苦痛と絶望を、ちっぽけな勇気で
初の短編となります!(思いつきで書いたので、クオリティーはお察しください)
「近寄らないでよ、マジキモいんだけど」
目の前には、ギャルっぽい格好の同級生、『朝日 夏菜』が、ゴミを見るような目で
俺を睨んでいた。
その瞬間俺は悟ったよ…ああ、また同じ過ちを繰り返すのか…と。
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急に昔語りをして申し訳ないが、俺は昔から異常なほどに正義感が強かった。中学時代
は風紀委員、絵に書いたような性格だった。規則から外れる者を許さず、自分が正しい
いと思い続けていた。実際ダメなことをしているわけではないが、取り締まられる側と
しては面白くないだろう。それも自分と同じ学生に注意されるわけだ、次第に俺は学校
の中で浮いていった。当時の俺は、何故浮いたのかのか理解できなかった。
そんな俺に、気兼ねなく話しかけてくれる人が居た。『桜 希』、メガネをかけてい
て、前髪重めの目立たない女子だった。クラスのバカどもとは違って(当時の評価)校
則を厳守していたので、俺の中では高評価だった。クラスで浮きまくっている俺にとっ
て、唯一の話し相手だった彼女に、俺は甘えてしまった。当時の心情を余すこと無く伝
え、事態の解決を図ろうとした。しかし、それがいけなかったんだろう。
彼女は俺に協力してくれた。ただ、嫌われ者の俺に協力したのだ非難を受けていた。
その当時の俺は、その事に気づかなかったけど。
そしてある日、俺の、ささやかな日常さえも壊す事態が巻き起こる…
なんと、俺が桜を虐めていたという話が出回った。その話によると、俺はクラスの人を
脅して、虐めに加担させていたと言うらしい。当然、俺は否定した。しかし、クラス全
員の証言、そしてなにより桜が「虐められました」と証言したのが決め手だったのだろ
う。その瞬間、俺はようやく「裏切り」に気がついた。
俺は教頭のもとで延々説教を続けられた。俺はなんどもなんども否定した、冤罪だ、俺
はやっていない、と。だが、聞く耳を保たれなかった。
「犯人は皆同じことを言うんだ」の一点張りだった。俺が通っていた中学校は、生徒の
民度を売りにしていた。その反動か、俺は無期限の謹慎処分となった。
もちろん快く受け入れるはずもなく、反対したが「少年院に差し出すぞ」と言われてし
まった。家族に迷惑をかけるわけにはいかない、俺は泣く泣く謹慎処分を受け入れた。
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俺が学校に復帰できたのは、2年に進級するときだった。どうやら、クラスが入れ替わ
るタイミングで戻したほうが、いくらか周りの当たりも緩やかになるだろうというささ
やかな学校側の配慮かもしれない。しかし、そんなことはなかった。すでに俺は学校中
に知れ渡っており、『最低』のレッテルを貼られた。それだけ、虐めが珍しかったのだ
ろう。そんな周りから目を背けるため、俺は部活に打ち込んだ。俺はバスケ部に入って
いたが、その部員たちからもひどい扱いを受けた。一応、学校側は許した、という認識
なので、退部になったりはしなかったが。
そんな俺に、拠り所となってくれる人が居た。今思えば、2の舞になるだろうと思う
が、この頃の俺は心まで傷ついていた。そんな小さなリスク管理をする能など無い。
俺は3年の先輩、『風早 翔』さんにすべてを打ち明けた。風早先輩は、身も心も絵に
書いたようなイケメンで、そのせいで人間関係のトラブルに巻き込まれたこともあるそ
うな。自慢じゃないが、俺の容姿はそこそこよかったらしい。
先輩は俺に、「いっそ地味になってみれば?」と言った。中学の間は諦めるにしても、
高校からはとにかく地味、目立たないを徹底する。出る杭は打たれる、とはよく言う
が、当時の俺はまさに『出る杭』だったのだろう。
俺は先輩に言われたとおり、髪を伸ばし、少し茶色がかっていた髪を(もともと茶髪だ
った)黒に染め、伊達メガネをかけた。完全な陰キャスタイルの完成だ。家族は俺の変
化に驚いたようだが、何も言わなかった。
するとどうだろうか、周りは俺を一切気に掛けなくなった。印象は悪いままだったが、
何かを言ってくるわけでもない。こうなると、俺の学校生活は一気に楽になる。今まで
背負って重りを下ろすことができたのだから。無事卒業し、地元の高校に行くことがで
きた。幸い、勉強ぐらいしかやることがなかったので、特に苦労はしなかった。
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当然、高校デビューもこのスタイルだ。というか、2年もこんな生活を続けていれば
自然体となってくる。今更前のようには戻れない。
そんな、身も心もフル陰キャな俺に、近づいてくるやつがいようとは…
「ねえ君、前髪めっちゃ長いけそれで前見えるの?」
「えっと、確か朝日…」
「そそ、朝日 夏菜。気軽に夏菜って読んでくれていいから」
「そ、そうか。よろしく…」
「ねえねえ、髪上げてメガネ外したらイケメンとか…」
「そんな漫画みたいな展開、あるわけ無いだろ」
「アハハ!だよねぇー、君、結構面白いじゃん」
その瞬間、殺気のような視線を感じた。発信元は周囲の男子生徒。今更のように朝日の
容姿を確認するが、校則ギリギリまで短くしたスカート、髪を金に染め、ピアスを開け
ている。いわゆるギャルと呼ばれる人種だが、顔は圧倒的に可愛いし、
スタイルも良い。彼女に近づこうとする男子は多いわけで、つまり俺は今嫉妬されてる
わけだ。こんな弱小陰キャに対抗心燃やすなよ…などと思っていると
「んー?どうしたそんなマジマジと見て。もしかして、私に見とれちゃった?いやー、私ほどの美少女となると初見で惚れさせちゃうかー。でもごめんね~、私他校に彼ピいるから」
からかうような視線を向けてくる。
「別に見とれてたわけじゃない。あと、俺の知ってる美少女は自分を美少女なんて言わない」
「アハハ、それもそっかー」
後男子諸君、苦痛に染まった声をあげるのはやめるんだ。
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高校生活は、以外にも調子よく進んでいく。なにより、俺の中学時代を知っている人が
居ないのが理由だろう。俺はちゃんと『地味な陰キャ』として認識されているはずだ。
ただ、神様はよほど俺のことが嫌いなのか、俺に安らかな日常はくれないらしい。
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その日、夏菜に呼び出された。場所は学校からほど近いアーケードの裏路地。なぜそん
な場所なのかは聞けなかったので、たどり着いたら聞くとしよう。
指定された場所では、夏菜と思われる人と、もうひとり男が居た。長身で、長い脚のあ
の人は…
「か、風早先輩!?」
「やあ、久しぶりだね」
なんでここに…と思ってから、ようやく理解する。つまりこれは…
「校外の彼氏って、先輩だったんですね」
「そうだよ、そっちも、うまくやれてるみたいだね」
「はい、お陰様で」
本当に、感謝してもしきれない。
「それで、なんで今日は…」
「ここに呼び出したのか、だろう?今日はね…」
一呼吸おいて、先輩が口にしたのは…
「君を、殺しに来た」
「へ?」
頭の回転は割と早いほうだと思っているが、一切理解できなかった。
「安心して、何も命をとろうというわけじゃないから。社会的に死んでもらうだけ」
「な、何を…」
「今から夏菜に、『きゃー、助けてー!襲われる!』と叫んでもらう。そうすれば、君はもう終わりだ」
「…なんでこんなことを」
「なぜかって?それはね、君が嫌いでしょうがないからだよ!」
「気づいてないかもしれないけど、君はとても優秀だった。バスケ部に入ってすぐ、僕は君にエースの座を奪われた。あそこは年功序列とか気にしなかったからね。僕は今まで完璧だった、完璧じゃなきゃいけなかった!なのに君が、僕のキラキラの日々をぶち壊したんだ!」
「夏菜、頼むぞ!」
これまで一言も喋らなかった夏菜が、1歩前に出た。
「な、夏菜、やめ…」
「きゃー、助けてー!襲われる!」
野次馬が集まってくる、誰かが通報したのか、遠くからサイレンの音が聞こえる…
今回は、結末を先に書くというスタイルに挑戦してみました。
好評なら、連載版を投稿します(そうじゃなかったらお蔵入り)