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3-67 邪神を召喚しよう!(地球帰還大作戦⑯)


 そこは塔が建った(立った? この場合どちらも使えるのかしら。文字通り塔を突き()ててたし)場所からすこし離れたところにある湖畔だった。


「あ、カグヤ――」


 あたしのことを見つけてくれたアルヴェが安堵の声を出して、あたしに駆け寄ってきてくれる。


「よかった、しんぱい、した――」


 思わずあたしはアルヴェのことを抱きしめようとしたけれど、すんでのところで我慢して――やっぱり()()()()()。今日くらいはいいわよね。今までずっと我慢してきたんだもの。


「カ、カグヤ……?」


 胸の内で抱きとめられたアルヴェは驚いたように目をぱちくりさせている。

 

「どう、したの――?」

 

「えへへ。今までの分のお礼。アルヴェ、ありがとう――」

 

 アルヴェは最初は頭の上に『?』マークを浮かべていたが、やがて頬を微かにほころばせて、いつもの無表情を崩して。


「こちらこそ、あり、がと――きゅー」


 そして。

 きゅー、っという。

 破壊力抜群の擬音つきで、小さな白い掌であたしのことを抱き返してくれた。


(~~~~~~~~~~っ!?!?!?!?!?!?!?!!!!!!)


 あたしの中のリトルカグヤは完全にオーバーヒートし『ボフン』と音を立てて煙を出し(比喩的にじゃなくて本当に出てたと思う)、今後数年間はこの瞬間のことを時折思い出しベッドや床や地面を奇声を発しながら転がりまわることになることが約束された。


「あ、あのね、カグヤ――」


 すうっとアルヴェがあたしの抱擁から離れた。

 あたしは『あっ』と名残惜しさ満載の息を吐くが、アルヴェはすこし自慢げに、


「なおしてもらってたの――カグヤがおきてきたら、きいてもらおうとおもって」


 そう言って湖畔に置かれたピアノをさした。


「あ! ピアノもちゃんと無事だったのね」


 どうやらピアノもクラノスの魔法に守られた上で地上に落下したらしい。

 完全に無事、とまではいかなかったが壊れた部分はアルヴェが乗ってきた例の【桃】が魔法で直してくれたとのこと。

 え? 意思疎通できて空も飛べてビーム発射できる上に完全修復魔法まで使えるって一体あの大桃様の正体なんなの? と思ったけどアルヴェが幸せそうだったので許した。


「調律もおわったから――よかったら、きいてほしい」


 そう言ってアルヴェは椅子にちょこんと腰かけて、ひらひらのメイド服姿で演奏をし始めた。

 奏でられたのは、これからの未来を祝福するようなとても優しく希望の旋律(メロディ)に溢れた曲だった。


「「……うん?」」


 その演奏に引き寄せられるようにして、他の王子たちや使い魔……だけじゃない。

 森に()んでいたであろう(そして隕石の激突により生命の危機を感じ逃げ隠れしていたであろう)動物たちもこの湖畔に集まってきたようだった。


 そんな世界全体に幸せを届けるアルヴェの演奏を――問答無用にかき消す笑い声が、遠くから聴こえてきた。


『クハハハハハハハハハハハハハ!』


「この特徴的な笑い声……オルトモルト(ドラゴンのすがた)ね!」


 アルヴェの演奏を邪魔されたことで思い切り舌打ちをしてから見上げると、その遠くの空から黒い翼をはためかせて黒龍化したオルトモルトがやってきていた。


『クハハハハハ! クハハハハハ!』と中二的な(わら)い声を響かせながら、空をくるくると縦横無尽に旋回飛行している。


 やがてあたしたちがいる場所のちょうど上を差し掛かったところで……。


『クハハハハハ……ム?』


 突如その黒い巨体が光に包まれた。

 その光は小さくなりやがて人型を形作ると、もとのオルトモルト(ぜんらのすがた)に戻ってしまったのだった。


『クハアアアアアアアアアアア!?』


 そして当然翼を失くした彼は重力に従って真っ逆さま。

 地上に墜落する直前でシショーが手を伸ばして助けてくれた。

 巨大な肉球がトランポリンみたいに作用してぽよんとオルトモルトが跳ね、そのまま地面に転がり落ちる。


 イズリーに『これ、着るといいべさ……』と差し出された布を腰にまいて、オルトモルト(ぜんらのすがた)からオルトモルト(()()ぜんらのすがた)に進化した。


「ちょっとオルトモルト! せっかくのアルヴェの演奏を邪魔しないでちょうだい!」


『演奏、だと……? 逢魔が時に舞踊曲(ロンド)背景(バック)不運(ハードラック)(ダンス)っちまうにはまだ早いのではないか……?』


「なんか後半の台詞、もはや中二病でもなんでもなくない!?」


 と一応つっこんでから、


「ていうかオルトモルト、あんた今まで何してたのよ? みんなはこの付近の復旧とか色々してくれてたけど……あんなに気持ちよさそうに空飛んじゃっててさ」


 とはいえ。

 オルトモルトは言ってることは意味不明なことが多いけど、決して悪いやつではない。

 もしかすると付近の空を飛んで偵察とか、異常がないかとかを確認してくれていたのかもしれない。


 オルトモルトは相変わらずの大げさな身振り手振りをしながら(パンイチだからまったく格好がつかない)、顔の前に掌を当てて、

 

「ククク……空飛ぶのが気持ちよくて飛んでいたのだ!!!!」

 

 堂々と遊んでいた宣言をしてのけた。


「やっぱり自分が楽しんでただけじゃない!」


「クハハ! せっかく()()()より授かった御力だ。此処で堪能せねば失礼にあたるであろう……!」


「……ま、もう変身は解けちゃったわけだけどね」


 あたしは溜息をついてから、そういえばと尋ねてみる。


「その【邪神様】ってどうなったのよ。復活するとかどうたら言ってたけど」


「……?」オルトモルトはそこで眉をしかめて怪訝な表情をした。「何を言っているのだ。既に邪神様は()()()()()()ではないか……!」


「ええっ、そうだったの!?」


 初耳で衝撃的な事実が飛び込んできた。 

 邪神が復活した? それって大丈夫なわけ……?

 一難去ってまた一難というか……せっかく苦心して地球に帰ってきたのに、それが邪神によってまた滅ぼされたりなんかしたらたまったものじゃない。


 しかしオルトモルトは、


「クハハ……! 邪神様はすでに……()()におわする……!」

 

 そういって地面にかしずいて、何故か〝あたしのこと〟を拝めるように低頭してきたのだった。


「……って、あたしかあああああい!」


「当然であろう。世界を一度に限らず()()()()()()()()()()であるぞ……! この広大たる空から大地に降り立ったその様子は、まさしく天より降臨されたと同義……!」


「二度目はあたしだけじゃなくて連帯責任でしょうが! あたしひとりに責任転嫁しないでちょうだい! ……特にまわりで『確かにその通りだ』って頷きながら()()()()浮かべてる王子ども!」


 はあ、はあ、と息を切らしながらあたしはツッコミ叫んだ。

 まさかオルトモルトの中の邪神イコール〝あたし〟だったなんて……。

 これならまだ【月狂いのお姫様ルナティック・プリンセス】の方がましよ。


「はあああああ」あたしは大きく溜息を吐いて、「ま、それはそれでいいとして」


 全然よくなかったけど、深く突っ込んでも泥沼でしかなかったからあたしはひとまず自身が邪神であることは脇に置いておくことにした。


「その【邪神様】とやらが復活しちゃったらどうなるのよ? すくなくともあたしは、今のこの地球(セカイ)を滅ぼしたりする気はないわけだけど」

 

 その質問にオルトモルトは。

  

「ククク……! そんなものは決まっておるだろう!」

 

 やっぱりどうしようもなく〝邪神の眷属〟っぽい雰囲気を醸し出しながら言うのだった。


「邪神様がご復活された(あかつき)には……世界は、()()になるのである……!」


「……へ?」

 

 クハハハハハハハハハハ!

 というどこまでも作ったような笑い声が響く中で。

 あたしもつられて笑ってしまった。


 世界が平和になる。

 うん。世界が滅びるよりはずっといいことだ。


「そうね。今度はきっと、平和な世界を――」


 ぽろん。ぽろろん。

 アルヴェの演奏が再開した。

 彼女みたいな彼の口元にも微かに笑みが浮かんでいる。

 

「ああ、そうだ! カグヤに言い忘れてた!」


「え?」


 すると王子たちはあたしにあらためて向き直って。

 そのどこまでも整った顔を(ほの)かにほころばせて。嬉しさを滲ませて。

 

「今度こそ、ちゃんと言えるかなって思って」


 なんのことだろう、と首を傾げているあたしに向かって言ってくれた。


「「カグヤ――()()()()()!」」


「……っ!」


 『おかえり』という言葉に対して応えるのは、きっと4文字のあの挨拶だ。

 ひとつの場所から外に()()()()()()あたしにとって。

 言いたくても言えなかった、言ったとしても言い慣れなかった当たり前の言葉の応酬(おうしゅう)


 だけど……そのやり取りは塔にいた時とはちょっぴり違う。

 みんなと違って〝帰る場所〟がなかったあたしにとって。

 帰るべき場所が――みんなと居られる場所ができた今のあたしにとって。


 どこまでもハジメテで。

 あたたかな気持ちになれる言葉を。


 あたしは言った。

 

「みんな――()()()()()


 満開のあたしの笑顔に。

 みんなは〝すき〟の延長線上で笑った。


 ぽろん。

 ぽろろん。

 

 森の奥深くの湖畔。

 幻想的な光景のもと、お姫様みたいな王子様が白と黒の鍵盤で奏でるおとぎ話みたいな音が。


 

 ――あたしたちのいる地球(セカイ)に、どこまでも響き渡った。


 


いよいよ完結まで間もなくです……! ここまでお読みいただきありがとうございます!

よろしければページ下部よりブックマークや★評価などもぜひ。

(執筆の励みにさせていただきます――)

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