜けた。

 目的地までは遠回りになるが、途中の街で休憩も取れるだろう。


「やっぱり、ここを下りるんですか?」


「ヤナギ君? 下りないと山道に出れないだろ?」


 少し斜面は急になってるけど、慎重に下りたら大丈夫だと思う。

 纏まって下りると逆に危ないから、感覚を空けて1人づつ進む。

 ちょっとゴボウ医師がへっぴり腰なのは笑えるけどな。


 りさちゃんは俺が抱っこしてるし、りょうたは足取りもしっかりしてる。

 ビッチと委員長は寝不足で疲れ気味だから、山道に下りたら休憩するつもりだ。


 ここでも1時間程かけて斜面を下り、無事に山道に辿り着く。


 もっとトラブルが起こるかと思ってたんだけどなぁ。


 平坦な道へ出ると、こちら側の被害の少なさに驚いた。

 同じ量の雨が降ったはずなんだが、水捌けが良いのかも知れないな。

 小休止が終われば、今日の宿泊予定地である青海市まで歩く。


 そんなタイミングで、俺は獣の足跡を発見する。

 大きな物が数個。それ以外にも、子供の足ぐらいの大きさの物が複数見つかった。

 


「とうまさん。何か気になるんですか?」


「ナミ。この形の足跡がツキノワグマで、こっちはイノシシなんだけどな。厄介だと思ってさ」


「変異ヒグマじゃないんでしょ? なら問題無いじゃない」


「ヤヨイ。ツキノワグマも人間を襲う事を知ってるか? 変異して無くても、状況的に襲われる可能性が高いんだよ。俺はどちらかと言えば、変異ヒグマの方が良かった。それにこのイノシシの方もおかしい。イノシシは本来、雄と雌は別行動なんだよ。なのに集団で移動している可能性がある」


 どうも俺の言っているニュアンスが、皆に伝わらない様だ。

 個体の大きさで言えば、ヒグマの方が怖い。でも興奮したツキノワグマは見境が無いんだよ。

 それに執念深い。どこまでも追いかけて来るイメ-ジもある。

 アイツらは満腹でも人を襲うから、その辺りも注意せねば。


 それとイノシシも豚と同じで雑食だけど、豚と違って腐肉を食べないはずなんだよ。

 もし食べて変異してたら、面倒な相手になる。足も速いし大きな個体の突進力は脅威だし。

 広い場所なら良いけど、狭い場所で襲われたら逃げられるかどうか。

 襲われるなら、ゾンビ犬の方がマシだよ。


 俺は先頭を歩かせてもらい、痕跡を見逃さないように心掛けた。


 皆も疲れてるようだけど、ここで気を抜けば後悔するからな。


 






◇◇◇





 

 青海市までの道中、数体のゾンビが出た。

 撃退自体は、何も問題はない。

 けど最悪の予想が当たりそうで、嫌な予感がするんだ。


 と言うのはさ。倒したゾンビの身体に喰われた後を発見したんだよ。

 もうこれで変異種が居る事は確定的。

 風に乗って変な臭いもするし、街中でも最大限に注意が必要だ。


「ここからは、武器の用意をしておいてくれ」


 慎重に警戒しながら進み、街の入り口へ到着。

 この時点で、もう日が暮れかかっている。

 もう何も考えず、目に入った建物へ入ったよ。


 勿論、出入り口から全て確認はしたけどな。


 普段は男性と女性で部屋を分けるが、今晩は一緒の部屋で過す。

 この分なら直ぐに戦いは起きないはずだから、皆を先に休ませる事にしたよ。

 だいぶ疲れが見えてたし、このまま戦っても勝てる気がしないしな。


 俺自身も疲れていて、数分の仮眠を繰り返していた。

 ん⁉ 何の音だ⁉

 外の様子に異変を感じ、慌てて外が見える場所へ動く。

 


ブロロロロォオオオ!



ドッドッドッドッ!


 

 車の音。そして、それを追う様な足音が聞こえる。

 最初は公安警察の誘導かと思ったが、エンジン音に聞き覚えがあった。

 あれは自衛隊車両?


 月明りだけでは、良く見えない。

 


バァン! バン! バァン!


 

 何が起こってる⁉

 

 流石に皆も起きて来て、俺の側に集まって来た。


「とうまさん。何が起こってるんです?」


「ヤナギ君。正直言って分からん。でも公安警察じゃないと思う」


「あの音、64式7.62小銃⁉ じゃあ海上自衛隊かも!」


「ナミ。そうなのか? 確かに聞いた事が無い銃声だが......」


 委員長の説明によると、俺達が駐屯地から拝借したアサルトライフルの変更前の型らしい。

 陸上自衛隊以外に、航空、海上自衛隊、海上保安庁にも配されているようだ。

 味方かどうかは分からないけど、偵察に出るべきだろうな。


 ここは俺と委員長の二人で行く事にした。

 夜の移動は、りょうたにはまだ早い。

 静かに建物を出て、銃声の鳴る方向へ向かう。


 余り近づきすぎると、こちらが標的になっても困る。

 だからナミの狙撃銃で見える範囲で、高い建物を探し上階へ登った。


「やっぱり。アレって自衛隊格闘術だ」


 俺も覗かせて貰ったが、推定変異種相手にライフルを使った格闘で戦っていたんだ。

 ナミは少し興奮状態。落ち着く様に言い、詳しい話を聞く。

 どうもナミのお兄さんが所属する隊に、自衛隊格闘術のサークルがあり、内緒で見せて貰った事があるそうだ。格闘なら海自が一番強いって言ってたな。


 上手く説明できないが、確かに見た感じではかなり強そう。

 でも数が多いから、あのままでは危険だ。

 援護した方が良いか悩むが、ここはナミの言葉を信じる事に決める。


 俺達は射程範囲まで移動して、そこから変異種を狙う事にした。


 その位置まで来て気づいたんだが、変異種は2種類いる。

 飛び掛かっているのがゾンビ犬で、突進を繰り返しているのがイノシシだろう。


ドヒュン! ドォ――ン! ドォ――ン! ドヒュン!



 委員長は精密射撃。

 俺は当たればラッキ-だから、ライフルを連射する。

 

 戦っていた海自? の人達は驚いていたが、直ぐに戦いに戻る。

 しかし委員長の射撃は、いつ見ても正確だ。

 身体の大きい変異イノシシが、ものの見事に倒れてる。


 俺もゾンビ犬の単調な動きに合わせる。でもそう簡単に当たらないよ。

 それでも援護にはなってる。そろそろ戦況がこちらへ傾きそうだしな。

 状況を確認した俺は、音で集まって来るゾンビの排除へ向かう事にした。


 やっぱり銃より近接の方が向いてるしな。


 もうストレスを発散する様に、ゾンビ相手に戦う俺。

 暫く戦う必要も無かったし、身体が鈍っているよ。

 それでも普通のゾンビ相手なら、負けないけどな。


 え⁉


 咄嗟にしゃがんだ俺の上を、太い腕が通り過ぎる。

 俺は前転してから立ち上がり、直ぐにライフルを構え撃つ。


ドォ――ン! 


 

 あはは。やっぱり全然効いて無さそう。



グォオオオオオ!


 

 初めて戦ったのも、ツキノワグマだったなぁ。

 まぁコイツは更に変異してますけど。

 それにしてもさぁ。攻撃のタイミングも狙いも、本当にいやらしい。


 お互いに出方を伺う感じだが、このまま距離を詰めても、軽くぶっ飛ばされるだろう。

 それでも行くしかないけどな!


 怖いのを我慢して一歩踏み込む俺。

 全く動じずに立ち上がって威嚇する変異ツキノワグマ。

 

 そこに委員長の狙撃が来る。



ドヒュン!



 正確に顔を狙った射撃だったが、如何せん相手が悪すぎる。

 一瞬怯んだけど、何事も無かったかのように腕を振り回して来た。

 大振りだから避けられるけど、掠っただけでも身体が飛ばされる。


 ほとんど風圧だけで身体が浮くだと⁉

 更に距離を詰めようとする、変異ツキノワグマだったが、ここで助っ人登場。



ブロォオオオオッ!



ドガンッ!


 

 一気に加速して来た車両が、変異ツキノワグマに体当たり。

 不意打ち気味の一撃が、上手く決まってくれたよ。

 それでもそれ程、効いて無いみたいだけどな。


 相手との距離が離れたら、ここからはもう銃の連射しかない。

 車の方からも連続的に発射音が響く。

 


タカタッ! タカタッ! タカタッ!



 これには変異ツキノワグマも、分が悪いと感じたんだろう。

 身体を丸めながら、撤退して行ったんだ。

 変異ツキノワグマを追わず、その場に留まった車両から人が降りて来る。

 

 さて。

 ここからは、相手次第だな。



「君は陸自の人間かな? 私は海上自衛隊、久里浜基地所属の渡辺だ」


「どうも。俺はこんな格好してますが、一般人です」


 出来るだけ笑顔で言ったつもりだけど、俺が返事をした瞬間にあちらは戦闘態勢。

 それでも俺は両腕を挙げて、攻撃の意志が無い事を示す。

 そこに委員長が走って来て、叫んだ。



「渡辺さん! 私です! ナミです!」


「ん? 君は佐倉1等海曹の妹のナミちゃんか! 大きくなったなぁ」


「乙女の成長は早いんです!」



 どうやらこれで誤解は解けそうだ。

 何やら話し込んでいるし、暫くこのまま黙っておこう。

 俺って先走ると失敗するからな。


 それにしても、渡辺と名乗った男性の後ろにいる人達。

 ずっと俺から視線を外さないんだけど?

 委員長。昔話は後にして、早く何とか話をつけてくれよ。



 結局、その視線から解放されたのは、数十分後だった。


 その場で話をしても良かったが、りさちゃん達が心配だからそこまで移動。


 さて。


 どんな話が聞けるのやら。

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