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2-27 パーティを開こう!


「マロンの野郎は……もう()()だ」


 アーキスが言いにくそうに唇を歪めた。

 まわりの王子たちも気まずそうに視線を床に落としている。

 

「だめって……うそよね? 確かに数日どころか()()()ご飯を食べないだけで発狂しちゃうくらいの大食漢だったけど――」


 もしもの事態をあたしは想像する。

 どうしたって信じたくはなくて、ふるふると可能性を否定するように頭を振る。


「カグヤの言う通り、やっぱり空腹に耐えきれなかったみたいで」


 クラノスが悲痛さを滲ませた口調で。

 とうとうマロンの現在について――語った。


「マロンは絶望の末に――〝土〟を食べ始めたんだ」


「土を!?」


 空腹に耐えきれなくなったから〝土を食べる〟って。

 まったく理解が及ばないんですが。


「え、それって……大丈夫なの?」


「大丈夫なわけあるかよ」アーキスが苦渋の表情で言った。「日に日にやせ細ってやがるぜ」


「ですよねーーーーーー」


 むしろやせ細るだけならまだマシだ。

 絶対に身体の各種器官に他の悪影響出るでしょ! なんかの幼虫じゃないんだから!


「マロン――いまも、食べすすめてる」アルヴェが胸の前に手を当てながら言った。

 

「え? いまも……?」

 

 あたしは慌ててベッドから起き上がって(一瞬立ち眩みしそうになったのをみんなが支えてくれた)、窓辺へと駆け寄る。


「マロン!」


 窓から見下ろすと、そこには――


 塔の前の地面に〝巨大な穴〟があいていた。


「うわーーーーーでっかい穴ができてるーーーーーー!」


 そして。その中心では。

 ぺらっぺらの紙みたいに痩せ細ったマロンが。

 前述の言葉通り〝なにかの幼虫〟のように、くねくねと身体を動かしながら土を貪っている姿があった。


「あ、……カグヤ……」


 マロンがあたしに気づいた。

 顔を蒼白にさせギリギリの様子で彼は言う。


「よかった。目がさめたんだね~……がくっ」


「限界迎えたーーーーーーーーー!」


「……あ、そうだ。ひとつだけ、」


 マロンがふたたび頭を起こして。

 残った力を振り絞って〝言い残したこと〟を伝えてくれた。


「あのね……普通の土よりも、腐葉土の方が〝甘味〟があって、美味しいよ~……」


「だからなんかの幼虫かい!」


「最後にみんなの役に立てて、よかった……がくっ」


「「マローーーーーーーン!」」」


 マロンは満足気な表情を浮かべていたけれど。

 〝食べた時に腐葉土の方が甘い〟などという情報はこの先どうしたって役に立ちそうもなかった。


「マロン……いつか立派な成虫になれますように……」


 天に祈りを捧げていると、背後でふたたび誰かのお腹の音が鳴った。


「こ、今度はおらじゃないべよ……?」


 イズリーがそう言って手を振っていたけれど。

 みんなはご飯も食べずにあたしの回復を待ってくれていたのだ。

 お腹のひとつやふたつ、そりゃ鳴るわよ。全然恥ずかしいことじゃない。

 むしろ――


「よしっ! 今からご飯にするわよ!」


 ぱちん、と大きく手を打ってあたしは宣言する。


「んだ!? いきなり動いて大丈夫だべか……?」とイズリー。


「もうちょっと、ねてたほうが――」とアルヴェ。


「大丈夫大丈夫! ほら、このとおり」


 あたしは無事をアピールするように、大げさに身体を動かしてみせた。


「あんたたちのお陰でいっぱい休めたから、前より元気になったくらいよ」


 それでも王子たちは心配そうな表情を浮かべてくれたけれど。

 なにより〝お腹が空いてる〟のはあたしだって同じだ。


「さあさあ! あたしの回復パーティーなんだから! 大盤振る舞いしてあげるから覚悟しなさい!」


「「「やったーーーーーーーーーー!」」」


 王子たちが喜びを爆発させるかのように飛び跳ねた。

 塔の外からも歓喜の声が聞こえてくる。さすがマロン、ご飯のことに関しては地獄耳ね。


「んだらば、ミカルドさんも起こすべ――」


「あ、待ってイズリー」


「んだ?」


「ミカルドは起こさないで、そのままにしておきましょう」


「いいんだべか……?」


「いいのよ」


 涎を垂らしながら床で寝息を立てるミカルドに視線をやりながら。

 あたしは口角をあげて言ってやる。


「あたしのこと、ずっと付き添って見てくれていたんでしょう? きっと疲れてるし、起こしちゃ悪いわよ」


「それもそうだべか」


「そうだべそうだべ~」とあたしは真似しながら王子たちを促す。「それじゃ早速8階に移動するわよ!」


「「おー!!!」」


 床で眠りこけるミカルドをそのまま放置して。

 他の王子たちは浮足だった様子で階段を駆け下り始める。


「ふふ。無邪気に寝ちゃって」


 イズリーにああ言ってはみたものの、あたしは知っているのだ。


 ミカルドの性格上、きっと自分の知らないうちに〝パーティ〟が行われたことを知ったらきっと『なぜ起こしてくれなかったのだ!』と悔しそうに文句をつけてくることを。


 だからあたしは。


 

 ――絶対に、起こしてなんかやるもんか。



 これは許可なくあたしのことを()()()()()()()()〝罰〟なのだ。


「あとからたっぷりと悔しがるといいわ」


 そんなことを呟いて。

 

 未だ身体を包み込むように残る〝王子様の熱〟を感じながら。

 心にこびりついた余韻に頬を赤らめながら。



 あたしは自分の部屋をあとにした。

 


     ☆ ☆ ☆



 こうして森の奥深くにある塔――エヴァの中で。


 7人の〝王子様候補〟と、ひとりの〝お姫様希望〟の生活は。


 これからもくるくると目まぐるしく続いていくことになった。


「カグヤ!」


 塔の8階、共用部(LDK)。いつものオープンキッチンで。

 調理の準備のためにエプロンを戸棚から取り出していたら、名前を呼ばれた。


「どうしたの? みんなであらたまって」


 首を傾げていると、目の前の腹ペコ王子たちは。

 どこまでも爽やかで――王子様らしい微笑みを浮かべながら。


 言ってくれたのだった。



「「――おかえり!」」



 エプロンの紐を結びながらあたしは振り向いて。


「……みんな」


 この場所から外に行けないあたしにとっては()()()()()()、だけど不思議と温かな気持ちになる当たり前の言葉で。


 いつもの笑顔にちょっぴりだけ感情を上乗せ(サービス)して。

 

 返してあげた。




「えへへ――()()()()っ」




これにて第2章『増殖する王子様(プリンス)★』篇が終了です!


次回より7人の王子様候補とカグヤの過去の記憶、

そして恋の行方が明らかになる激動のクライマックス――


最終章『帰還するお姫様(プリンセス)☆』篇にいよいよ突入です。


ここまでお読みいただき本当にありがとうございます!

よろしけらばページ下部より★評価やブックマーク等もぜひ。

引き続き本作をよろしくお願いします。

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