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遺恨

 俺の問いかけに対し、無言でこちらを見つめる男。

 男同士で見つめ合いたくないし、出来れば早く話を終わらせたいんだけどな。

 

「アハハ。肝の据わった男だな。君は。そちらこそ正体を明かしたらどうなんだ?」


「ただの一般人ですよ。少しは戦えますが」


「ただのか。まぁ良い。私はこの地域の代議士をしていた、柳田 徹(やなぎだ とおる)だ。君の顔を見ると、私を知らないようだな。これでも比較的、名は売れていると自負していたんだがな」


「政治には疎くてね。TVも見る習慣は無かったし」


 だと思ったよ。

 勝手なイメ-ジだが、こういう田舎なら政治家と裏社会の人間が、繋がっていても不思議じゃないし。

 目の前の男から圧力は感じるけど、今の俺なら何とも思わない。

 変異種に比べたら、怖いものなんて無いよ。


「その服装を見るに、自衛隊もやられたのか?」


「無事な基地や駐屯地はあります。俺達が行った駐屯地は残念ながら、ですけどね」


「そうか。だから永田町の魑魅魍魎共が動き出したんだな」


「魑魅魍魎? 何か知っていると?」


「一般人と名乗る君には、理解できない世界があるんだよ。あそこは伏魔殿だからね」


 ここから色々と話は聞いたが、口外できない話ばかり聞かされたよ。

 個人名を出して他国と繋がっているとか、便宜を図っているとかさ。

 巷の噂話の真実を聞かされても、どう反応して良いか分からない。


 でも1つだけ公安警察に関する話も聞けた。

 きな臭い話だが、今の公安委員長と米軍の繋がりはありそうだ。

 ただ米国の直接的な介入は無いとも言っていた。


 あちらの国も利権争いが激しいらしいよ。


 結構長い話し合いの結果、俺は柳田議員とこの集団を連れて行く事を決める。

 俺達の目的地まで一緒に行くかは分からないが、途中の都市に同じ派閥の議員が生きているらしい。

 移動手段もあるそうだし、こちらの負担にならないなら良いと思ったんだ。


 それに公安警察との戦いは、俺達のコミュニティだけでは太刀打ちできない。

 だから協力関係を結ぶ事で、生存確率をあげる事にしたんだ。

 信用はしてないから、お互いに干渉は避けるという約束だけどな。


 もう宿探しも面倒だから、この家の一室を借りて休む事にしたよ。

 りさちゃん達を迎えに行ったら、既に寝てたけどな。

 委員長はちょっと怒ってた。


 まぁ思ってたより長時間出て来ないから、心配かけたみたいだ。

 

 素直に謝っておいたけどな。







◇◇◇






 翌日。


 お互いの紹介を改めてしたんだが、何処から湧いて来たのか?

 疑問になるぐらい人数が増えていたよ。

 あちらの総勢は20名。


 乗用車が1台と4トントラック2台で移動するらしい。

 ディ-ゼル燃料を少し分けて貰えたから助かったよ。

 少し不安だが、怪我人の女性の看護にビッチが同乗。


 準備を整えるのに1日だけ時間を作り、俺達は合流を目指して出発した。


 途中で立ち往生したり、体調不良者も出たが休憩ポイントには到着。

 広めの建物に食料が置かれていたので、タケシ達も無事だと確信。

 少しばかり非常食も分けて、あちらとの関係も近づいた。


 そしてその2日後、遂にタケシ達と合流。



「お疲れさん。後ろの団体さんは何者だ?」


 タケシが嬉しそうに声をかけて来たが、そう言うタケシ達にも同じ問いかけがしたい。

 

「後でちゃんと説明するけど、片桐さんは知ってるみたいだな。握手してるし。それより。そっちもどう言う状況なんだ? かなり人数増えてるけど?」


「ああ。ちゃんと説明するさ。非常食も増えたんだぜ?」


 

 楽しそうに説明を始めるタケシ。

 俺達とはぐれた後、彼らも立ち寄った街で生存者と遭遇。

 ひと悶着あったそうだが、お互いの誤解を解き和解。


 ここでも片桐さんの知り合いが居たらしく、協力関係を築く事になったそうだ。

 あちらからも非常食や服飾品の提供も受けていて、関係は良好だそうだよ。

 ただ問題もあって、怪我人が多いので医薬品が足りないとの事。



「マズいな。こっちも怪我人が居るんだよ」


 

 既にコミュニティの内科医の元に運ばれた女性。

 何とか助けて貰わないと、柳田議員達との関係にヒビが入る。

 そこで近場の都市に、医療品を探しに行く事になったんだ。


 予定は少し狂うが布なども必要になるし、医療品の不足は他人事じゃないしな。



 団体で動くと余計な燃料もかかるので、少数精鋭で向かう。

 日本は病院の数が多いから、こういう時は助かるよ。

 ただ、まともな物は手に入らないだろうけどな。


 向かうのは俺の仲間達4名とタケシと妹ちゃん、それに柳田グル-プから将司君と数名。

 タケシ達が合流したグル-プからも志願者が出たよ。

 あまり目立つのもあれなので、4輪駆動車と平の4トントラックの2台で向かう。

 ゴボウ医師とビッチは、医療班として残ってもらった。

 ケンも残ってくれたから、何かあっても対応はしてくれると思う。



 出発してすぐに、ゾンビと遭遇。

 俺は戦力も知りたかったので、一切手を出さなかった。

 見た感想は、正直こんなものかという感想だ。


 将司君達は論外。

 もう少し頑張らないと、怪我をすると思う。

 多分映画やドラマの影響も大きいんだろうけど、頭を潰す事に目が行き過ぎてるんだ。


 掴む力も強いから、動きを封じるのが先なんだよ。

 これならまだ、タケシ達と合流した人間達の方が良く戦えている。



「なぁタケシ。アレって妹ちゃんが指導した?」


「いや。ケンが熱心に教えてた。お前に教えた事で、何かスイッチが入ったみたいでな」 


 

 一緒に行動するなら、少し戦い方を教えて貰っても良いかも知れないな。

 対応が終われば直ぐに出発し、1時間ほどで目的の街へ到着。

 

 この近辺を知っている人が居るらしいので、俺達は後ろを着いて行った。


 街中の小さなクリニックなども見に行ったけど、殆んどが使えない物ばかり。

 ビルの上階にあった医院で、備品を少し手に入れられたぐらいだ。

 その後に大きな病院へ行ったんだが、そこで思わぬ被害が出た。


 広めの場所に駐車したんだけどさ。

 トラックの荷台から降りた将司君の連れが、側から這い出て来たゾンビに噛まれたんだよ。

 こうなると、もう連れて帰れない。


 非情だと思われようが、これだけは譲れないんだ。



「待てよ! 助かるかも知れないじゃないか!」


「無理だ。お前のわがままで、仲間を危険な目に合わすつもりか?」


「そ、それは......でもコイツは妹の為に!」


「勘違いするな。それはそちらの事情だ。文句があるなら、自分達だけで何とかして見せろ」



 ここで甘い顔を見せれば、待っているのは二次被害だ。

 それだけ今の現状の情報が、入っていないんだろうけどな。

 食い下がる将司君だったが、誰も賛同は得られない。


 こういう時に思う。ちゃんと言ってやれよって。

 いつも悪役は俺だよ。


 でも当の噛まれた本人は、苦しみながらも将司君に言った。



「ボン。先代にはお世話になりやした。誠に無念ですが、あっしの事は忘れて下さい。ボンには姉御を助けてもらわなきゃいけねぇ。おいシンジ! ドス持ってこい」


 

パンッ!




「てめぇえええ! 何しやがるんだ! 殺してやる!」


「お涙頂戴も良いけどな。覚悟を決めた人間を、苦しませて死なすのか?」



 空気の読めない男ですまない。

 

 もう見てられなかったんだよ。

 古い任侠の世界があるのかも知れないが、刃物を自分で刺して死ぬって相当苦しいだろう?

 見せられるこっちは、たまったものじゃ無いよ。


 だから撃った。

 

 恨まれるのも承知だし、襲って来ても良いよ。

 情けをかけるのなら、自分の手を汚すべきだろう。


 俺は大切な物を守る為なら、鬼になるしな。


 暴れる将司君をシンジと呼ばれた男が必死で抑えている。

 俺の仲間やタケシと妹ちゃんは、それを冷たい目で見てるよ。

 もう一方のグル-プの人間は......ドン引きか。


 遺体は協力して丁寧に扱い、その場で焼却されたよ。

 戻る途中で蘇るからな。

 その扱いにも将司君は、不満を隠さなかったけどさ。


 気分が重いまま病院内を探索し、必要な物を確保。


 帰りも終始無言だったが、やはり帰ってからひと悶着起こった。


 将司君は俺の行いを非道だと訴えるんだが、大半の人間から賛同を得られないんだ。

 皆それぞれ悲しい現実を見て来ているんだと思う。

 俺も自分のマンションに引きこもってたら、今頃怒り狂っていたかもな。


 それでも俺を見る目は、明らかに変わったけどさ。

 良く見慣れた目だ。

 憎悪、嫌悪、嫉妬。総じて好意的ではない目。


 でも仲間達だけは、そんな目を向けない。

 だから一緒に入れるんだろう。

 俺はその日から極力、皆と関わらないようになった。


 立ち寄る街での探索も、自分の仲間達だけで行ったよ。


 暫くすると団体の雰囲気も落ち着いて来たから、ホッとしていたんだけどさ。

 

 この時の遺恨は、根深い物があったんだよ。

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