表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/126

1-9 ご飯を食べよう!


~前回までのあらすじ~

 怪獣の声かと思ったら、お馬鹿王子の腹の音だった!


     ☆ ☆ ☆


「まったく、紛らわしいのよ!」


 ぷんすか、とあたしは苛立(いらだ)ちながら皆と8階に戻った。

 リビング・ダイニング・キッチンが揃った公共フロアだ。


「うぅ~……でも、もう限界なんだもん……」


 キ゛エ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァァァァァァ―、と。


 やはりこの世を崩壊たらしめん異形の怪物の絶叫のような轟音を腹から響かせて、マロンが言った。


「うおおおおお、耳が壊れるうううううううう」


 あたしは両手で耳を覆いながら、マロンに聞いてみる。


「あんた、そんなに長いこと食べてなかったの?」


「うん。もう2時間くらいなにも食べてない……」


「2時間!? 1日何回食べる気!? 燃費悪すぎでしょ!」


 たった2時間食べないだけで、あんな天変地異の如き轟音と地響きを立てられちゃたまったものじゃない。

 っていうか、どんな消化器官してたら腹からあんな奇音を発することができるわけ!?


「まあ、でも……色々ドタバタしたからあたしも小腹が空いちゃった。夜食でも作りましょうか」


「ほんと!? やった~~~~~~~!!!!!」


 さっきまでこの世の終わりのように沈んでいたマロンが、急に飛び跳ねて喜びをあらわにした。

 まったく、ご飯が食べられると分かった途端に……現金なやつね。


「へえ、()()()()してたんだ。お疲れだったね、カグヤちゃん」


 クラノスが他人事のように言ってきた。


「おいおい、そのドタバタの1500%があんた達のせいだぞ☆」


 まったく、相変わらず余計なことばっかり言って。

 こういうことが続くからあたしの心労が溜まって、お腹も空いちゃうんじゃない。

 ドカ喰いで太ったらどうしてくれるのよ。


「カグヤ~~~~夜食まだ~~~~……?」


「宣言してから20秒じゃ何もできないわよ……未調理の生肉でもその口にぶち込めばいいのかしら。ちょっと待ってなさい」


 は~い、と大人しくマロンが言った。

 生肉に関しては特にツッコミはなかったので、もしかしたらOKなのかもしれない。

 今度時間がないときはそうしよっと。


 そして。


「「………………」」


 その隣で、ミカルドとクラノスもなんだか〝そわそわ〟し始めた。


「「……ソワ……ソワソワ……ソワソワソワ」」ソワソワソワソワ


「あーーーーーもう! 分かったわよ! 口に出すどころか言外にまでソワソワ出すのやめなさい!」


「む? ということは……」


「はあ」あたしは溜息交じりに言ってやる。「安心しなさい。あんたたちの分も作ってあげるから」



 ふたりは満足そうに笑った。



     ☆ ☆ ☆



「うわああああああ~~~~~……!!!」


 マロンが大声で叫んだ。


「お、お、お……! おいしいいいいいいいい~~~~~~!!!!!」


 目をきらきらと輝かせて。頬は幸せそうに緩んでいる。


「ほんと? よかった」


 ふふん。これでも、あたしは料理には結構自信があるのだ。

 この塔に閉じ込められて暮らす以上、楽しみといえば毎日のご飯くらいしかなかったしね。


「……む、ぐう。これは確かに、旨いな」とミカルド。なんで悔しそうなのよ。


「信じられない……! 誰でもひとつくらいは特技があるものなんだね」とクラノス。失礼か!


「カグヤは天才だよ~~~! 今までで食べたご飯の中でいちばんおいしい! 一生食べてたい!」とマロン。さすがに言い過ぎじゃない!?


「……こうも褒められると、逆に心配になるわね」


 と、口では言ってみたものの。

 賞賛の言葉を彼らから聞けてあたしはとっても安心した。

 料理に自信はあったけれど……だれかに食べてもらうのは、これがハジメテだったから。


 お陰様でこれからようやく〝料理が得意〟って胸を張って言えるわ。


「……あれ? でもさ」


 クラノスが気づいたように訊いてきた。


「カグヤはこの塔から出られないんでしょ? だったら――この料理の()()は、どうやって手に入れてるの?」


「ああ、それはね」


 別に隠す必要もないかなと思って、あたしは正直に答えた。


「【ゴンタロ】からもらってるの」


「む……ゴンタロ? 我らの他に先客がいたのか」


 あたしはぱちんと手を打って、「あ、そっか。紹介してなかったわね」


「外に出られないカグヤの代わりに、そのゴンタロって人が持ってきてくれるの?」


 マロンが首を傾げながら言った。


「うーん、まあ、そんな感じかな」


「……そいつとは、長いこと暮らしているのか?」とどこか不服そうにミカルド。


「そうね。あたしが目を覚まして以来ずっとだから、長いかも」


「――ふん、そうか」


 あたしの答えを聞いて、ミカルドはなぜか余計に不機嫌になった。

 なにか気に障ることでも言ったかしら? ま、気にしないでおこう。


「この塔で暮らす以上は必ずお世話になるだろうし、今のうちに紹介するわね」


 こほん、と咳払いをしてからあたしは立ち上がる。


「こちらが、あたしが塔で暮らす上で全幅の信頼を置いている頼れる相棒(パートナー)――」


 あたしはリビングの奥へと歩いていって。

 大げさなくらい身振り手振りをしながら。


 3人に向けて〝親愛なるパートナー〟を紹介してあげた。



「その名も――【ゴンタロ】よ!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ